1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. 環境・自然・科学

ESAが2024年打ち上げ予定の「PROBA-3」2基の小型人工衛星でどのように太陽コロナを観測するのか?

sorae.jp / 2023年5月3日 11時5分

SpaceXの「Starlink(スターリンク)」やAmazonの「Kuiper(カイパー)」などの「衛星コンステレーション」は、多数の小型人工衛星を協調させて動作するシステムとして知られています。例えばStarlinkはすでに4000機以上の衛星が打ち上げられていて、日本を含む世界各地で衛星インターネットサービスを利用できるようになりました。

【▲2機の小型人工衛星で太陽コロナを観測するPROBA-3の想像図(Credit: ESA-P. Carril)】

一方、欧州宇宙機関(ESA)のような宇宙機関も、衛星コンステレーションとは別の仕組みで複数の小型人工衛星を協調的に運用させるプロジェクトを始めています。ESAは、「PROBA-3」プロジェクトで打ち上げ予定の2機の小型人工衛星の組立を3月27日に完了したと報告しています。

【▲ ESAによるPROBA-3の紹介動画】
(Credit: ESA)

複数の人工衛星で互いを制御しあう「編隊飛行」

ESAによる一連の「PROBA(PRoject for On-Board Autonomy)」プロジェクトは、小型人工衛星の自律化を実現するための一連の技術実証ミッションです。最初のミッションは地球観測を目的とした「PROBA-1」(打ち上げ年: 2001年)で、紫外線で太陽の観測などを行う「PROBA-2」(打ち上げ年: 2009年)と続きました(※)。

2014年7月に開始した「PROBA-3」ミッションは、2機の小型人工衛星を軌道に投入し、位置や姿勢を協調的に制御する「編隊飛行(Formation Flight)」方式を採用しています。重量250kgの「OSC(Occulter Spacecraft)」(1.4m×1.1m×1.2m)と350kgの「CSC(Coronagraph spacecraft)」(1m×1.5m×1.2m)は144mの距離を保ちながら飛行し、近地点600km・遠地点60,530kmの地球周回軌道を約19.5時間で1周します。

※...2013年に打ち上げられた地球観測衛星「PROBA-V」はPROBAから派生したミッションで、地上の植生状況を観測する。PROBA-Vの「V」は「植生(Vegetation)」を意味する。

【▲遮光器の役割を果たす小型人工衛星「OSC」(Credit: ESA)】

【▲太陽コロナを観測する役割を果たす小型人工衛星「CSC」(Credit: ESA)】

【▲2機の小型人工衛星の配置を示す模式図。OSCとCSCの距離を20〜250mまで、角度を両側に30度まで変えることが可能。(Credit: D. Galano, et. al.(2019)】

【▲2機の小型人工衛星の配置を示す模式図。OSCとCSCの距離を20〜250mまで、角度を両側に30度まで変えることが可能。(Credit: D. Galano, et. al.(2019)】

PROBA-3の目的は、2機の小型人工衛星の配置を巧みに利用して、太陽コロナを観測することです。通常、太陽コロナを観測する時は、円盤状の遮光器で人工的に「日食」のような状況を作り出す「コロナグラフ」が使用されます。太陽の本体(光球)が眩しいために普段は見えない太陽コロナが皆既日食の時は見えるようになるのと同じように、コロナグラフを使えば遮光器で太陽本体を隠して太陽コロナだけを観測できるのです。

PROBA-3の場合、OSCに搭載された直径1.4mの遮光器で太陽本体の光を遮り、CSCに搭載された観測装置「ASPIICS」で太陽コロナを観測します。皆既日食時に太陽・月・地球が直線状に並ぶように、2機の小型人工衛星は太陽・OSC・CSCの順に並ぶように飛行し、OSCが作る「影」の円錐の中心にASPIICSの「瞳」が配置されるように制御されます。

【▲Proba-3の2つの小型人工衛星が太陽コロナを観測する様子を示す想像図。CSC、OSC、太陽の順番に並んで、太陽コロナだけが観測できる状態にする。(Credit: ESA - P. Carril, 2013)】

【▲Proba-3の2つの小型人工衛星が太陽コロナを観測する様子を示す想像図。CSC、OSC、太陽の順番に並んで、太陽コロナだけが観測できる状態にする。(Credit: ESA - P. Carril, 2013)】

ESAによると、2機の小型人工衛星は2024年にインドから打ち上げられる予定で、2年以上かけて1000時間分以上の太陽コロナのデータを収集するようです。

小型人工衛星の実証実験から中・大型人工衛星の編隊飛行の足がかりを作る

編隊飛行のプロジェクトはPROBA-3だけではありません。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の技術試験衛星「きく7号(ETS-VII)」やアメリカ航空宇宙局(NASA)が計画中の宇宙重力波望遠鏡「GRACE」など、大型・中型の編隊飛行の事例は少なからず存在します。しかし、PROBA-3のような小型人工衛星による編隊飛行は少ないようです。

ESAが打ち上げを計画していたX線観測装置「XEUS」のような大型人工衛星の編隊飛行を実現するためにも、小型人工衛星を活用した編隊飛行の実証実験となるPROBA-3が有意義なマイルストーンとなることが期待されます。

関連: 人工衛星「おりひめ」「ひこぼし」、別離と再会と「子どもたち」(2016年7月)

 

Source

Image Credit: ESA-P. Carril ESA - Proba-3 complete: Formation-flying satellites fully integrated ESA - Proba-3 Mission eoPortal - PROBA-3 (Project for On-Board Autonomy-3) Conference: 10th International Workshop on Satellite Constellations and Formation Flying (IWSCFF) - PROBA-3: Precise formation flying demonstration mission doi: 10.1051/0004-6361/202140467 - Expected performances of the PROBA-3/ASPIICS solar coronagraph: Simulated data doi: 10.13009/EUCASS2019-764 - Proba-3: Challenges and Needs for Sub-Millimetre Autonomous Formation Flying 光学赤外線天文連絡会 - 超小型衛星の国際動向と編隊飛行への応用

文/Misato Kadono

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください