リニアがついに着工へ…住民たちの異議申し立ては届かないのか!

週プレNEWS / 2014年11月24日 6時0分

リニア中央新幹線。実験センターにて

民意を軽視したJR東海のリニア中央新幹線(以下、リニア)計画を止めたい――。そんな思いから、東京や愛知の1都6県で活動する市民団体が、計画を事業認可した国土交通省に「異議申立書」を提出するための署名活動を開始した。

2027年に東京都のJR品川駅から愛知県の名古屋駅までを40分で結ぶとされるリニア。先月17日に国交省が事業認可したことで、着工はもはや確実となっている。

法的手続きとして、JR東海は12月8日までに計画沿線各地で51回の事業説明会を開催。その後の工事説明会や測量などを経て、来秋にはトンネル掘削など具体的工事に入りたいと表明している。

リニアが走る1都6県(東京、神奈川、山梨、静岡、長野、岐阜、愛知)では、計画に異を唱える10の市民団体が活動しているが、その連絡網「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」の共同代表である川村晃生氏(慶応大学名誉教授)は計画に加え、推進のされ方自体、強い憤りを覚えるという。

「JR東海は私たちの意見や質問にほとんど耳を傾けない。ただの一度の公開討論会もなく、法的な手続きをセレモニー的に進め、もう工事に入ろうとしている。事業認可はされましたが、ここで今一度、『間違っている』との民意を国にぶつけたい」

世界の鉄道史上最大となる建設費9兆円という超大型事業。うち第一期工事となる品川・名古屋は約5兆4千億円(第二期は名古屋・大阪)だが、07年にJR東海が自費でリニアを建設すると発表して以来、沿線上の住民は計画への期待と不安に包まれている。

期待とは、10年以上に及ぶ建設工事でもたらされる活況とリニア走行がもたらすであろう経済効果だ。一方、不安は実に多岐にわたる。

全線286キロのうち86%にあたる246キロがトンネル走行なので、それにより発生する約6千万立方メートル(東京ドーム50個分以上)もの膨大な残土。連続するトンネル工事で誘発される川や沢の水枯れ。従来の新幹線の3倍以上ともされる電力消費から発生する電磁波の人体への影響。

さらには、1日1千台以上ものダンプやトラックが走行することでの騒音、振動、排気ガスの問題。史上初めて、南アルプスに長大なトンネルが開けられることでの自然破壊。立ち退かされる数百世帯もの人々の生活――。

これらに国とJR東海はどう向き合ってきたのか?

10年から国交省に付属する交通政策審議会がリニア計画の是非を有識者で検討。この時、一般住民からのパブリックコメントを募集したが、集まった888件の多くが計画に反対、もしくは慎重な意見だった。賛成意見はわずかに16件。

ところが11年5月、「反対意見は審議会の答申に影響を与えるものではない」との理由で計画を認める答申が出される。これにより、JR東海は1都6県の関係自治体で計画の縦覧と住民説明会に入った。

11年の「環境影響評価方法書」(おおよその事業計画と環境アセスの方針を示した報告書。以下、方法書)、そして13年の「環境影響準備書」(具体的な事業計画と環境アセスの結果を示した報告書。以下、準備書)の説明会に記者も何度か参加したが、お世辞にも及第点とはいえない内容であった。

市民団体「リニア新幹線を考える東京・神奈川連絡会」の天野捷一代表はこう振り返る。

「一方的な説明会です。具体的に言えば、質問はひとり3問までに制限され、しかもそれを一度に言わなければならない。回答を聞いて、ではと再質問しようと思ってもマイクはもう戻ってこないんです。そして、質問の手がまだ多く挙がっていてもピタリと閉会宣言。資料として投影される映像もメモしきれないのに撮影禁止。理解なんて無理ですよ。それでいて、住民には丁寧に説明したと自己評価してるんですから」

11年の説明会は各地で58回開催されたが、どこに尋ねても同様だったようだ。

「僕たちは、具体的なルートや残土の処理方法を知りたかった。沿線に数十ヵ所建設される資材搬入口と運行時の脱出口を兼ねた『非常口』も、直径30メートルある巨大施設なのにどこに建設されるのかすらわからない。

そのうえ、『具体的なことは13年の準備書説明会でお示しします』と言いながら、13年には『国から事業認可を受けた後の事業説明会や工事説明会でお示しします』と言葉を変えた。いつまでたっても情報が出てこないんです」

11年の方法書説明会でもJR東海はパブコメを募集したが、集まった1024件のうち9割以上が計画に反対。本来ならば、これらの意見を準備書に反映させねばならないはずが、2年間待った市民団体は驚いたという。13年の準備書がほぼ同じ内容だったからだ。

たとえば、約6千万m3もの建設残土の8割以上が処分先不明で、工事による水質汚濁や水位低下については1都6県のどこでも判を押したように「影響は少ない」と書かれているだけ…。

そこで、僅かながら具体的に明かされた予測もあったが、それを見て今度は各自治体が慌てた。「こんな計画だったのか!?」と。

長野県大鹿村では残土や資材を運ぶ大型車両が一日最大で1736台、狭い山道や保育園の脇を通る。1分に3台以上だ。騒音、振動、排気ガス、泥はね、土埃…これが朝から晩まで12年間も続くのだ。

静岡県ではトンネル工事で大井川が毎秒最大2トン減少する。これは大井川だけを水源とする下流の7市63万人の水利権量とまったく同じだ。また、膨大な残土をその源流部の河原や標高2千メートルの稜線に置くことも明らかにされていた。

さすがに、そこで各地の市町村長も「環境保全ができないなら工事は回避すべき」と懸念を表明。もちろん、根拠のない懸念ではない。97年から実験走行が続いている山梨県のリニア実験線周辺では、無数の沢と川の水枯れが起きており、排出された膨大な残土は谷を埋めたてただけで、なんの跡地利用も始まっていないのだ。

前出の天野代表は、期待半分でJR東海が「民意」に加え、これら「官意」をどう計画に反映するかを見守った。だが――、

「結局、最終計画にはいずれも反映されず、それなのに国はゴーサインを出した。こんな杜撰(ずさん)なアセスが許されるのなら、これからどんな公共事業でも許される。冗談ではないと思いました」

異議申し立ては省庁がなんらかの判断を示してから60日以内に提出されなければならない。つまり、今回の期限は12月16日。そのため、各市民団体は12月5日を締め切りに設定し賛同者を集めている。

「僕たちは今まで署名活動、国土交通省との交渉、JR東海との直接交渉要求、市民集会、国会議員を招いての院内集会など考えられる限りのことをやってきました。でも、結局はJR東海の杜撰な環境アセスを認め、国は事業認可してしまった。これに対して『沿線住民は納得していない』との意思を突きつけたいんです」(天野代表)

実は、市民団体が見据えているのは来年以降である。異議申立書を提出しても、それでリニア計画が覆ることはない。そのため、署名活動をしながら然るべき時期に行政訴訟を起こすための準備もする…という戦略だ。

「JR東海は、これまで具体的な計画内容の言及を避けてきた。『影響が少ない』という根拠もいまだに示されません。裁判では、さすがにそれらの証拠物件を開示しなければなりませんから、そういう事実のやりとりでも世論を喚起したいのです」(前出・川村教授)

(取材・文・撮影/樫田秀樹)

■この異議申立書に関しては「東京・神奈川連絡会」のHPなどで申込み様式を確認できます




【http://web-asao.jp/hp/linear/cat309/】

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