不倫はそこまで悪なのか? 誰にでも起こりうる、防げないウイルスに必要な“不倫ワクチン”とは…

週プレNEWS / 2016年5月18日 6時0分

不倫は誰にでも起こりうる“社会問題”であり、“不倫ワクチン”の開発が必要だと説く坂爪真吾氏

ベッキー&ゲス極・川谷絵音(えのん)、宮崎謙介・元衆議院議員、タレント・乙武洋匡(ひろただ)…今年上半期は、相次ぐ有名人の不倫騒動が世間を賑(にぎ)わせ続けた。

ネット上では「奥さんがかわいそう! サイテー」「不倫するような人だったなんて。ショックです」などと猛烈なバッシングが巻き起こったが、果たして不倫は、当事者が休業や謝罪に追い込まれるほどの“悪”なのか?

一連の騒動の背景にある日本人の「不倫観」に迫るべく、『はじめての不倫学』(光文社新書)の著者・坂爪真吾(さかつめ・しんご)氏に話を聞いた!

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―“不倫分析の専門家”である坂爪さんにお尋ねします。一連の不倫騒動に対し、執拗にバッシングが繰り返されたのはなぜだったのでしょう?

坂爪 不倫を報じられた人たちが、“不倫を絶対にしてはいけないとされる立場の人”ばかりだったことが大きな原因ではないでしょうか。スキャンダルとは無縁だったCM女王、男性として初めて育休宣言をした国会議員、選挙への出馬を予定していた著名な障がい者タレント…それぞれ特殊な立場にあるからこそ、吊るしあげて叩きやすかったのでしょう。

―単なる不倫よりバッシングの的になりやすかったわけですね。しかし、安易なバッシングに夢中になってしまう日本人は、やはり“不倫に不寛容”なのかと…。

坂爪 今回の騒動は、不倫だからこその盛り上がりというより、世間の人はむしろ“話題が豊富なスキャンダル”として消費していたような気がします。バッシングの方法も、「個人を吊るし上げて、叩く」という従来のスタイルばかりでした。「一回でも不祥事を起こせば、袋叩きになって一発アウト!」というように、日本は“不倫に不寛容”なのではなく、“失敗に不寛容”な社会なのだと思います。

―時には、まるで重罪扱いされた上で裁かれることもありますよね。

坂爪 それは「道徳的に問題がある人が不倫をする」とみんなが思っているからでしょう。しかし、不倫をしてしまう原因は、単純に個人の道徳の問題とは言い難い“社会の問題”と私は考えています。

―不倫といえば、「つい、出来心で…」という浮わついた気持ちから起こるイメージですが、違うのですか?

坂爪 多くの人が不倫報道に接して「けしからん!」と叩く背景には「誘惑に打ち勝つ意志さえあれば、不倫は防げるはず」という思い込みがありますが、それは誤解です。不倫というのは、男性女性問わず「自分は絶対大丈夫!」と思っている人でもハマってしまう、“誰にでも起こりうる問題”だからです。統計的に人間が“不倫をしやすい時期”というのも確かに存在します。

―それはいつなのでしょうか?

坂爪 男性側でいえば、妻の産前・産後の時期です。夫から父親になることと、セックスをしたいという性交欲が満たされないことが重なり、精神的に不安定になり不倫に走ってしまう。この場合、夫が育休をとって、妻や子供とちゃんと向き合うことが不倫防止の有効な手段のひとつになります。

―育休といえば、“ゲス議員”と叩かれた宮崎謙介氏が思い浮かびます…。

坂爪 まさに宮崎元議員のケースも、「誰にでも共通に不倫をしやすい精神的に不安定な時期がある」という視点で捉(とら)えれば、見方も少し変わってくると思います。

―「男性の育休の是非」について社会的議論が起こる良い機会だったのに、不倫騒動に話題を奪われたことは確かに残念でしたよね。

坂爪 現状では、産前・産後の女性に対する社会的なケアも不十分であり、産前・産後の妻を抱えている夫の性に対する社会的なケアに関しては、その必要性すら議論に挙がらない。「不倫のリスクを放置したまま、不倫が起きれば社会的に叩く」というのは、好ましい状況ではありません。

―なるほど、だから“不倫は社会の問題”なんですね。ところで、坂爪さんは『セックスと障害者』(イースト新書)という本も書いておられます。いわば“不倫”と“障がい者の性”の専門家。5人もの女性と不倫し、参院選出馬を断念した乙武洋匡さんの騒動については、どう分析していますか?

坂爪 報道されている内容を見る限り、乙武さんの不倫自体は複雑なものではありません。彼の場合も、子供を生んだ妻が「母になってしまった」ことが原因の“どこにでもある不倫”です。なので、注目すべきは不倫の実情ではなく、報道の盛り上がり方のほうです。

―障がい者であることや出馬など、複合的な要素が絡んで大きな話題になっていましたよね。

坂爪 乙武さんは「国民的障がい者」と呼べるほどの知名度と社会的影響力を持っている方ですが、そうした方の不倫が報道されるのは初めてで、当初はメディアもどう扱えばいいのか戸惑っていた。“障がい者の不倫”がマスメディアを賑わした日本初の事例です。

もちろん、乙武さんのご家族にとっては気の毒なことだったと思います。その一方、「多くの人が障がい者の性を日常的に目の当たりにしてモヤモヤする社会」という“近未来像”を提示したことには価値があったと思います。

―近未来像? どういうことですか?

