小3娘の宿題、担任の採点が酷すぎると話題に 文科省は「小学校で指導しない範囲」認める
Sirabee / 2024年7月17日 5時15分
(ニュースサイトしらべぇ)
『名探偵コナン』を象徴する台詞に「真実はいつもひとつ」というものがあるが、現実はそうとは限らない。
X上では以前、小学校3年生の娘の算数の宿題、および教員の対応に疑問の声が多数寄せられていたのをご存じだろうか。
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今回注目したいのは、Xユーザー・ちゃーろーさんが投稿した一連のポスト。
「ちょっと相談なんですが…。娘(8歳)の宿題見てたんだけど、この問題ってどうしたらいいか分かる…?」と綴られたポストには算数のプリントの画像が添えられており、割り算(除法)の問題が2つ確認できる。
片方の問題「0÷8=」に対しては、特に問題なく答え「0」を導き出せたが、もう片方の「18÷0=」に疑問を感じているようで、「18÷0=の答えは0らしいんだけど、コレ0になる?」と、質問を投げかけていたのだ。
最終的に「こたえなし」という回答を導き出して学校へと向かうも、その結果は…。
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■「先生がおかしい」と疑問の声噴出続くポストにて、ちゃーろーさんは「『18÷0=』を『こたえなし』で提出したら、先生に×にされて『0』だと言われたそうです。割り算に0が入ると全て0らしい」と報告。
半分炎上してた娘(8歳)の小学校の、プリントが返ってきたので報告します。
【18÷0=】を【こたえなし】
で提出したら。
先生に❌にされて【0】だと言われたそうです。
割り算に0が入ると全て0らしい。
これで本当にいいんやろうか…割れませんよね…? pic.twitter.com/VLWhUmSpuA
— ちゃーろー@カメレオン絵師 (@charlow_illust) June 18, 2024
本人としては納得がいかないようで、「これで本当にいいんやろうか…割れませんよね…?」と疑問を綴ったところ、こちらの投稿は2万件以上ものリポストを記録するほど大きな話題に。
他のXユーザーからは「この先生の説明は、数学界全体を敵に回すレベルでヤバいと思う」「電卓で計算してみたら、エラーになった…」「これは先生の方がおかしいだろ」「娘さんの答えで合ってますよ!」など、学校に対する疑問と、ちゃーろーさんへの共感の声が多数寄せられる事態となった。
ことの経緯について、ちゃーろーさんは「宿題で分からない問題があるとのことで、一緒に考えました」「18÷0の『0で割る』というのが私にも理解できず、一緒に考えた結果『答え、無いよね?』という結論になり、『こたえなし』と書いて提出しました」と、説明する。
しかし学校での採点時、クラスメイトからは「『こたえなし』は間違ってるよ!」と、担任からは「割り算に0が入ったら0!」と指摘を受け、ちゃーろーさんの娘さんは「とても恥ずかしかった」と、当時の心境を振り返っていた。
果たして、問題の「18÷0」の正しい回答は0と「こたえなし」のどちらなのだろうか。今回は「文部科学省」、ならびに総合進学塾「あすなろ学院」に見解を尋ねてみることに。
その結果、数字を「0で割る」行為をめぐる、驚きの事実が明らかになったのだ…。
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■文科省は「存在しません」と断言数字を0で割る、いわゆる「ゼロ除算」について、文部科学省・教育課程課の担当者は「学習指導要領に載っていない内容となります」「つまり、小学校の算数教育において『数字を0で割る』指導は、前提として存在しません」と、説明する。
児童の算数教育の話題で、定期的に波紋を呼んでいるのが「超算数」と呼ばれる問題。
こちらは、かけ算(乗法)の文章問題における「答えが合っていても、式に登場する数字の順番が異なればバツ(良くて三角)」というもので、小学2年生の児童らにトラウマ級の辛酸を舐めさせている。
授業中に「式内の数字の順番」の重要性について指導する教員もいるようだが、中には「テストの採点後に初めてこのルールを明かす」教員も少なくないようで、古来より児童はもちろん、保護者に忌み嫌われてきた。
X上でもしばしば、こちらの「超算数」に関する疑問の投稿が大きな話題を呼び、記者も文科省に取材を実施したことが。
