加藤嘉一「アメリカにおける人種問題は、今後ますます複雑化していきます!」

週プレNEWS / 2014年9月15日 11時0分

市民によるデモや抗議行動、暴徒化する一部の住民、重武装の警察や軍の圧力……。黒人青年射殺事件がたどった経過は、アメリカが抱える深刻な現状を表しています。

8月9日にアメリカ中部のミズーリ州ファーガソンで起こった白人警察官による黒人青年射殺事件は、その後の抗議デモ、一部住民の暴徒化といった経過も含め、日本でも大きく報道されたと聞きました。

ファーガソンという地域は、全人口のうち黒人住民の割合が約67%と、全米平均と比べかなり高い割合を示している一方、警察における黒人警官の割合はわずか5.6%。この数字が現状のアンバランスさを物語っています。

黒人住民を中心とした警察への抗議行動がやまないなか、20日にはエリック・ホルダー司法長官が現地を訪れて遺族と面会した後、「公正な捜査を約束する」という声明を発表しました。初の黒人司法長官である彼がわざわざ現地を訪問したことからも、今回の事件がアメリカ全体にとっていかに深刻な政治的問題であるかがわかります。

アメリカという国家は歴史が浅い。多くの移民を受け入れつつ、「価値観」と「制度」を充実させながら発展してきました。なかでも根幹となっているのが「自由民主主義」です。今回の事件はその根幹に関わる問題だからこそ、オバマ大統領が何度も声明を発表して事態の沈静化を促すなど、政府も必死で火消しをしているわけです。

今回の事件に象徴される白人と黒人の対立もいまだ深刻ですが、アメリカの人種問題は、今後さらに複雑化していくと予想されます。全人口における白人の割合が年々減少しているのはよく知られていますが、代わりに増えているのは黒人ではなく、移民として流入しているヒスパニックやアジア系。初の黒人大統領であるオバマ政権の誕生は、黒人だけでなく彼らの増加に起因するところも大きく、“非白人人口”における黒人の割合はむしろ低下しているという現実もあるのです。

今回の事件が起きたとき、ぼくは北京に滞在していましたが、このニュースは中国メディアでも大々的に報道され、高い関心を持たれていました。中国政府は、「民族(人種)問題は中国だけでなく、アメリカにもある」という現状を自国民にアピールしたかったのでしょう。

日本人にとっても対岸の火事ではありません。人口減少が続き、少子高齢化が進行する日本は、労働力を補うため将来的に多くの移民を受け入れる可能性もある。中国や東南アジア諸国から移民が大量流入してきたとき、彼ら、彼女らにどう向き合っていくか。今から想像力を働かせ、国民的議論を通じてさまざまなインフラを整備していくべきだと思います。

人種間、民族間、あるいは国家間の問題がしばしば複雑化してしまうのは、「そこにはいつも差別がある」「あいつらは○○だから」といった先入観が、事の本質を見えづらくするからでしょう。誤解を恐れずに言えば、今回の事件にしても、現段階では白人警察官の行動だけに非があったのかどうかはわからない。黒人青年にも不審な行動があったのかもしれない。人種問題である以前に、警官が公務中に一般人を射殺した事件として、正当防衛なのか、それとも「殺人」なのか、まずは捜査の判断を待つべきだと思います。

ぼくが思い出したのは、中国の工場で製造された「毒入り餃子」の事件です。あのケースでも、日中双方の捜査員が粛々と協力し、ひとつの国際刑事事件として解決を目指すべきだったのに、両国の面子(メンツ)や国益、国民感情といったファクターが複雑に絡み合ったことで外交問題に発展してしまいました。

人種差別は忌(い)むべきものですが、個々のケースに過剰な先入観を持ち込むことはかえって事実を隠してしまう。まずは冷静に事態の推移を見守り、ファクトで物事を語り、判断すること―それ以上の選択肢があるというなら、逆に教えて!!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)




日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェローを経て、現在はジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員。『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(集英社)など著書多数。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」が活動中!




http://katoyoshikazu.com/china-study-group/

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