ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データから小惑星帯のきわめて小さな小惑星を偶然発見か
sorae.jp / 2023年2月12日 18時12分
マックス・プランク地球外物理学研究所の天文学者Thomas Müllerさんを筆頭とする研究チームは、火星と木星の間に広がる小惑星帯に存在するとみられる未発見だった小さな小惑星を「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡が検出したとする研究成果を発表しました。この小惑星は幅100~200m程度と推定されており、ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した天体として、また、これまでに見つかった小惑星帯の小惑星(メインベルト小惑星)として最小の可能性があるようです。
■キャリブレーション目的の観測で偶然検出 太陽系形成モデルの改良につながる可能性も今回発見が報告された小さな小惑星は、ウェッブ宇宙望遠鏡の「中間赤外線観測装置(MIRI)」によって2022年7月14日に取得されたデータから見つかりましたが、Müllerさんたちは最初から未知の小惑星を捜索していたわけではありませんでした。データの取得はMIRIのキャリブレーションが目的で、フィルターの性能をテストするために既知の小惑星「1998 BC1」(直径約15.7km)をターゲットに実施されたのですが、技術的な理由(ターゲットの明るさと望遠鏡のポインティング)で失敗したと判断されています。
キャリブレーションは上手くいかなかったものの、研究チームはこのデータを、赤外線のデータのみで小惑星の軌道の絞り込みとサイズの推定を可能にする「STM-ORBIT」と呼ばれる新しい手法の確立とテストに活用することにしました。MIRIによる1998 BC1の観測データを地上の望遠鏡や欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「ガイア」の観測データと組み合わせた結果、STM-ORBITの有効性が実証されました。
![【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置(MIRI)で検出された小さな小惑星の想像図(Credit: Artwork: NASA, ESA, CSA, N. Bartmann (ESA/Webb), Martin Kornmesser (ESA), Serge Brunier (ESO), Nick Risinger Photopic Sky Survey))】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2023/02/small-mainbelt-asteroid-artist-impression-detected-by-James-Webb-JWST-NASA-ESA-STScI-01GQQPMMF1ZCZPTF7N1T7NQE92.jpg)
【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置(MIRI)で検出された小さな小惑星の想像図(Credit: Artwork: NASA, ESA, CSA, N. Bartmann (ESA/Webb), Martin Kornmesser (ESA), Serge Brunier (ESO), Nick Risinger Photopic Sky Survey))】
MIRIの観測データを分析する過程で、研究チームは同じ視野に1998 BC1とは異なる未知の小惑星が写り込んでいることに気が付きました。この小惑星をSTM-ORBITで分析したところ、幅は100~230mで、軌道の傾斜角は小さく(0.7~2.0度)、ウェッブ宇宙望遠鏡が検出した時点で小惑星帯の内側領域に位置していた可能性が示唆されたのです。今回報告された小惑星は、小惑星帯における幅1km未満の小惑星の一例となるかもしれません。
「あなたが適切な物の見方をしていて、ほんのわずかな幸運にも恵まれていれば、たとえ失敗したものであってもウェッブ宇宙望遠鏡の観測データを科学的に役立てられる可能性を私たちの成果は示しています」(Müllerさん)
ESAによると、太陽系ではこれまでに110万個以上の小惑星が見つかっています。太陽系の形成と進化に関する現在のモデルはサイズが非常に小さな小惑星の形成を予測しているものの、小惑星は小さければ小さいほど発見や観測が困難であることから、大きな小惑星と比べて研究があまり進んでいないといいます。冒頭でも触れたように、今回報告された小惑星は小惑星帯で見つかったものとしては最小の可能性があり、新天体だと確認されれば太陽系の形成・進化を理解する上で重要な意味を持つことになります。
また、今回の成果はウェッブ宇宙望遠鏡が小惑星の検出でも役立つことを示しています。太陽系の平面に近い方向をウェッブ宇宙望遠鏡のMIRIで観測する場合、その視野には常に幾つかの小惑星が含まれていて、そのほとんどが未発見だった小惑星になるだろうと研究チームは考えています。ウェッブ宇宙望遠鏡の観測によって幅1km未満の小惑星を研究できるようになれば、太陽系の形成に関するモデルの改良につながるデータが得られるかもしれません。
ウェッブ宇宙望遠鏡や「ハッブル」宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)のBryan Hollerさんは「小惑星帯に存在するこれまでは検出できなかったサイズの小惑星を偶然検出できるMIRIの可能性を強調した素晴らしい成果です」とコメントしています。
Source
Image Credit: Artwork: NASA, ESA, CSA, N. Bartmann (ESA/Webb), Martin Kornmesser (ESA), Serge Brunier (ESO), Nick Risinger Photopic Sky Survey) NASA - Webb Detects Extremely Small Main Belt Asteroid ESA - Webb detects extremely small main-belt asteroid STScI - Webb Detects Extremely Small Main Belt Asteroid文/sorae編集部
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