下手をすると「悪問」にカテゴライズされる内容だが、こちらは少なくとも「小学校学習指導要領」における「第2学年の内容」の「A 数と計算」の項に登場し、文科省は「ここで述べた被乗数と乗数の順序は、『一つ分の大きさの幾つ分かに当たる大きさを求める』という日常生活などの問題の場面を式で表現する場合に大切にすべきことである」と言及している。
ただし、テスト等で実際に「丸にするか、バツをつけるか」という判断は現場の裁量に委ねられており、いわば「担任教師ガチャ」のようになっているのが現状なのだ。
話を「ゼロ除算」に戻すと、こちらは学習指導要領に掲載されていない内容。つまり、日本史の授業における「武田信玄軍から敗走した徳川家康が、尻の汚れを『これは味噌だ』と主張した」といった雑学的なこぼれ話と、立場的には変わらないのである。
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■数学のプロに見解を聞くと…前出のような背景があり、そもそも小学校の算数の宿題(テスト)にゼロ除算が登場すること自体、おかしな話。しかし、反対に「数字を0で割ったらどうなるの?」という疑問を自ら教員にぶつける、好奇心旺盛な児童も少なくないだろう。
そこで続いては、数多くの生徒たちを合格に導いてきた『あすなろ学院』数学科・森山昇平氏に、「18÷0」の考え方を解説してもらうことに。
森山氏はまず、「私たちが普段行っている計算というのは『結果がいつでも1つに決まるからできる』というルールがあります」と説明する。
これは、例えば100円の飴󠄀と250円のグミを1つずつ買えば『100円+250円=350円』という数式が必要となり、言うなればいつでも「100+250=350」が成り立つため、支払う金額も1つ(350円)に決まるワケだ。
こちらの法則に注目し、森山氏は「逆に言えば『結果がいつでも1つに決まらない計算はできない』ということになります」と強調する。この性質と割り算の特徴を理解するには、割り算は「かけ算の逆の計算」であることを理解する必要があるのだ。
例えば、式「●÷0=□」は式「□×0=●」と同じ意味になる。このかけ算の左辺「□×0」に、様々な数を当てはめて計算してみよう。
□に1を当てはめると「1×0=0」、□に2を当てはめると「2×0=0」、□に4/3を当てはめると「4/3×0=0」、□に0.567を当てはめると「0.567×0=0」といったように、□に当てはまるのがどのような数だとしても、「□×0」は必ず0になる。
では、これらの式を「同じ意味の割り算」に変換すると、どうなるだろうか?
前出の法則の通り変換すると、かけ算「□×0=0」は、割り算「0÷0=□」となる。こちらに先ほど同様、数字を当てはめてみよう。
まず□に1を当てはめると「1×0=0」なので「0÷0=1」、□に2を当てはめると「2×0=0」なので「0÷0=2」、□に4/3を当てはめると「4/3×0=0 」なので「0÷0=4/3」、□に0.567を当てはめると「0.567×0=0」なので「0÷0=0.567」となる。
お分かり頂けただろうか…。「□×0=0」のため、□に当てはまる数がどのような数でも「0÷0=□」が成り立ってしまうのだ。
森山氏は「なんと『0÷0』の計算結果は、なんでもアリなのです!」「こうなってしまうと『0÷0』の計算結果で、何を書けば良いのか分からないですよね…。そのため『「0÷0」の計算結果は1つに決まらない』という意味で、『0÷0』は計算できません」と、補足している。
では、今回話題となった「18÷0」のように、「0でない数字」を0で割った場合は、どうなのだろうか。
こちらも割り算「(0でない数)÷0=□」を、かけ算にすると「□×0=(0でない数)」。しかし前出の通り、数字に0をかけると答えは0になるため、答えを「0でない数」とするのは不可能である。
つまり、まとめると…
(1)「0÷0」の計算結果はなんでもアリ。計算結果を「1つに決められない」ため、計算不可
(2)「(0でない数)÷0」の計算結果は「存在しない」ため、計算不可
となり、これらの事実から「数字を0で割る」計算は不可能なのだ。つまり今回のケースは、ちゃーろーさんの娘が回答した「こたえなし」が正解となる。
では、担任の指導通り「数字を0で割ると0になる」と認識してしまった場合、どのような弊害が考えられるのだろうか…。
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■「0で割ると0になる」と覚えると悪影響が…こちらの疑問に対し、森山氏は「すぐに思いつく弊害としては、小学算数や中1数学で学習する『反比例』の指導です」と例を挙げる。
