『IWGP』最新作を発表! 石田衣良「格差社会の底辺にいても、最後まで諦めないでほしい」

週プレNEWS / 2014年9月2日 6時0分

『IWGP』最新作を発表した石田衣良氏。マコトのキャラクターには自身が投影されているとか

2000年に長瀬智也主演、宮藤官九郎脚本でドラマ化されて人気を集めた『池袋ウエストゲートパーク』(以下、『IWGP』)の最新作『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』が3年半ぶりに刊行された。

『IWGP』は作家・石田衣良のデビュー作として1998年に発刊され、今も若い世代から熱い支持を集めている。

今回も主人公・真島誠(以下、マコト)のもとにはさまざまなトラブルが持ち込まれる。マコトは自分の足と頭をフル稼働させ、鮮やかにそれを解決していく。人柄としても、老若男女に慕われる、まさに男が憧れる男だ。

実は、マコトのキャラクターには石田氏自身が投影されているという。そこで、一体どうすればマコトのようなイカす男になれるのか聞いてみた。

―3年半ぶりにシリーズ再開となった経緯から教えてください。

石田 3年半前の僕はちょうど50歳でした。それまで肩凝りや頭痛なんて経験なかったけど、そういう症状が頻繁(ひんぱん)に出てきたんです。検査してみたら、まったく異常はなくて、たぶんただの更年期障害だったんだけど(笑)。とはいえ、ちょうど『IWGP』も10作書いてキリもよかったので、ここらでひと休みさせてもらおうかと。それで、3年半休んでそろそろ『IWGP』を“再稼働”させてみるかと思ってね。

―首を長くしてシリーズ再開を待っていたファンも多いです。

石田 先日、サイン会をしたんだけど、そういう声をたくさんいただきました。印象に残ってるのは、サイン会に読者のお母さんがいらしていてね。すごくうれしそうな顔で「ウチのコは引きこもりだったんですけど、石田さんの本を読んで外に出られるようになりました」って話してくれて。やっぱり、『IWGP』を“再稼働”させる上で何か問題を抱えて閉じこもっている若い読者を少しでもこっち側の世界に引っ張り出したいって気持ちはあるね。




―今作では悩める若者が巻き込まれてしまいそうな、時事ネタが取り上げられています。

石田 ゼロ年代が終わって、10年代に入ってからまた世相が変わってきたと思う。特に問題なのは若者の間で広がった労働格差。その底辺に張りついているコの多くって投げやりに生きてる気がするんだよ。例の「危険ドラッグ」なんか典型的な話だと思うしね。非正規労働者の若者の多くって、低賃金で死ぬほど働かされているから暮らしは苦しい。そんなつらい生活の中で、唯一の救いが安価な危険ドラッグでしょ? それじゃあ、どんどん底辺に落ちていくよね。

―底辺に張りついて生きる若者はそこからいつまでも抜け出せませんか?

石田 そんなことないよ。だって僕も一緒だったんだから。フリーターの頃さ、「会社員になるのはイヤだ。自分の頭と腕だけで生き抜いてやる!」と決めて勉強したってだけ。結局、小説家になれたけど、その頃、必死に学んだ経験が生きているんだよね。だから、フリーターでもやれるんだよ。とにかくさ、自分の頭で考えて、自分の足でモノを見に行くクセをつけたら、今いる世界は絶対に変わっていくから。

―なぜ今の若者は自分の頭で考え、自分の足でモノを見に行かなくなっていると思います?

石田 検索1位、人気ランキング1位に飛びつき、みんなと同じものを見て、同じ考えでいることに満足、安心してるからじゃないかな? でも、その先にあるのは、みんなで沈んでいく生活だけどね。ボーっと一緒になって、「わーい、みんなと一緒で楽しい」とか言ってる場合じゃない。みんなと同じ価値観というのは沈む船の底にいるのと同じだと自覚しなければいけないし、そういう人たちが自分たちよりもっと弱い立場の人たちをいじめ始める。




―ヘイトスピーチですか。

石田 日本の「ヘイトスピーチ」もいろんな団体があるけど、いくらなんでもさ、在日朝鮮人学校に押しかけて、そこに通う子供たちに「出てけ!」だとか「死ね!」なんて言葉を浴びせるのは、あまりにもひどすぎるでしょ?

