すべてのガリレオ衛星の「オーロラ」を可視光線で観測 カリストでは初
sorae.jp / 2023年3月6日 21時11分
木星は現時点で92個もの衛星が発見されていますが、その代表と言えるのが特に大きな4つの衛星です。1610年にガリレオ・ガリレイが発見したことにちなんで「ガリレオ衛星」と称されているこれら4つの衛星は、内側から「イオ」「エウロパ」「ガニメデ」「カリスト」と呼ばれています。
全てのガリレオ衛星には極めて希薄な大気が存在します。イオは潮汐力によって火山活動が活発であり、これが大気の供給源となっています。イオの大気は主に二酸化硫黄で構成されており、他のガリレオ衛星と比べて濃いという特徴があります。一方で、残る3つの衛星であるエウロパ、ガニメデ、カリストの大気の供給源は、あまりよくわかっていません。これらの衛星の大気は主に酸素で構成されていて、水や二酸化炭素も含まれていますが、イオの大気に比べれば希薄です。3つの衛星は表面が水の氷に覆われているため、当初は太陽光による光分解で水分子が水素と酸素に分解され、軽い水素がすぐさま逃げ出した結果として酸素を主成分とする大気が形成されたと考えられていました。しかし、後に酸素の濃度は光分解だけでは説明できないことが判明したことから、別の説明として、木星の磁場によって加速された荷電粒子 (電気を帯びた粒子) が水分子を分解している、という説が唱えられました。この説は衛星の大気の状態を概ね説明できていますが、細かいところには謎が残されていて、特に衛星の昼夜 (※1) による大気組成の微妙な変化が説明しきれていません。
※1…地球の月と同じく、ガリレオ衛星も同じ面を木星に向けたまま公転する同期自転をしています。そのため、ガリレオ衛星の自転周期は公転周期と一致しています。
ガリレオ衛星の大気の起源を正確に説明するためには、大気組成を厳密に測定する必要がありますが、地球上からの希薄な大気の観測は困難であり、コストのかかる木星探査機を送り込むことも簡単ではありません。しかし「オーロラ」を使えば、地球上の望遠鏡でも間接的にガリレオ衛星の大気を知ることができます。大気を構成する分子に荷電粒子が衝突すると、分子は一旦エネルギーを受け取りますが、直ちに放出します。このエネルギーは電磁波の形で放出され、オーロラとして観測されます。ガリレオ衛星では木星の磁場で加速された荷電粒子が衛星の大気に衝突するため、オーロラが生じます。オーロラの色は放出された電磁波の波長に左右されますが、その波長は分子の種類によって決まっています。裏を返せば、オーロラの波長と強度を調べることで、衛星の正確な大気組成を知ることができるのです。
しかし、オーロラの観測には別の困難もあります。オーロラと聞くと、緑色のカーテンのようなものを想像するかもしれませんが、可視光線 (ヒトの目で見ることができる電磁波) の波長を持つオーロラ光は極めて微弱です。ガリレオ衛星の場合、木星の衛星という距離の遠さに加えて、木星や衛星自身の反射光や散乱光がオーロラ光を隠すノイズとなってしまいます。
実際、これまでの可視光線の領域におけるガリレオ衛星のオーロラ観測は限られていて、そのほとんどはオーロラの強度が強いイオの観測例であり、他にはわずかながらエウロパの観測例があるのみでした。一方、可視光線よりも強度が強く、ノイズとの区別もしやすい紫外線領域でのオーロラは観測例が多く、イオとエウロパに加えてガニメデでも複数の観測例があります。しかし、より多くの情報を得るには可視光線のオーロラのデータが不可欠でした。また、カリストは唯一オーロラが観測されたことがなく、他のガリレオ衛星と比べても大気に関する情報が不足していました。
カリフォルニア工科大学のKatherine de Kleer氏らの研究チームは、オーロラを利用してガリレオ衛星の大気組成に関する正確な分析を試みました。
この研究では2つの重要なポイントがあります。1つ目は正確なオーロラの観測を行うための観測装置で、W.M.ケック天文台の「HIRES」、アパッチ・ポイント天文台の「ARCES」、そして大双眼望遠鏡の「PEPSI」が使用されました。これらはいずれも望遠鏡に設置された分光器であり、オーロラ光を波長別に正確に捉えることができます。
