知らねばヤバい!今もっとも正しい“エボラウイルス”Q&A(1)

週プレNEWS / 2014年10月29日 15時0分

「未知の病原体」がついにアフリカ大陸を越えてアメリカに上陸した。いま緊急で必要なのは、リアルで正確な情報だ。

あらゆる「素朴で大切な疑問」に、WHO(世界保健機関)の感染症対策チームに従事した経験を持つ医師の村中璃子氏に答えてもらった。現時点では、日本最高の「エボラ入門」であると断言しよう。

■エボラは全身から血が噴き出すの?

エボラってどんな病気ですか? ーー最近、皆さんからよく聞かれます。エボラは人類にとって「未知の病原体」。よくわかっていないことだらけです。

だから、ここでの回答は、あくまでも「今の時点」でわかっていることですが、同じウイルス感染症でおなじみの「インフルエンザ」と比較しながら説明していくと、読者の皆さんがイメージしやすいかもしれません。

以下、私(村中)が最近よく受ける質問に、簡潔に答えていきます!

【01】そもそも「エボラウイルス」はどこから来たの?

エボラのヒトへの感染が確認されたのは1976年のこと。もともとはアフリカの熱帯雨林に生息するフルーツコウモリに感染したウイルスであるといわれ、哺乳類全般に感染します。ヒトやサルなどの霊長類では発症して重症化しますが、コウモリは感染しても症状がないので、見ただけでは病気かどうかわかりません。

一方、インフルエンザは哺乳類だけでなく鳥類にも感染します。遺伝子を調べると、カモに感染したものが最初のようですが、やはり鳥では症状が出ない場合が多くあります。

いずれも「人獣共通感染症」といわれ、種の間を行き来して感染しながら変異し、強毒化したり感染力をアップさせたりすることがあるのが特徴です。

【02】どうやって動物からヒトにうつったの?

中央アフリカでは野生動物を食べる習慣があり、エボラに感染したコウモリを食べたことがヒトにうつった最初だといわれています。一方、インフルエンザも野鳥から家禽のニワトリへとうつり、それを扱う人にうつりました。

コウモリも鳥も「生焼きを食べたから」と思うかもしれませんが、おそらくは、捕まえる際や調理中に感染したのでしょう。今回のアウトブレイク(流行)でも、ギニア南東部のゲケドゥに住んでいた2歳児が、小遣い稼ぎに捕まえていたコウモリから感染したのが最初の患者だといわれています。

2歳の子供がコウモリを捕まえるのはまだ少し早いような気もしますが、兄弟にくっついてコウモリ狩りに行っていたのでしょうか。



【03】蚊でうつるの? だって血液で感染するんでしょ?

うつりません。すべてのウイルスは宿主(感染した相手の生き物)の遺伝子を利用して増殖しますが、エボラの宿主は哺乳類だけだからです。蚊がエボラに感染した人間や動物の血を吸っても、消化・排泄されるだけで蚊自身は感染しません。蚊の体内に入ったエボラウイルスは増殖できず、死滅します。エイズも同様の理由で、蚊ではうつりません。

【04】エボラ“出血”熱というけれど、映画『アウトブレイク』のように全身から血が噴き出たりするの?

症状は発熱(38・6℃以上)、激しい頭痛、腹痛、筋肉痛、下痢、嘔吐、出血傾向ですが、発症の初期にすべての症状がそろうことはなく、インフルエンザはもちろん、マラリア、腸チフス、今年日本でもはやったデング熱などのよくある熱帯感染症とも区別がつきません。

「出血傾向」とは血が止まりにくいこと。アザになりやすい、鼻血が止まりにくい程度のこともあれば、目や鼻、肛門や性器などあらゆる粘膜から出血する程度のこともあります。しかし、映画『アウトブレイク』のように口や目や鼻からピューっと血が噴き出て、人に飛び散ることはありません。

インフルエンザとの大事な共通点がもうひとつ。エボラの末期は「サイトカインストーム」といって免疫系の異常が起き、多臓器不全になって死に至ります。通常の季節性インフルエンザでそうなることは極めてまれですが、一般に「鳥インフルエンザ」と呼ばれているA(H5N1)型インフルエンザなどは、やはり同じ状態になります。

【05】エボラはなぜこんなに感染しやすいの?

混同しがちですが、ウイルスの「うつりやすさ」と「かかりやすさ」は別ものです。そして「うつりやすさ」という点では、咳(せき)やくしゃみなどの「飛沫」で感染するインフルエンザのほうがはるかに上です。

エボラの「感染様式(うつり方)」は「接触感染」。ウイルスを含んだ患者の体液が、目、鼻、口、性器などの粘膜に直接触れることでしかかからないので、同じ店や乗り物にいたり、町ですれ違ったりするだけではうつりません。

しかし「感染力(かかりやすさ)」という点では、エボラはウイルス最強クラス。ほんの微量のウイルスが粘膜に触れるだけでも感染し、唾液、血液、母乳、糞便、精液などだけでなく、汗にまで感染力があります。一方、インフルエンザは、患者さんの汗でうつることはありません。エボラは「うつりにくいが、かかりやすい」ウイルスなんです。

【06】キスやセックスでうつるの?

はい。汗でも感染するので、手を握ってもうつる可能性があります。唾液、精液、汗のすべてにエボラウイルスはいます。

【07】咳やくしゃみではうつらないの?

咳やくしゃみは、つばや鼻水が飛ぶのでうつります。だからマスクは有効です。しかし、エボラには咳やくしゃみの症状はないため、流行しても必要ありません。

【08】ノロみたく吐いたものが乾燥して空気中に舞い、うつることはないの?

エボラウイルスはノロウイルスと違って非常に乾燥に弱いので、吐瀉(としゃ)物が乾燥して空気中に舞い上がり感染を広げるという可能性は低いでしょう。

【09】空気感染はするの?

今のところ、空気感染があった証拠はありません。アメリカで最初に報告された患者さんは、潜伏期に空港の検疫をすり抜けたリベリア人男性でしたが、最初に受診した外来で「ありふれたウイルス感染症」と診断されて自宅に帰され、発症後4日も隔離されませんでした。

10月21日で、隔離された日より21日間(エボラウイルスの潜伏期の上限です)がたちましたが、その間、感染者はひとりも報告されていません。もしエボラが空気感染するのなら、今頃もっと多くの感染者が出ているはずです。

【Q10】エボラにアルコール消毒は有効?

エボラウイルスはインフルエンザウイルス同様、「エンベロープ」という膜状の構造をもちます。アルコールはこの膜成分を破壊するので、手を消毒する効果がありますが、それ以上にずっと簡単で大切なのは、手洗いでウイルスを洗い流すことです。

汚物や体液のついた場所や機器を消毒する手段として、医療現場で推奨されているのは塩素水。家庭ではキッチンハイターを希釈したもので代替できます。塩素消毒はアルコール消毒がきかないノロウイルスにも有効です。

●村中璃子(むらなか・りこ)



医師、ライター。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チームなどを経て、医療・科学ものを中心に執筆中

■週刊プレイボーイ45号(10月27発売)「エボラウイルスの性質はインフルと比較するとスッキリわかる!」より(本誌では、さらにQ&Aで詳説)

 

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