白色矮星「[HP99] 159」のヘリウム燃焼を観測 Ia型超新星の謎の一部を説明する発見?
sorae.jp / 2023年4月19日 21時25分
太陽くらいの軽い恒星は、核融合反応が停止した後、外層からガスや塵を放出して、硬い芯を残します。「白色矮星」と呼ばれるこの硬い芯(コア、中心核)は、通常は核融合反応をしないため、ゆっくりと冷えていきます。
しかし、白色矮星が伴星として通常の恒星を引き連れている場合は話が異なります。白色矮星は強い重力で伴星の表面物質を剥ぎ取り、表面に堆積させることがあります。その量が限界を超えると、白色矮星で一瞬だけ核融合反応が発生し、膨大なエネルギーが放出されます。この爆発的なエネルギー放出は「Ia型超新星」と呼ばれます。
Ia型超新星にはエネルギーの放出量、つまり爆発の明るさが一定であるという特徴があります。これは、核融合反応が点火するきっかけとなる白色矮星の限界質量(太陽の約1.4倍)が一定であるためです。Ia型超新星の見た目の明るさは地球にいる観察者からIa型超新星までの距離によって決まるので、Ia型超新星が起きた銀河までの距離を決定する指標となります。
ただし、Ia型超新星の発生メカニズムは完全には理解されていません。白色矮星が爆発すると、爆風を受けた伴星からも表面の物質は剥がれるはずです。このため、爆発時に剥がれた水素の存在を示すスペクトル線が現れてもいいはずですが、未だにそのような観測結果は得られていません。
この矛盾を説明する仮説の1つに、爆発直前の伴星表面に存在するのは水素ではなくヘリウムであるとする説があります。実際に、高度に進化した恒星の一部では表面に水素がほとんどなく、ヘリウムが豊富に存在するタイプが見つかっています。このような伴星の表面から爆発時に剥ぎ取られるヘリウムの量は、伴星の質量の2%から5%というかなりの量であるため、観測するのに十分な量であるはずです。しかし、ヘリウムも水素と同様に、爆発時に伴星から剥ぎ取られたことを示す証拠は見つかっていません。
マックス・プランク地球外物理学研究所のJ. Greiner氏らの研究チームは、この疑問の部分的な答えを得る発見をしました。それは超軟X線源(※1)「[HP99] 159」の観測結果によるものです。天の川銀河の伴銀河(衛星銀河)である大マゼラン雲に存在する[HP99] 159は、X線の観測結果から白色矮星であることが分かっています。
※1…X線の中でもエネルギーが極めて低いものを超軟X線と呼びます。
![【▲ 図: [HP99] 159は、伴星である恒星から流入したガスがX線を放出している。今回のスペクトル分析では、そのほとんどがヘリウムで構成されていることが分かり、ほぼ純粋なヘリウム燃焼が起きていることが分かった。 (Illustration: F. Bodensteiner/background image ESO) 】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2023/04/e0fa50c923e0d31980a4a48ba0943e77.jpg)
【▲ 図: [HP99] 159は、伴星である恒星から流入したガスがX線を放出している。今回のスペクトル分析では、そのほとんどがヘリウムで構成されていることが分かり、ほぼ純粋なヘリウム燃焼が起きていることが分かった(Illustration: F. Bodensteiner/background image ESO)】
今回、南アフリカ大型望遠鏡(Southern African Large Telescope)での観測により、[HP99] 159の周りにある降着円盤に由来するスペクトル線が見つかりました。興味深いことに、[HP99] 159のスペクトル線にはヘリウムと窒素しか検出されず、水素など他の元素は見つかりませんでした。窒素の量はヘリウムよりもずっと少ないため、降着円盤は実質的に純粋なヘリウムでできていることが示唆されます。検出されているX線のエネルギーも、ヘリウムの継続的な燃焼で放出されるものと一致しています。
このため、今回観測されたスペクトル線は、白色矮星である[HP99] 159で起こっているヘリウムの燃焼 (核融合反応) がその源である可能性を示しています。なお、ヘリウム以外に見つかった唯一の元素である窒素は、ヘリウムの層が剥き出しになる段階まで進化した恒星で合成される元素と一致します (※2) 。このことから、[HP99] 159の降着円盤の源は、ヘリウムの層が剥き出しになった恒星であることが分かります。
※2…太陽より重い恒星では、CNOサイクルと呼ばれる炭素・窒素・酸素の合成が循環するサイクル反応が発生する。窒素はCNOサイクルで生成される主要な元素の1つである。
なお、[HP99] 159に対するヘリウムの降着速度はかなり遅いと推定されているため、Ia型超新星が起こるまで質量が蓄積されるのかどうかは分かっていません。しかし、Ia型超新星より少し弱い爆発現象である「Iax型超新星」ならば発生する可能性があります。
Ia型超新星全体の約30%を占めるIax型超新星は爆発の威力が低いため、伴星から剥ぎ取られる物質の量も少なくなります。このため、Ia型超新星でヘリウムのスペクトル線が見つからないのは、少なくともその一部では観測できないほどわずかなヘリウムしか放出されていないため、と説明することができます。
なお、モデル計算に基づき、[HP99] 159のようにガスの流入量が少ない場合、ヘリウムの燃焼は不安定であると推測されています。その一方で、[HP99] 159の過去50年分の観測データからは、不安定な燃焼に由来するX線強度の極端な変化は観測されていません。この矛盾については、[HP99] 159が高速で自転しているために、ヘリウムの降着が安定化しているからだと推定されています。
いずれにしても、[HP99] 159のようにヘリウムの存在と燃焼が詳しく観測された白色矮星はほとんどありません。Greiner氏らは、[HP99] 159のように安定したヘリウム燃焼をしている白色矮星は天の川銀河に30個ほど存在し、大マゼラン雲にも数個存在すると推測しています。追加の観測で[HP99] 159のような白色矮星が発見されれば、さらに多くのことが分かるようになるかもしれません。
Source
J. Greiner, et.al. “A helium-burning white dwarf binary as a supersoft X-ray source” (Nature) Norbert Langer & Jochen Greiner. “Helium-burning white dwarf discovered” (Universität Bonn)文/彩恵りり
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