恒星進化の理解を深める発見か 電波で再び明るくなった超新星をアルマ望遠鏡で観測
sorae.jp / 2023年3月8日 21時0分
【▲ 超新星爆発で放出された残骸が恒星を取り囲むガスに衝突する様子の想像図(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Maeda et al.)】
京都大学大学院理学研究科の前田啓一教授を筆頭に、大阪大学大学院理学研究科の道山知成特任研究員らが参加した研究チームは、2018年に発見された超新星「SN 2018ivc」について、爆発から約1年以上が経ってから電波の波長で再び明るくなっている様子を捉えたとする研究成果を発表しました。今回の成果は、超新星爆発を起こす大質量星の進化過程をさらに深く理解することにつながるかもしれません。
超新星爆発は、太陽の8倍以上の質量を持つ大質量星や、白色矮星を含む連星で起きるとされる激しい爆発現象です。このうち大質量星が起こすものは「II型超新星」と呼ばれており、進化した恒星内部の核融合反応で鉄のコア(核)が生成されるようになった頃、核融合のエネルギーで自重を支えられなくなったコアが崩壊し、その反動で恒星の外装が吹き飛ぶことで爆発に至ると考えられています。
関連:主星の超新星爆発を生き延びた伴星か? ハッブル宇宙望遠鏡による観測成果(2022年5月15日)
研究チームによると、大質量星の多くは連星を成しており、伴星との相互作用によって主星から剥ぎ取られたガスが連星系の周囲へ撒き散らされることが考えられるといいます。超新星爆発で飛び散った恒星の残骸は光速の約10パーセントにも達する速度で周囲へと膨張していきますが、恒星の周囲に存在しているガス(星周ガス)に残骸が衝突すると電波が放射されます(シンクロトロン放射)。この電波の強度や時間変化をもとに周囲のガスの性質を特定することで、ガスを放出した恒星の進化の過程を調べることができるといいます。
【▲ 天文学者が想像する大質量星の終焉の様子(動画)】
(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Maeda et al.)
そこで、研究チームはチリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」を使用して、「くじら座」の方向約3300万光年先の渦巻銀河「M77」で2018年11月に発見されたII型超新星「SN 2018ivc」を数年間に渡って観測しました。その結果、SN 2018ivcから届くミリ波(波長1~10mmの電波)は爆発から約200日後には一旦弱まっていたものの、爆発から約1年以上後に再び強まる様子が観測されました。超新星の再増光がミリ波で観測されたのは今回が初めてのことだとされています。
アルマ望遠鏡が捉えたミリ波の再増光は、超新星爆発を起こした恒星を取り囲んでいたガスに残骸が到達したことで生じたと推定されています。観測された再増光の強さや時間変化を研究チームが理論上の予測と比較したところ、連星相互作用によって超新星爆発の約1500年前に剥ぎ取られた大量のガスが、超新星爆発の発生地点から約0.1光年離れたところに濃く分布していた可能性が示されました。
![【▲ ハッブル宇宙望遠鏡が可視光線で捉えたSN 2018ivc(左)と、アルマ望遠鏡がミリ波で捉えた爆発約200日後(右上)および約1000日後(右下)のSN 2018ivc。アルマ望遠鏡は爆発の約300~500日後に始まったとみられる再増光を明確に捉えている(Credit: left: Based on observations made with the NASA/ESA Hubble Space Telescope, and obtained from the Hubble Legacy Archive, which is a collaboration between the Space Telescope Science Institute (STScI/NASA), the Space Telescope European Coordinating Facility (ST-ECF/ESA) and the Canadian Astronomy Data Centre (CADC/NRC/CSA); right: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Maeda et al.)】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2023/03/supernova-SN2018ivc-ALMA-2c09cbcd72a18bdfc775fdff13aa625c.jpg)
【▲ ハッブル宇宙望遠鏡が可視光線で捉えたSN 2018ivc(左)と、アルマ望遠鏡がミリ波で捉えた爆発約200日後(右上)および約1000日後(右下)のSN 2018ivc。アルマ望遠鏡は爆発の約300~500日後に始まったとみられる再増光を明確に捉えている(Credit: left: Based on observations made with the NASA/ESA Hubble Space Telescope, and obtained from the Hubble Legacy Archive, which is a collaboration between the Space Telescope Science Institute (STScI/NASA), the Space Telescope European Coordinating Facility (ST-ECF/ESA) and the Canadian Astronomy Data Centre (CADC/NRC/CSA); right: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Maeda et al.)】
前田さんによると、連星を成さない単独の星や、連星を成していても星どうしが離れている場合、大質量星は連星相互作用の影響を受けない進化の経路(単独星進化)を辿ります。また、星どうしの距離が近い(軌道半径が短い)連星の場合は爆発のずっと前に連星相互作用が起こるため、大質量星は静かな状態で超新星爆発を起こす進化の経路(連星進化)を辿ります。しかし、その中間にあたる進化の経路を辿る場合についてはこれまで観測的な証拠は得られておらず、体系的な理解が欠けていたといいます。
いっぽう、SN 2018ivcの場合は連星相互作用で大量のガスが放出された直後と言えるタイミングで超新星爆発が起きたと推定されることから、今回の成果は大質量星の進化で体系的な理解が欠けていた部分を埋める非常に重要なものだと受け止められています。また、今回の成果をもたらしたアルマ望遠鏡について前田さんは、超新星爆発や中性子星の合体といった突発天体現象の観測で今後も成果をあげることに期待を寄せています。
Source
Image Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Maeda et al., NASA/ESA Hubble Space Telescope, and obtained from the Hubble Legacy Archive, which is a collaboration between the Space Telescope Science Institute (STScI/NASA), the Space Telescope European Coordinating Facility (ST-ECF/ESA) and the Canadian Astronomy Data Centre (CADC/NRC/CSA) 京都大学 - 超新星の電波再増光が示す連星進化の道筋 大阪大学 - 超新星の電波再増光が示す連星進化の道筋 国立天文台アルマ望遠鏡 - 超新星の電波再増光が示す連星進化の道筋 Maeda et al. - Resurrection of Type IIL Supernova 2018ivc: Implications for a Binary Evolution Sequence Connecting Hydrogen-rich and Hydrogen-poor Progenitors (The Astrophysical Journal Letters)文/sorae編集部
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