超高温に耐える「炭素繊維&超高温セラミックス」の複合材料を開発
sorae.jp / 2022年12月7日 20時45分
マッハ5 (6200km/h) を超える極超音速で大気中を飛行する航空機や宇宙船は、機体表面と大気との接触により数千度を超える超高温にさらされます。この超高温に耐性を持つ材料として、これまでは炭素繊維強化炭素複合材料が利用されてきました。この材料は高い耐熱性と、航空宇宙産業で求められる軽量さを兼ね備えているのが特徴です。しかし、主な材料が炭素であるために高温では酸化されやすく、用途が制限されるという欠点がありました。
この欠点を克服するために、超高温セラミックス (※1) と炭化ケイ素の複合材料が検討されてきましたが、ケイ素化合物は超高温で共晶 (※2) の生成や酸化による劣化を受けやすく、1700℃以上の高温では著しい劣化が進行することが分かっています。
※1…ここで言う超高温セラミックスとは、炭化ジルコニウムやホウ化ジルコニウムを含む複合材料を指す。
※2…融けた物質が固化する時、複数の結晶構造が混ざり合った状態になること。共晶同士の結晶構造は微細に混ざっているため、単独の場合よりも脆くなる欠点がある。
東京理科大学の小出士純氏などの研究チームは、既存の複合材料の欠点を克服するため、以下の材料を作成し特性を評価しました。
まず、劣化の主因であるケイ素化合物を材料から省き、その上で軽量さを実現するために、炭素繊維と超高温セラミックスを複合させた「C/UHTCMC」が作成されました。C/UHTCMCの作成には、融解した金属を炭素繊維強化炭素複合材料に浸透させて隙間を埋める溶融含浸法が用いられました。研究チームは材料の特性を評価するために、超高温耐性が知られている金属のジルコニウムとチタンを、それぞれ「20:80」「36:64」「80:20」の3通りの割合で混合した合金を用意。これらの材料について3つの条件でアーク風洞試験 (※3) を行い、材料の損傷具合をテストしました。
※3…アーク放電で作動ガスをプラズマ化し、アークジェットとして試験材料に吹き付ける試験法。簡単に言えば、放電によって作られた超高温のプラズマを、口を絞ったノズルを通して超高速で吹き付ける方法であり、大気圏突入時の環境を再現することが可能です。
その結果、ジルコニウムの含有率が増えるほど、試験後の材料の厚さと、表面の酸化物の融点が増大することがわかりました。また、融けた表面が流れ出すことで、酸化が促進されることもあわせてわかりました。この現象は、ジルコニウムを含む炭化物複合材料のほうが、チタンを含む炭化物複合材料よりも優先して酸化反応が始まるという熱力学的な特性によるものであると推定されます。
さらに、表面に生じた酸化物を分析したところ、酸化物が表面を覆うことで内部への酸化反応の浸透が抑えられることもわかりました。酸化物の成分は主に二酸化ジルコニウム (ZrO2) 、二酸化チタン (TiO2) 、および複酸化物であるチタン酸ジルコニウム (ZrTiO4) のそれぞれの固溶体であることが判明しています。どの酸化物がどれくらいの割合で存在するのかは、合金の組成に依存することがわかりました。特に、ジルコニウムを80%含む合金を浸透させたC/UHTCMCでは、2000℃までは二酸化ジルコニウムの固体と液体が維持され、2600℃では表面に液体のみが生成され、表面にある酸化物が消失することが示されました。
大気圏突入のような環境では、高温に加えて大気の流れによる液体の流れが生じます。酸化物が流れ出すことで新しい表面が露出し、そこがまた酸化されて……という一連の現象によって、複合材料は徐々に浸食されてしまいます。
ジルコニウムを80%含む合金を浸透させたC/UHTCMCでは、このような現象が2000℃までは起こらず、2600℃になって初めて生じており、今回の実験で試験された他の組成よりも優れた特性を示すことがわかりました。C/UHTCMCの特性評価をさらに発展させることで、より耐性の高い改良された素材の作成が期待されます。
Source
Noriatsu Koide, et.al. “Degradation of carbon fiber-reinforced ultra-high-temperature ceramic matrix composites at extremely high temperature using arc-wind tunnel tests”. (Journal of Materials Science) 東京理科大学. “数千℃の高熱にも耐える炭素繊維強化超高温セラミックス複合材料の開発に成功 ~航空機やロケットの耐熱性向上に寄与~”.文/彩恵りり
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