【川奈まり子の実話系怪談コラム】青山霊園で祟られた少女【第三夜】

しらべぇ / 2014年11月19日 17時0分

青山霊園の都市伝説として有名な話は2つあり、1つはタクシー運転手の話。もう1つは「幽霊注意」の標識だ。しかし私が祟られた少女から直接聞き、その一部を実際に目撃した青山霊園にまつわる怪異はそのどちらよりも恐ろしい。

タクシー運転手の話には、決まったパターンがある。霊園の前で深夜に女性のお客を拾ったが、しばらく後に、ふとバックミラーで後部座席を見ると誰も乗っていなかったというもの。

あとで確認するとシートが濡れていたり、霊園の辺りから乗せるのではなく目的地が霊園だったりと、複数のバージョンがあるようだが、乗せたはずの乗客が消えることと、その乗客は女だという点は全部一致している。

もう1つの青山霊園の都市伝説は、霊園内の道路に「その他注意=幽霊注意」を示す四角形にエクスクラメーションマーク『!』を記した黄色い標識があるというもの。でも、これは眉唾。私は青山霊園の近くに6年前から住んでいて、何度となく霊園内をくまなく散策してきたが、そんな標識は一度も見たことがない。

また、もし設置されていたとしても、『!』は「この先行き止まり」などの文字標識とワンセットで設置される警戒標識にすぎず、心霊現象とは関係ない。

2002年前後、FAプロというAVメーカーの作品に毎週のように出演した時期があった。毎週決まった曜日に、早朝、渋谷の集合場所からその他大勢の出演者たちと共にロケバスに乗り込んで撮影に向かうのだ。撮影は毎回日帰りで、毎度似たようなメンツと出演した。女優だけでも、少ないときでも7、8人はいた。監督の方針で心身共に健全で性格の良い人ばかり揃えられているということだった。ほとんど皆、顔なじみで好人物ばかり。バスの移動中やスタジオでの待ち時間は和気あいあいとし、修学旅行さながらの楽しさだった。

共演者の中に、まだ18歳の美少女、Mちゃんがいた。皆の中でいちばん年下だったが、物怖じしない明るい性格でおしゃべりなMちゃんは、誰からも可愛がられていた。ところが夏のある日、珍しくMちゃんが朝からずっと意気消沈したようすで誰とも口をきかなかった。見るからに独りで何か抱え込んでいるようすだ。昼休み、とうとう誰かが、何か悩み事でもあるのかと彼女に訊ねた。

するとようやくMちゃんはポツポツと語り始めたのだが、その話が、ちょっと信じられないものだった。「死者の霊に祟られているかもしれない」と言うのだ。

数日前の夜、同い年の女友だち2人と一緒に青山霊園に忍びこんで手持ち花火で遊んだのだという。青山で男友達を交えて酒を飲んだ帰りがけに、思いつきでコンビニで缶チューハイと花火を買って行ったそうだ。墓地には誰もおらず、大騒ぎしても咎められることもなかったので、酔っぱらった3人は図に乗って、墓石に腰かけたり花入れの水に花火の消しカスを突っ込んだりと好き勝手なことをした。

そのうち、とうとう墓石を倒した。墓石と一緒に卒塔婆も倒れて、そのお墓は滅茶苦茶になった。それで怖くなって、花火のゴミも空き缶もそこにうっちゃって逃げてきてしまった。

「その帰り道に友だちの1人が行方不明になって、翌日にはもう1人の友だちが交通事故で死んじゃったから、次は私だと思って神社でお祓いしてもらったの。そのお陰でまだ無事だけど、何かに見張られてる気がしてならなくて、どうしても怖くて……」

自然にMちゃんの周りを囲むように集まっていた私たちは、口ぐちに彼女を励ました。友だちが亡くなったり行方不明になったりしたのは偶然なのだから気に病むことはない、大丈夫だ、と。そのうち誰かが「そのお墓に謝りに行かなくていけない」と彼女を諭した。Mちゃんは困った顔をした。そして、こう言った。

「でも、あのお墓が青山霊園のどこにあるか思い出せないんです」

そのとき、ショートパンツをはいてペタンコ座りしたMちゃんの剥き出しの太股に、ポタッと真っ赤な液体が落ちてきた。Mちゃんと、彼女のごく近くにいた私と2、3人が悲鳴をあげた。私はすぐにMちゃんの顔を覗きこんだ。鼻血でも出したかと思ったのだ。「大丈夫?」

Mちゃんは真っ青になってブルブルと震えていた。鼻血は出していない。また、どこも怪我をしていない。それは周りにいた私たち全員がそうだった。彼女自身が出来ないようだったので、私がティッシュで彼女の太股に落ちた赤い液体を拭いた。ティッシュに付着した液体は、どう見ても血液だった。鼻を近づけると血液特有の金臭い臭いがした。天井から滴り落ちてきたかと思い、天井を見上げたが、天井にはシミひとつなかった。何もない空中から血の滴が落ちてきた。そうとしか思えなかった。

Mちゃんはひどく怯えて震えが止まらず、独りでは立つこともおぼつかなくなり、その後間もなく、スタッフに抱えられるようにして帰ってしまった。

その日の夜、Mちゃんが自宅で大怪我をしたという話を聞いたのは翌週のことだった。包丁で手を切ったというのだが、掌が真っ二つに千切れる寸前までザックリやってしまったそうで、当分は休業するという話だった。

それから半年ほど後、Mちゃんはいったん復帰した。しかし別人のように面変わりしてしまっていた。肌がくすみ、髪から艶が失われ、げっそり痩せ細って、十も二十も歳を取ったように見えた。精神状態も危うい感じで、独り言が多くなり、そんなありさまでは仕事も無く、ほどなくAV女優を引退した。最後に会ったとき、こんなことを言っていた。

「お墓で遊んじゃダメですね。切った手がまだ痛むけど、許されたって気がしないんです」

青山霊園からの帰り道で行方不明になったMちゃんの友だちは、いまだに見つかってないという。

(文/川奈まり子 http://sirabee.com/author/kawana_mariko/ )

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