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「ミマス」内部の海は"若い"? 現在進行形で拡大している可能性が示される

sorae.jp / 2023年2月12日 21時45分

土星の衛星「ミマス」は、かつては地質活動のない天体であると考えられてきました。ミマスの直径は約400kmと小さく、他の衛星との位置関係から潮汐力もあまり受けないため、内部で熱は生じていないと考えられていたためです。そのうえ、ミマスの表面に火山や谷のような構造はみられず、表面全体を覆うクレーターには埋められた形跡もありません。そのため、ミマスの内部は氷と岩石がほぼ均一に混ざり合っていて、明確な構造を持たないと考えられてきました。

しかし、NASAの土星探査機「カッシーニ」が、そのミッションの終わりごろにミマスに接近した時、状況が変わりました。ミマスの自転周期を厳密に測定すると、わずかながら振動していることがわかったのです。この現象は「秤動」と呼ばれていて、地球の月をはじめ多くの天体で一般的に起こる現象です。秤動に大きな影響を与えるのは公転軌道の特性ですが、ミマスの場合は公転軌道の値だけでは秤動を説明できないことがわかりました。

【▲ 図1: ハーシェル・クレーターが目を引く土星の衛星ミマス。その内部構造はよくわかっておらず、地殻の下に海があるという説と、非対称な形状を持つ核を持つという説が提唱されていました。 (Image Credit: Denton & Rhoden) 】

【▲ 図1: ハーシェル・クレーターが目を引く土星の衛星ミマス。その内部構造はよくわかっておらず、地殻の下に海があるという説と、非対称な形状を持つ核を持つという説が提唱されていました。 (Image Credit: Denton & Rhoden) 】

秤動の測定により、ミマスの内部は均一ではなく、分厚い地殻と大きな核に分かれた明確な構造を持つことが判明しました。ただし、大まかな構造は判明したものの、それだけでは秤動を完全には説明できません。

ミマスの秤動をうまく説明する最も簡単な方法は、地殻と核の間に液体の水の層があると仮定することです。この場合、地殻の厚さは24kmから31kmであり、その下には深さ40km未満の海が存在することになります。

関連:デス・スターに似た土星の衛星「ミマス」氷の下に内部海が存在する?(2022年1月20日)

しかし、海と呼べるほど大量の水が凍らずに液体のままで存在するためには熱源が必要であり、地質活動の証拠が見当たらないというミマスの状況と一致しません。そのため、内部に液体の水の層は存在せず、核が球形ではなくラグビーボール型に大きく変形していることで、対称形ではない核の構造が秤動に影響を及ぼしている、とする説も有力視されていました。

パデュー大学のC. A. Denton氏とサウスウエスト研究所のA. R. Rhoden氏の研究チームは、この謎を別のアプローチから検証しました。研究の対象となったのは、ミマスで最も目立つ「ハーシェル・クレーター」です。ハーシェル・クレーターは直径が約140kmと、ミマス自身の直径の3分の1程度もある大きなクレーターですが、より興味深いのはその構造です。クレーターの深さは約10kmで、高さ約6kmの中央丘が存在します。このような明確なクレーター構造は、地殻が硬くなければ形成されません。仮に、内部に海があって地殻が薄いとすれば、クレーターの形成時に地殻を破って海水が表面に現れるため、このような構造は形成されないはずなのです。

【▲ 図2: 衝突クレーターのシミュレーションの結果の一例。地殻の厚さが30kmの場合、内部の海が表面に現れてしまい、現在のクレーターの形状と一致しない。よく一致するのは、地殻の厚さが55km以上の場合である。 (Image Credit: Denton & Rhoden) 】

【▲ 図2: 衝突クレーターのシミュレーションの結果の一例。地殻の厚さが30kmの場合、内部の海が表面に現れてしまい、現在のクレーターの形状と一致しない。よく一致するのは、地殻の厚さが55km以上の場合である。 (Image Credit: Denton & Rhoden) 】

Denton氏とRhoden氏は、予想されるミマスの地殻の厚さを最も薄い予測値である25kmから全て凍結している場合の予測値である70kmまで様々な値に設定して、ハーシェル・クレーター形成時の衝突のシミュレーションを繰り返しました。地殻の厚さを内部に海が存在するモデルにおける値である30km未満に設定したシミュレーションでは、予想通り地殻は衝突によって破れてしまう結果となりました。実際の状況と結果が最も一致したのは地殻の厚さが55km以上の場合でしたが、現在のクレーターの形状がよく再現されたのは、内部で十分な熱が生じている場合のみでした。

以上の結果から、ハーシェル・クレーター形成時のミマスの地殻の厚さは55km以上であり、現在に至るまでの間に約30kmまで薄くなっている可能性が導かれます。つまり、ミマスには地質活動があり、徐々に内部が融けることで形成された若い海が存在する可能性が示唆されます。

このシナリオの場合、ミマスの地殻は現在進行形で徐々に薄くなっているため、地質活動が表面に現れるほど薄くはなっていないという現状と一致します。熱源やその保持には多くの謎が残りますが、液体の水が豊富に存在する場合は内部が完全に凍結している場合と比較して熱の保持に関するパラメーターが大きく変更されるため、この謎は新たなモデルを構築することで解明できる可能性があります。

ミマスの軌道要素は特殊であり、木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドゥスのように内部に海を持つと考えられる他の氷天体のモデルをそのまま適用することはできません。新たなモデルをイチから構築しなければならないという点で、この研究結果が検証されるにはしばらく時間がかかりそうです。

 

Source

C. A. Denton & A. R. Rhoden. “Tracking the Evolution of an Ocean Within Mimas Using the Herschel Impact Basin”. (Geophysical Research Letters) Deb Schmid. “SwRI investigations reveal more evidence that Mimas is a stealth ocean world”. (Southwest Research Institute)

文/彩恵りり

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