太陽系に「スーパーアース」が存在したらどうなる? その悲惨な結末とは
sorae.jp / 2023年3月27日 22時5分
【▲ 月面を前景とした木星や地球などの惑星などのイメージ(Credit: NASA/JPL/ASU)】
私たちの地球がある太陽系の基本的な骨組みは、太陽という恒星の周りを水星から海王星まで8つの惑星が公転しているという構造をしています。地球の公転軌道は恒星(太陽)から一定の範囲に広がるハビタブルゾーン(生命居住可能領域)の中に位置しており、人類をはじめとした多くの生物にとっての故郷となっています。
しかし、太陽系の基本的な構造や地球の居住性は絶妙なバランスの上に成り立っていて、意外と脆いものであるということを、あらためて教えてくれる研究成果が発表されました。
この研究は、カリフォルニア大学リバーサイド校の天体物理学者スティーブン・ケイン(Stephen Kane)氏が行ったコンピュータシミュレーションによるものです。
成果をまとめた論文は「The Dynamical Consequences of a Super-Earth in the Solar System(太陽系におけるスーパーアースが引き起こす力学的影響)」というタイトルで「The Planetary Science Journal(惑星科学ジャーナル)」に掲載されています。
ケイン氏は、太陽系の惑星科学に関する2つの顕著なギャップに対処することが、この研究の意図だったと説明しています。
ギャップの1つ目は、太陽系における地球型惑星(岩石惑星)と巨大ガス惑星を隔てるサイズのギャップです。太陽系で最大の地球型惑星は私たちが住む地球で、最小の巨大ガス惑星は海王星です(海王星は天王星とともに巨大氷惑星に分類されることもあります)。
ところが、海王星の大きさ(半径)は地球の約4倍、質量は地球の約17倍と、2つの惑星のサイズには大きな違いがあります。地球と海王星のギャップを埋める惑星は、太陽系には存在しません。
![](https://sorae.info/wp-content/uploads/2023/03/nasa-solar-system-img1.jpg)
【▲ 太陽系の惑星と冥王星の図(Credit: NASA)】
ケイン氏は、太陽系以外の惑星系ではこのギャップを埋めるような質量を持つ惑星がいくつも存在すると指摘しています。地球よりも重くて海王星よりも軽いこのような惑星は「スーパーアース」(※)と呼ばれています。
(※)地球よりも大きな岩石惑星。また、2021年現在で980個のスーパーアースが報告されているということです。
もう1つのギャップは、太陽から見た、火星と木星の相対的な位置関係についてのギャップです。岩石惑星である火星とガス惑星である木星は太陽からの距離の差が大きく、他の惑星どうしと比べて隔たりが大きくなっています。そのため、惑星科学者はその場所(火星と木星の間)が無駄なように思えて、2つの惑星の間にも何かが存在していたと期待することがよくある、とケイン氏は語っています。
これらのギャップの研究は、太陽系の構造と地球の進化に関する重要な洞察を与えてくれる可能性があります。そこでケイン氏は、火星と木星の間にもさまざまな質量を持つ惑星(地球の1倍〜10倍の質量)が存在する仮想の太陽系のシミュレーションを実施し、他の惑星の軌道に対する影響を検証しました。
その結果は、太陽系にとって悲惨なものばかりでした。火星と木星の間に仮想の惑星が存在すると、木星の軌道が影響を受けることで、すべてが不安定になるというのです。木星は他の惑星よりもはるかに大きく、質量は地球の318倍もあるため、その重力の影響は深刻です。
ケイン氏がシミュレートした仮想の太陽系では、火星と木星の間に存在するスーパーアースや、太陽系の近くを通過する恒星などの天体が、木星を少しでも不安定な状態にすることで、他のすべての惑星が非常に大きな影響を受けることになったといいます。
スーパーアースの質量や公転軌道の位置によっては、水星や金星、地球を太陽系から追い出してしまう可能性があります。また、天王星や海王星の軌道も不安定になって、やはり太陽系外に放り出される可能性もあるとのこと。
また、地球が放り出されない場合でも、スーパーアースは地球の軌道の形を変えてしまう可能性があり、地球上の生命を完全に消滅させてしまうことはないにしても、地球の居住性は現在よりもはるかに低下してしまうようです。
![742541main_Kepler-62MorningStar-1_full(Credit:NASA Ames/JPL-Caltech/Tim Pyle)](https://sorae.info/wp-content/uploads/2023/03/202303_742541main_Kepler-62MorningStar-1_full.jpg)
【▲地球から約1200光年離れた太陽より小さい恒星の周りを回る「スーパーアース」サイズの惑星ケプラー62fの想像図(Credit: NASA Ames/JPL-Caltech/Tim Pyle)】
この研究は、太陽系以外の惑星(系外惑星)における生命居住の可能性にも関わってきます。恒星から遠く離れた木星のような巨大ガス惑星が発見される可能性は10%程度にすぎませんが、その存在によって、地球やスーパーアースのような惑星が安定した軌道を持つことができるかどうかが決め手となるからです。
この研究結果について、ケイン氏は「私たちの太陽系は、これまで考えていた以上に細かく調整されていて、まるで複雑な時計の歯車のように機能しています。余計な歯車を付け加えれば、すべてが壊れてしまいます」「多くの天文学者は余分な惑星を望んでいたにもかかわらず、それがないのは良いことなのです」と述べています。
Source
Image Credit: NASA Ames/JPL-Caltech/Tim Pyle UC Riverside - The planet that could end life on Earth The Planetary Science Journal - The Dynamical Consequences of a Super-Earth in the Solar System文/吉田哲郎
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