坂爪 今よりもっと障がい者が自立した社会が実現すれば、障がい者の不倫は当たり前のように起こる現象になるでしょう。これは『セックスと障害者』という本のテーマでもあるのですが、障がい者が社会的な自立を果たすためには、“性的な自立”が不可欠なんです。

例えば、重度身体障がいで両腕が麻痺している人は自由に自慰行為をすることすら叶(かな)いません。母親が手伝うことも珍しくありませんが、これは当事者・母親の双方にとって大きな精神的負担になる。こういった現状を打破するために、私は「ホワイトハンズ」という、障がい者に射精介助サービスを提供するNPOを創設しました。障がい者にとって、まず自分の性を肯定し、他人の性も尊重できるようになることが社会で自立していくことに繋がります。

その一方で、性的に自立するということは、性の楽しい側面ばかりでなく、失恋やセックスレス、不倫などの苦しい側面も等しく受け入れなければならない。健常者同様、社会的に自立すれば、障がい者が不倫したとしても全く不思議ではないでしょう。彼らも不倫に悩み、苦しむ。その様子を見て、周りの人々は「障がい者なのに、不倫…?」とモヤモヤする。乙武さんの不倫騒動はまさに、障がい者の社会進出が進んだ近未来の姿を示しています。

―なんだか乙武さんがカッコよく思えてきました…。

坂爪 こうしたモヤモヤ感をみんなが感じること自体は健全なことなんです。障がい者に対する一面的なイメージが壊されて、障がい者の多様性が社会に浸透するためにも、もっと多くの人にモヤモヤしてもらいたい。

もうひとつ言えば、乙武さんが障がい者だからといってタブー視されたり気を遣われたりせずに、しっかりと社会的に叩かれたのはむしろ良かったと思います。障がい者は「純粋な天使」や「かわいそうな性的弱者」といった偏ったイメージを持たれがちですが、乙武さんは不倫騒動によって日本における障がい者像をアップデートしてくれたとも考えられます。ここでも、彼は障がい者界のトップランナーだったわけです。

―ところで、不倫への欲望を抑えることは、そんなにも難しいことなのでしょうか?

坂爪 私は不倫を感染症やウイルスのようなものだと考えています。インフルエンザと同じように、“不倫ウイルス”に一度感染してしまったら自分ではどうすることもできません。そのいい例が“20世紀最高の経営者”と呼ばれたジャック・ウェルチです。彼ほどの経営者でも、不倫だけはうまくマネジメントできなかったという話が残っています。

だから、我々みたいな凡人が不倫にハマる気持ちを抑えられないのも、ある意味、当然なのです。不倫の場合、自分の気持ちに加えて、相手の気持ちというふたつの不確定なものをコントロールしないといけないのが大きなハードルです。

―そんな厄介な不倫と、どう向き合えばいいのでしょうか?

坂爪 まずは不倫が、心持ちだけでは防ぐのが難しいウイルスのようなものである、という認識が社会で広く共有されることが望ましいですね。その上で、不倫ウイルスに感染しないための“不倫ワクチン”を開発することが重要だと思っています。

『はじめての不倫学』では、ワクチンになりそうな対策を思考実験的に考えてみました。結論としては、結婚関係を維持するために、回数や期間を限定した上で夫あるいは妻以外とセックスをする「条件付き婚外セックス」を社会が容認するべきだと結論を出しました。これは複数の人と同時に恋愛をする「ポリアモリー」という交際スタイルなどを参考に考案したワクチンです。

―とても興味深いですが、今回の不倫騒動への反応を見ていると、夫婦のあり方や性の問題に関しては、いまだ保守的な人が多いように感じます。そんな日本社会で不倫ワクチンは本当に実現可能でしょうか?

坂爪 「性についてはこうあるべき!」という性の規範は一見強固に思えますが、長期的なスパンで見れば必ず変化するものです。例えば、渋谷区で同性パートナーシップ条例が成立したように、LGBTという言葉が社会的に浸透し、多くの当事者や支援者が声を上げやすくなったことによって、同性愛が容認される流れが確立されました。

―LGBTという言葉も、だいぶ一般に浸透してきましたよね。

坂爪 多様な性を表現するボキャブラリーが貧困だと、新しい性についての考え方はなかなか広まりません。1990年代に「女子高生の売春」が「援助交際」と呼ばれて、捉えられ方が変化していったように“新しい言葉”が重要です。日本における不倫の未来も同じだと思います。

ひと言に不倫といっても、その動機は中年の危機、理解者探し、相手へのあてつけ、性的なステップアップなど様々です。それぞれのバリエーションの不倫をうまく捉えた新しい言葉の誕生で、不倫の扱い方は大きく変わってくると思っています。

●坂爪真吾(さかつめ・しんご)

1981年生まれ、新潟市出身。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗産業の社会化を目指す「セックスワーク・サミット」開催など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。



●『はじめての不倫学 「社会問題」として考える』(光文社新書 820円+税)



●『セックスと障害者』(イースト新書 861円+税)

(取材・文/山本隆太郎)

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