波紋広がる「組み体操」の是非。もはや運動会ではなく荒々しい“祭事”か?

週プレNEWS / 2015年10月24日 6時0分

「池谷幸雄体操倶楽部」を通じ、全国の子供たちに体操を教える池谷氏も警鐘を…

先月27日、大阪の八尾市の中学校で行なわれた運動会の組み体操で10段の巨大ピラミッドが崩壊、生徒が腕の骨を折る事故が起こった。

学校側は練習でも成功していないのに強行したというが、ピラミッドが崩れる動画を確認すると、生徒の腕がありえない方向に曲がっているのが衝撃的で、さらに同校では昨年も練習中や本番で4人も骨折していたことが明らかになった。

1990年には神奈川県相模原市の中学校で組み体操の4段人間タワーから男子生徒が落下、9人の教員が補助をしていたのにも関わらず、他の生徒の下敷きとなって圧死する事件が起こっている。

だがそれ以降も大阪に限らず、全国で似たような事故は頻発しており、ここに至って危険すぎる組体操、高層化するピラミッドの是非に大論争が巻き起こっている。

教育評論家の尾木ママこと尾木直樹氏は自身のブログで「大阪の八尾市小中学校ではこの二年間で12人も骨折。2013年度は『組体操の事故で病院にかかった件数』は小学校-6349件、中学校-1869件数、高校-343件、総計-8561件!! この中には重度の障害負ったり、下肢切断の被害者まで出ているのに…現場は子どもたちの命と安全を守ろうとしないのか!?」と組み体操は緊急中止すべきと訴えた。

組み体操の危険性に警鐘を鳴らし続ける名古屋大学大学院教育発達科学研究科の内田良准教授が「Yahoo! 個人」に寄稿した記事では「(人間ピラミッドで)10段を組み立てるには、少なくとも百数十名の生徒が必要である。高さはおよそ7メートル。土台の最大負荷量は、一人あたり200kg前後に達する。」という。

200kgとはどんな重さなのか? なかなか想像がつかないが、トレーニングの初心者が100kg前後の重量でスクワット(バーベルを担ぎ、腰を落として立ち上がる動作)で失敗、潰れてしまって救急車で運ばれるシーンを2度ほど見たことがあるが、人がクシャっと紙のように折れ曲がっていた。

過度な重量はそれほど危険なのだ。組み体操の百数十名からなる高層ピラミッドでは、その安全対策として周囲に教員を配置することによって安全を確保しているというが、それで生徒にかかる負荷が軽くなる訳ではない。

高所作業を要する工事現場などでは、安全を守るためにヘルメットや安全帯(命綱)の着用を義務付けられるが、高層ピラミッドのトップに登る生徒は、頭はむき出しで上半身裸の場合さえある。プロテクターなどは一切なく、擦り傷などのケガは当たり前というワケ。教員が必ず受け止められる保証もないので、せめてマットを敷くぐらいは徹底すべきところだ。

4歳より体操を始め、2度のオリンピックで4つものメダルを獲得、現在は体操倶楽部を主宰し、青少年を指導する立場の池谷幸雄氏は「僕が体操をやっていた時は違ったんですけど、高さのある鉄棒だったり、女子だと跳馬や段違い平行棒、平均台の着地には必ず10センチのマットを入れなければならないルールに変わりました。そのマットがあるのとないのとでは着地の衝撃が全然違います」と、やはりマットの重要性を説く。

また、体操競技の世界では競技中・練習中に発生する頸椎・脊椎の損傷など重大な事故から選手を守るため、年齢・性別による禁止技が大会を主催する団体ごとにルールとして設けられている。

さらにチアリーディングの世界でも、ふたりでひとりの落下者を受け止めることや、塔の中段が崩れると思った瞬間、大声でメンバーに知らせることによって上段から落ちる人の体勢を整えさせ、安全を守ることが基本として徹底されている。

しかし、組み体操中に生徒が「痛い」「重い」「崩れる」などの弱音ともとられる発言をしようものなら教員に怒られてしまう。多くの組み体操の指導書では、泣き事を言わせない方針をとっているのだ。

このように、他のジャンルのスポーツと比べてみても、組み体操の安全対策がいかに不十分かということがわかる。しかも授業の一環として、体格も技量も様々な一般生徒が強制的に参加させられるワケで、そう簡単に安全確保できることではない。

まるで運動会がスポーツではなく、スペインの「人間の塔」や「牛追い祭り」のように毎年、怪我人が出るのが当たり前となっている危険な“祭事”のようだ。

もっとも、そんな祭りもだが、団体競技として得られるものは計り知れない面も多々あり、意義を評価する声も少なくない。そこで、次回配信予定の後編ではその是非と検討されるべき条件についてさらに検証する。

●この続きは明日配信予定です

(取材・文/週プレNEWS編集部)

池谷幸雄(いけたに・ゆきお)






1970年9月26日生まれ。東京都出身。4歳の頃より体操を始める。清風中学校、清風高等学校、日本体育大学卒。ソウルオリンピックで、団体・個人床で銅メダルに輝き、バルセロナオリンピックでは団体で銅メダル、個人床で銀メダル獲得。平成13年から「池谷幸雄体操倶楽部」を運営。テレビ、ドラマ、舞台、キャスター、体操コメンテーターなど、幅広い分野で活躍中。

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