NASAとDARPAが「核熱ロケットエンジン」の技術開発で協力 将来の有人火星探査も想定
sorae.jp / 2023年1月27日 17時0分
【▲ NASAとDARPAが2027年の実証試験実施を目指す核熱ロケットエンジン試験機の想像図(Credit: DARPA)】
アメリカ航空宇宙局(NASA)とアメリカ国防高等研究計画局(DARPA)は1月24日、将来の有人火星探査を見据えた「核熱ロケット(Nuclear Thermal Rocket:NTR)エンジン」の技術実証を共同で行うと発表しました。
核熱ロケットエンジンとは、核分裂反応で発生する熱を利用して水素などの推進剤を加熱・膨張させてノズルから噴射することで推力を得る推進システムで、「核熱推進(Nuclear Thermal Propulsion:NTP)ロケットエンジン」や「原子力推進ロケットエンジン」などとも呼ばれます。NASAとDARPAは「DRACO(Demonstration Rocket for Agile Cislunar Operations)」プログラムを通じて高度な核熱推進技術を共同開発し、2027年にも地球周回軌道で実証試験を行う予定だとしています。
DARPAによると、DRACOで提案されている原子炉の固体炉心の温度は最大で華氏5000度(摂氏約2760度)に達する可能性があり、開発には先端材料が欠かせないといいます。なお、核熱推進の研究は東西冷戦時代にまで遡り、かつてはNASAでも「NERVA(Nuclear Engine for Rocket Vehicle Application)」プログラムのもとで研究が進められたことがあります(1972年に中止)。
【▲ NASAによる核熱推進の解説動画(英語)】
(Credit: NASA)
現在利用されている主なロケットエンジンには、推進剤の化学反応で生じたガスを噴射する「化学燃料ロケットエンジン」(以下「化学推進」)と、電気で加速させた推進剤を噴射する「電気推進ロケットエンジン」(以下「電気推進」)があります。2種類のロケットエンジンを比較すると、化学推進は推力が高くて比推力(効率)が低く、電気推進は推力が低くて比推力が高いという特徴があります。たとえば宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」や「はやぶさ2」の場合、巡航フェーズでは効率に優れるイオンエンジン(電気推進)が使用され、機体の姿勢制御やサンプル採取(タッチダウン)時などではイオンエンジンよりも高い推力を発揮するスラスター(化学推進)が使用されました。
いっぽう、核熱ロケットエンジンは化学推進と電気推進の中間的な性能を有します。DARPAによると、核熱推進の推力重量比は電気推進の約1万倍で、宇宙で使用する場合の比推力は化学推進の2~5倍になるといいます。飛行時間を短縮して宇宙飛行士が負うリスク(宇宙放射線の被ばくなど)を軽減できるだけでなく、月や火星へ効率的かつ迅速に物資を輸送できる可能性もあることから、核熱ロケットエンジンは改めて注目されています。
関連:NASA長官が核熱推進ロケットエンジンに言及、実用化に意欲示す(2019年8月)
![【▲ 核熱ロケットエンジンを搭載した深宇宙探査用宇宙船の想像図(Credit: NASA)】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2023/01/NASA-nuclear_thermal_propulsion-concept.jpeg)
【▲ 核熱ロケットエンジンを搭載した深宇宙探査用宇宙船の想像図(Credit: NASA)】
ちなみに宇宙開発における原子力といえば、惑星探査機「Voyager(ボイジャー)」や火星探査車「Curiosity(キュリオシティ)」などに搭載されている「放射性同位体熱電気転換器(RTG)」を思い浮かべる人もいるでしょう。RTG(Radioisotope Thermoelectric Generator)は放射性物質が崩壊する時に発する熱から電気を得るための装置で、太陽電池では十分な電力が得られない太陽から遠く離れた領域などでも電力を得ることができます。
RTGは冥王星のフライバイ観測を行った探査機「New Horizons(ニュー・ホライズンズ)」や火星探査車「Perseveramce(パーシビアランス)」にも搭載されている他に、2027年の打ち上げを目指す土星の衛星タイタンの探査ドローン「Dragonfly(ドラゴンフライ)」への採用も決定しています。また、中国では海王星の衛星トリトンの探査を念頭に、電気推進の推力を高めるべくウラン235をエネルギー源に採用した無人探査機が提案されています。
関連
・タイタンで生命を探せ!NASAのドラゴンフライミッションに新たな進展(2021年8月)
・中国が開発を進める深宇宙探査機 電気推進の電源に原子力の利用を想定(2022年9月)
Source
Image Credit: DARPA, NASA NASA - NASA, DARPA Will Test Nuclear Engine for Future Mars Missions DARPA - DARPA, NASA Collaborate on Nuclear Thermal Rocket Engine文/sorae編集部
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