このままでは海から魚が消える!日本の漁業も養殖ビジネスもすべてが悪循環という深刻な警鐘

週プレNEWS / 2014年10月13日 6時0分

漁業関係者、国、そして消費者も今のままでは魚食文化が滅ぶ!と憤りを交え訴える小松氏

「日本、中国、台湾、韓国が養殖池に入れるウナギの稚魚を制限」「中西部太平洋まぐろ類委員会で未成魚の漁獲高を2002年~2004年の平均水準の50%に削減することで合意」……先月9月、衝撃的発表の見出しが各紙で躍った。

これらの報道では最後に「今後も食べられるのか?」が決まり文句で語られるが、果たして今や“食べられるor食べられない”の話なのか?

国内外の漁業事情に精通する水産庁の元官僚で、官僚時代には国際捕鯨委員会の日本代表として舌鋒鋭く捕鯨反対国と議論を重ねた小松正之さんの著書『日本の海から魚が消える日』(マガジンランド)を読めば、もはやそんなレベルではない危機に直面しているとわかるはずだ。

なぜここまで日本の漁業は凋落し、魚が消える!とまで予測される窮状に陥ったのか? 小松氏を直撃した。

―『日本の海から~』では、日本の漁業そのものが衰退しているエピソードも衝撃的でした。以前、本誌で『養殖ビジネス』を特集した際、完全養殖の技術が確立されてもエサそのものに魚が必要な以上、解決すべき問題は多いと感じましたが、そもそもなぜここまで漁業資源が悪化したのですか?

小松 養殖はマグロなど水産資源悪化の大きな原因のひとつですね。マグロもウナギも天然が悪くなったから養殖をするんですが、それがさらに今の悪化状況を作っている。マグロの稚魚を漁獲したり、ウナギの稚魚を天然に遡上させて親魚にしないで乱獲するからこんなふうになっているわけです。

それに、養殖にしたことでスケールメリットが出てきたことも問題。昔、ウナギはハレの日に食べていたのに、スーパーや大衆店などで多量に安く供給されるようになった。高度成長期の後あたりから始まった“魚を安く大量に食べる”という食ビジネスのやり方が日本の、ひいては世界の水産資源を悪くしたんです。

―それは今に至る日本の消費社会の根本的問題ですね。

小松 原因の一端は、消費者が本来高級な魚を安く食べたいということですよ。クロマグロもそう。天然マグロが獲れなくなってきたら300~500gの稚魚を獲って、育てて大きくして出荷する養殖ビジネスが始まった。それで問題になるのがエサ。魚を養殖する時のエサはなんですか?

―当然、魚ですよね。

小松 では、それは高い魚か、安い魚か? 大きいですか、小さいですか?

―安い魚…で、小さい…と思います。

小松 それが乱獲に繋がる。エサになるイワシやサバそのものが今、資源が悪いのに小さいうちから獲るからますます悪化していく。現状は獲っていい数量がきちっと決まってない、または守られてないから小さい魚も獲ることができる。極端な場合、小さなクロマグロだって定置(網)に入るんですけど、これは売れないから魚粉になる。

―魚体が傷ついて、キャッチ・アンド・リリースができないんですか?

小松 放せるでしょうけど、他の魚もかかっているからしないわけです。それに、漁師は自分がどんな状況でも人より早く多く獲ることによって、自分がより優れていると思いたがる。獲らなければ食っていけないから獲る。自分が獲らなければ、他の人が獲るから獲る…。

全部が魚の資源を減らす悪循環。つまり、みんながルールに則った獲り方をしない限り確実に乱獲になります。これを断ち切らなければいけないんですよ。

―それが著書にも書かれているTAC(※1)やIQ方式(※2)、ITQ方式(※3)の導入?

小松 多分それしかない。日本も導入していますが、TAC魚種はたった7種のみ。IQ・ITQ魚種はほぼゼロ。築地に入るだけでも400種はあるわけだから、ITQ制度を導入済みのノルウェーやアイスランドのように日本も最低25~30種、ITQを設定しないとダメです。

次に、それを守られるような法律制度にしなければいけない。今ちゃんとした監視取締りとか報告を求めてないし、守られているかもわからない。

―水産庁は監視してないんでしょうか?

小松 実効性のある監視にはなっていない。それにひとりひとりの獲る量が決まっていないのにどうやってチェックするの?

―魚種ごとの総漁獲量から、◯◯港は何tとか振り分けられてないんですか?

小松 決まってない。総漁獲量だから、全国で何tですから取り締まれない。

―そもそも漁師は1日の漁獲量を報告するのでしょうか?

小松 漁獲の報告義務は毎日ではない。また、日本はチェックするシステムがないから実質漁獲量が正確にわからない。TACに満たない報告が上がってきますけど、人間なんて獲っても獲ってないと報告するものじゃないのかな。ならば、ITQ方式の方が明確になりやすい。自分の獲り分が決まれば他の漁師が違反すれば文句を言うでしょう?

―現状を招いたのは、資源管理ができてないことが大きな要因なんですね。

小松 だいたい、資源管理ができていればマグロをまき網で獲って資源を減らすこともなかった。元々、まき網で巻いていたイワシやサバが乱獲で獲れなくなったからマグロにいったんですよ。一見、その時に資源がある魚にいって、それを潰してまた別の魚にいく。しわ寄せは必ずどこかへいきます。

※1 日本全体の総漁獲量 ※2 個別割当方式:TACで設定された総漁獲量をそれぞれの漁業者に割当てる ※3 譲渡可能個別割当方式:それぞれの漁獲枠を業者同士で賃貸や売買ができる

―一方で、中西部太平洋まぐろ類委員会がクロマグロの漁獲高50%削減に合意するなどルール作りが進んでいるようにも思えますが?