同単元では「y=(決まった数)÷x」という関係が成り立つとき、「yはxに反比例する」と呼ぶことを小6算数で学習し、小6時点ではxは正の数の範囲、中1になるとxは負の数の範囲まで含めて学習する。
さて、ここで一度「y=6÷x」のグラフを見てみよう。
小6で学習するのはグラフの右上範囲だけだが、中1になると図のグラフ全体を学習する。同グラフは「y=6÷x」という関係式を成り立たせるようなxの値をyの値をペアにして点を無数に打っていった結果、滑らかな曲線が描かれる…というもの。
しかし、もしも「●÷0=0」と認識されていた場合、どうなるだろうか。
この場合「y=6÷x」という関係式でxの値が0になると、yの値も「6÷0」で0ということになってしまう。そのため、xの値もyの値も両方とも0になるような点、つまりx軸とy軸の交点で「O」と表している場所を通る必要がある。
しかし実際には反比例のグラフは、記事内の図のように「Oを通らないグラフです」として学習するため、「数字を0で割ったら0である」と信じていた場合、矛盾が生じてしまう。
弊害はこれだけでなく、森山氏は「高校数学では『aを実数としてxの方程式 ax=1を解け』といった問題が参考書に載っています。この問題は、単に両辺をaで割って『x=1/a』としてしまう誤答が多いのです」と、さらなる例を挙げる。
続けて、「この解法が誤っているのは『両辺をaで割るという操作は、そもそもaに当てはまる数が0の場合は不可能なのに、そのことを注意せずに両辺をaで割っていること』が理由となります」と説明。
つまり、こちらも生徒が「数字を0で割ることができる」と認識していた場合は破綻してしまい、正しい学習が阻害されるケースが十分に考えられるのだ。
■「かけ算と混同している」説が浮上さて説明が長くなったが、これらの条件を踏まえた上で、森山氏は「『18÷0』という問題を宿題として出してしまった以上は『こたえなし』を正解とすべきで、『0』ははっきり誤りであると考えます」と断言。
「割り算に0が入ると全て0になる」というコメントについては「先生が、割り算とかけ算と混同している可能性があるのではないかと拝察します。0×▲も、■×0も、どちらも0ですから」と、推測している。
今回話題となったポストを受け、多くのXユーザーからは担任教師に対する非難の声が上がっていた。しかし、ポスト投稿主・ちゃーろーさんには教師を非難する意図は全くなく、苛烈な内容のリプライに心を痛めていた様子。
森山氏も同様の考えのようで、「もちろん学校の先生たちも、我々のような塾の先生たちも人間ですから、完璧を目指していながらもミスをしてしまうことがあります」「しかしながらこのとき、指導者がミスを頑として認めなければ余計に問題が拗れてしまい、結果的に大きな損に繋がってしまいます」と語る。
そして「起こってしまったことは残念ですが、ミスはミスだと認め、指導者も子供たち共にレベルアップしていければ、長い目で見て得なことが多いと感じます」と、教育者としての矜持を感じさせる、懐が深いコメントを寄せてくれたのだ。
取材に協力してくれた「あすなろ学院」は宮城県仙台市・多賀城市・名取市・富谷市に10教室を展開し、40年以上に渡って地域に密着しながら、小学生から高校生までを指導する総合進学塾。
その実績は確かで、今回の取材でも、高校の途中から理系科目を断念した根っからの文系人間である記者を相手に、親身になって非常に丁寧な指導を行なってくれたのだ。興味がある家庭は、ぜひ我が子の学習について相談してみてはいかがだろう。
■執筆者プロフィール秋山はじめ:1989年生まれ。『Sirabee』編集部取材担当サブデスク。
新卒入社した三菱電機グループのIT企業で営業職を経験の後、ブラックすぎる編集プロダクションに入社。生と死の狭間で唯一無二のライティングスキルを会得し、退職後は未払い残業代に利息を乗せて回収に成功。以降はSirabee編集部にて、その企画力・機動力を活かして邁進中。
X(旧・ツイッター)を中心にSNSでバズった投稿に関する深掘り取材記事を、年間400件以上担当。ドン・キホーテ、ハードオフに対する造詣が深く、地元・埼玉(浦和)や、蒲田などのローカルネタにも精通。
(取材・文/Sirabee 編集部・秋山 はじめ)
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