この問題で国連は「ヘイトスピーチ規制をやれ!」みたいな話をしているけど、法律で外堀を埋めるだけではダメ。僕たち自身が、この問題の本質は一体どこにあるのか、考えるべきだと思う。

―石田さんご自身は、この問題をどう考えていますか?

石田 まず興味深いこととして、ヘイトスピーチ側ばかり注目されてるけど、それを批判しているアンチヘイトスピーチ団体のほうが過激だったりするんだよね。

―ヘイトスピーチのデモに突入し、暴行容疑で逮捕されてますね。

石田 そういう行動を見ていると、僕は日本人がもつ“正義のスイッチ”って恐ろしいと思う。日本人が正義を人に押しつけるときの厚かましさや、考えの至らなさは怖い。それこそこれだけ「思いやり」だとか「共感」とか言っている割には押しつけるときってどちらもまったく関係なくなってしまう。その強制力の強い感じがボクはイヤでたまらない。もしかすると、この世界で最も注意すべきは「正義」かも。

―今作ではヘイトスピーチもそうですが、格差社会の餌食(えじき)になっている若者が描かれています。格差を脱却するにはどうすればいいと思いますか?

石田 「人生ってなんなんだろう?」と常に考えることだろうね。マコトもそうだけど、自分の頭ひとつで実は世界なんてすべてひっくり返せるんだよ。マコトみたいに自分の頭と足を使えばひっくり返すのなんて難しくない。何も行動せずに「僕にはムリだ」ってなる人が多いけど、もったいないよ。




―マコトは想像する力も強いですよね?

石田 想像力を磨くには女のコとどんどん付き合うこと。女のコといたら男の想像力なんて自然に磨かれるもんだよ(笑)。ただね、かわいい女のコって男の想像以上にけっこう陰で遊んでるからね。

まあ、若い男のコは一回さ、恋愛で裏切られたりして、どこかで今の自分を壊したほうがいいと思う。一回壊して、新しい肌をつくるの。筋肉と一緒。運動して壊して、壊れた結果、さらに強くなっていくから。それを自分の心の中でやったほうがいいと思う。自分の殻を壊す、新しくつくる。そうすれば、女のコのこともそうだし、自分が生きている社会の現実をもっと見抜けるようになると思うよ。

―社会の現実を見抜くために、恋愛以外にはどんなことをしていけばいいですか?

石田 一番いいのは、本を読むことだろうね。

―どんな本でしょうか?

石田 自分が読みたいと思えばベストラーに飛びつくのもいいけど、「みんなが読んでいるから」とか「売れているから」って理由で選んだ本は絶対にダメ。まず自分がどんな本を読みたいのか考えて探してみる。あんまり簡単な答えに飛びつかず、本を読んで、知識の幅を広げていったら、きっと世の中にあふれる“パチモン”を手にすることはなくなると思う。

そうやって、自分なりの価値観をつくり上げていけたら、自分を貫いて生きられるようになる。そして、ホントの意味で格差社会にも勝てると思うんだよね。それにまあ、本を読んだりして、文化に触れると、やっぱり人生は豊かになるんだよ。

―自分の頭で考え、足で稼ぎ、想像力を磨きながら本を含めた文化に触れる生活を送っていたらイカす男になれる、と。

石田 そうなれば、自分が望むチャンスなんていくらでも転がっているってわかるよ。だからさ、格差社会の底辺にいても最後まで自分を諦めないでほしい、ココは全然悪い世界じゃないから。スマホの検索結果を見て「どうせ俺はダメだから」ではなく、マコトのようにどんどん外に飛び出してみたらどうかな。

(取材・文/黒羽幸宏 撮影/榊 智朗)

●石田衣良(いしだ・いら)




1960年生まれ。大学卒業後フリーターとして過ごし、その後、会社員となる。36歳で小説家となり、『4TEENフォーティーン』で直木賞を受賞した。デビュー作の『池袋ウエストゲートパーク』はシリーズ化され、今回3年半ぶりに11作目を上梓。また、9月2日には『キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇』が文春文庫から出る

■『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』




文藝春秋 1500 円+税




石田衣良の代表作『池袋ウエストゲートパーク』の最新巻。主人公マコトが、池袋を中心に起こる現実の社会問題と絡んだトラブルを解決していくストーリー。今回は、危険ドラッグ、ギャンブル依存症、ノマドワーカー、ヘイトスピーチを扱った4編からなる




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