2つ目はガリレオ衛星の観測時期です。微弱なオーロラ光をHIRESで捉えられるように、今回の研究では木星によるガリレオ衛星の「食」が利用されました。地球の影に月が入り込む月食と同じように、ガリレオ衛星も木星の影に入り込むことがあります。衛星が影の中にある間は太陽に照らされないので反射光などのノイズが抑制され、微弱なオーロラ光を捉えやすくなります。今回の研究では、1998年から2021年までに起きた木星による衛星の食の可視光線領域 (一部は近赤外線を含む) での観測データ20回分が分析されました。1回の食では1つの衛星しか観測できないため、内訳はイオが10回、エウロパが4回、ガニメデが4回、カリストが2回となります (※2) 。
※2…ただし、イオ以外の3衛星では悪天候の影響であまり良いデータが得られなかった日が1回ずつ含まれています。これは詳細な分析では除外されています。
分析の結果、可視光線の複数の波長でオーロラ光を検出することに成功しました。いくつかの波長はガリレオ衛星では初めての検出となったものもあり、またカリストについては初めてのオーロラの観測となりました。
イオについては、過去の観測でもオーロラが観測されていましたが、今回初めて検出されたデータもいくつかあります。例えば、イオの火山からは塩化カリウムが噴出していることが示唆されていますが、これまでの観測ではイオから遠く離れた場所でのみ観測されていました。今回、カリウム原子が放出する光がオーロラの形で検出されたことで、イオの大気圏内で初めてカリウムが見つかりました。また、木星による食の前後でナトリウム原子の濃度を精密に観測することもできました。これまでの観測でも食の前後でナトリウムの濃度が急激に変化する様子が観測されていて、木星の影に入って日光が遮断されたことによる急激な温度変化に由来すると考えられていました。今回の観測では、影に入った後の10分間で急激にナトリウム濃度が減少した一方で、影から出た後に元の水準まで回復するには2時間かかることがわかりました。この非対称性は、日光の遮断による温度の低下とナトリウムの地表への落下が速やかに進行するのに対して、日光が当たってイオの地表が温まりナトリウムが昇華 (固体から気体への相変化) するまではタイムラグがあることを示す強力な証拠です。また、原子状酸素 (O) も大気中で検出されましたが、こちらは木星による食の前後で大きな変化は観測されませんでした。この結果は、原子状酸素の供給源がナトリウムとは異なることを示唆しています。
イオ以外の3つの衛星については、いずれも大気の主成分は酸素分子 (O2) であるという結果が得られており、これは他の手法による大気の分析結果と一致しています。また、エウロパとガニメデでは原子状酸素と水分子 (H2O) も検出されましたが、大気中の水の濃度は高く、その起源は追加の議論対象となります。3つの衛星は、氷の地殻の下に液体の水が豊富な内部海があるのではないか、とも予測されています。地下の海から噴出する水は、大気中に水を供給する源になりえます。ただし、今回の分析から推定される水の量には制約があり、地下の海に関する弱い証拠とはなりますが、決定的な証拠とは言えず、今回の分析では水の量が過剰に多く見積もられている可能性もあります。地下の海から供給された水だと主張するには、表面の氷からの昇華だけでは説明がつかない量であることを示す必要があり、これには追加の観測が必要です。
今回の観測では、全てのガリレオ衛星で可視光線の領域でオーロラが検出され、それぞれにユニークな特徴があることも分かりました。追加の観測は、ガリレオ衛星の大気に関してさらなるデータを与え、大気組成に影響を与える衛星の内部活動をより詳細に明らかにすると思われます。
Source
Image Credit: NASA, Schmidt, et.al. Carl Schmidt, et.al. “Io's Optical Aurorae in Jupiter's Shadow”. (The Planetary Science Journal) Katherine de Kleer, et.al. “The Optical Aurorae of Europa, Ganymede, and Callisto”. (The Planetary Science Journal) Maunakea, Hawaiʻi. “New Aurorae Detected On Jupiter’s Four Largest Moons”. (W. M. Keck Observatory)文/彩恵りり
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