小松 養殖用に獲ることを減らす考えで、資源を守りたいということですから意味は若干あるんですよ。ただし、減らすレベルが科学的に資源回復するという、きちんと意味を持った削減でないのが大きな問題です。

―50%という数字は相当大きい印象を受けます。

小松 クロマグロは今、初期資源の3~4%とされていて、10年後に7%の4万3000tに回復させたいと言っている。ところが、科学者のシミュレーションでは、この合意数字ではマグロの資源はさらに悪化する。今の漁獲量3800tの半分の約2000tでも細々と回復するかどうかの数字。なのに、彼らは2002年から2004年の平均水準の50%の削減で4007tにすると言ってる。今の漁獲量より相当高い。

―今の漁獲量がすでに削減目標より低いですし、10年前の半分というのは素人考えでもおかしいですよね。

小松 もう終わった話をしてるんですよ。本来であれば初期資源の20%以下は禁漁か、ほとんど獲ってはいけないと。

―ただ、そうなると漁師も生活ができないのでは?

小松 いずれできなくなる。今だって、できなくなってきてるでしょう? 魚がないのにどうやって漁師できるの? だから生活はできなくなるんです。でも、ノルウェーなどTACやITQを導入した国は魚を増やして大型にしたことで漁業が復活している。中長期と永久の視点が今の刹那(せつな)的生活より大事です。

―視点を変えることで、どんな変化が起こるのでしょう?

小松 例えば、15万tしか獲れなかった魚を30万tに増やして魚体構成を大きくすれば、価値としては倍ではなく4倍になる。収入も100万円から400万円になる。さらに、魚体が大きいと獲りやすさが増すため経費が減るんです。

―それでも、そこに至るまでは反発も多いのでは?

小松 ノルウェーでも反発はありました。それを乗り切るかどうかが差になります。政府主導でIVQ方式(※4)にしているから年金代わりに自分のIVQを売って辞められるんです。もっとも、仮に日本が制度を導入したところで今のままでは誰も買わない。買っても何を獲るか?という話ですが。

―資源を回復させないと制度を活かせない。一方、資源が回復するまで漁獲高削減や禁漁が続くと生活は立ちゆかなくなる…。

小松 資源を回復する期間は何か考えないといけません。ただ…本当は言いたくないけど、辞める人に補助金を出す制度設計を考えないとダメでしょう。今は高齢者がダラダラ漁業をするために補助金を出しているから、みんな残る。若者は一緒にやりたくないから都会に出るわけです。

※4 個別漁船割当て方式:人ではなく漁船毎に割当量を定めている。漁獲枠の移譲は船とセット

―話を聞くほど、消費者は全く知らないような話ばかりで…。

小松 だって、取材される人たちが全く知らないか、または補助金をもらいたいので隠している。人間なんていうのは、メシ食ってる元については絶対に悪く言わない。独立してモノが言える立場にいる人は、日本の社会ではなかなか多くないということですね。

―今後、消費者は魚を食べる上で何に気をつければいいでしょう?

小松 それ以前に、基本的に知的水準を上げることが必要でしょう。何も知らないでしょう? 魚がどんな育ち方をして、今たくさんいるのかいないのか。

―正直なところ、その情報に接する機会がないです。

小松 小売店に聞けばいいんです。資源の状態はいいか、天然か養殖か、どの国で養殖されたか、養殖の仕方、環境に優しい獲り方をしているかなどをね。それで店員さんが10回中8回答えられなかったら、その店で買うのをやめればいい。

あとは、『日本の海から~』に掲載した、「資源状況から購入を控えるのが好ましい・購入に注意を要するもの・購入が勧められるもの」を表にまとめた「信号機カラーで示す消費者の購入目安」を参考にしてもらいたいですね。だからといって、常にこの通りに行動しなくてもいいけど。

―資源が少ない魚は、今すぐに食べるのをやめた方がいいのでは?

小松 極端にやめなくていい。頭を使って食べればいいだけです。10回中の5回、マグロを食べないだけでも影響がありますからね。安いからといってメジマグロを食べないとか(注:クロマグロの20kgの未成魚のことで、産卵する前の子供)。たまにはウナギを食べたいと思っても、資源が悪いから通常の1/3の量にしようなどね。

―その心がけは明日からできることだと思います。

小松 もう安い、美味しいはやめることですね。資源を管理するのはコストがかかるし、短期的には高くなる。けれども、いずれ魚体が大きくなればグラム単価は安くなるから、消費者も漁業がよくなる方向に何年かは協力すべきだと思います。今から食べる魚の資源状態が健全を維持しているのか、消費者も頭にインプットしてほしいですね。

●小松正之(こまつ・まさゆき)




アジア成長研究所客員主席研究員。1953年生まれ、岩手県陸前高田市出身。東北大学卒業、エール大学経営学大学院修了(MBA)、東京大学農学博士号取得。1977年、水産庁に入庁、資源管理部参事官、漁場資源課課長など歴任。漁業交渉官として捕鯨を担当し、国際捕鯨会議など国際会議に出席。マグロで戦後初の国際裁判も経験。『これから食えなくなる魚』(幻冬舎新書)、『日本の食卓から魚が消える日』(日本経済新聞出版社)など著書多数。

■『ウナギとマグロだけじゃない!日本の海から魚が消える日』(マガジンランド 1463円+税)




“漁業大国日本”がなぜ衰退したのか、これからの魚食文化はどうなるのかーー魚を食べていく日本人として読んでおきたい一冊。

(取材・文・撮影/渡邉裕美)

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