宇宙最初の世代の星「初代星」は単独ではなく集団で形成されていた可能性
sorae.jp / 2023年4月5日 11時30分
東京大学知の物理学研究センターのTilman Hartwig助教を筆頭に、国立天文台やハートフォードシャー大学などの研究者が参加した研究チームは、太陽系の近くに存在する古い星々の化学組成を解析した結果、約3分の2に複数の星から放出された元素が含まれていることがわかったとする研究成果を発表しました。今回の成果は、宇宙で最初に誕生した世代の星「初代星(ファーストスター)」の性質に関する新たな知見を得ることにつながると期待されています。
この宇宙が誕生したばかりの頃には、水素、ヘリウム、それにわずかな比率のリチウムしか存在していなかったと考えられています。天文学で「金属」と総称されるヘリウムよりも重い元素のほとんどは、恒星内部の核融合反応によって生成されたり、重い恒星が起こす超新星爆発などの激しい現象にともなって生成されたとみられています。恒星は星風や超新星爆発を通して周囲にガスや塵を放出するため、宇宙の金属量は恒星の世代交代が進むとともに増えていったとみられています。
恒星から届いた光のスペクトル(電磁波の波長ごとの強さ)に現れる吸収線(原子や分子が特定の波長の電磁波を吸収したことで生じる暗い線)を調べると、その星に含まれている金属の種類や量を知ることができます。宇宙に存在する金属の量は時間が経つにつれて増えていったはずなので、先代の星が撒き散らしたガスや塵を材料として形成される星の金属量は新しい星ほど多く、古い星ほど少ないことになります。
スペクトルから判明する金属量をもとに、金属が多い若い星は「種族I」、金属が少ない古い星は「種族II」に分類されています。金属が少ない星は「金属欠乏星」とも、金属がほとんど含まれない星は「超金属欠乏星」とも呼ばれています。いっぽう、金属を含まない星……つまり最初の世代である初代星は「種族III」に分類されますが、これまで実際に見つかったことはなく、初代星の性質は今も謎に包まれています。
今回、Hartwigさんたちは初代星の性質を解き明かすために、機械学習を利用して超金属欠乏星の化学組成を解析する新たな手法を開発しました。超金属欠乏星は宇宙に存在する金属がまだ少なかった時代に形成された星なので、初代星が生成した金属を含むガスから形成された可能性が考えられます。つまり、超金属欠乏星の恒星を形作っている元素の組成を調べることで、初代星の性質や初代星が起こした超新星爆発についての手掛かりが得られるかもしれないというわけです。
研究チームは初代星が単独で形成されるのか、それとも連星系や星団として複数が同時に形成されるのかという点を特に注目。超金属欠乏星を形作る元素の理論上予測される複数の組成パターンを学習させた上で、太陽系の近くにある超金属欠乏星462個の化学組成を解析しました。その結果、解析された超金属欠乏星のうち約68パーセントの組成は複数の初代星から放出された金属を含むとすれば説明できる、つまり複数の初代星に由来する金属を含む可能性が示されました。複数の初代星が同時に形成された可能性(Multiplicity)に対して定量的な制限を与えたのは、今回が初めてのこととされています。
研究に参加した国立天文台ハワイ観測所の石垣美歩助教は、「すばる望遠鏡」の新しい観測装置「超広視野多天体分光器(PFS)」を用いた大規模な探査観測が2024年から始まる予定であることに言及した上で、「本研究のアルゴリズムをPFSが新たに見つける超金属欠乏星の観測データに適用することで、未知の初代星と我々の宇宙の始まりに、新たな知見が得られることが期待されます」とコメントしています。
また、同じく研究に参加したハートフォードシャー大学の小林千晶教授は「初代星が近接連星系だった場合は、ビックバン直後の重力波源が今後の衛星や月面での観測で受かるかもしれません」とコメントしており、重力波天文学における将来の観測にも期待を寄せています。
Source
Image Credit: Kavli IPMU, Hartwig et al. Kavli IPMU - 人工知能が見つけた、最初の星はひとりではなかった 国立天文台すばる望遠鏡 - AI が読み解く化石星からのメッセージ ―宇宙で最初に生まれた星は孤独ではなかった― Hartwig et al. - Machine Learning Detects Multiplicity of the First Stars in Stellar Archaeology Data文/sorae編集部
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