銀河の中心部に潜む巨大すぎるブラックホールの比較動画 NASAが公開
sorae.jp / 2023年5月5日 21時30分
まずはアメリカ航空宇宙局(NASA)のゴダード宇宙飛行センターが作成した以下の動画をご覧下さい。この動画では10個の超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)と太陽系のサイズが比較されています。
超大質量ブラックホールは様々な銀河の中心部に存在するとされる天体で、その質量は太陽の数十万倍~数十億倍程度、時には100億倍以上にも達します。
【▲ NASAゴダード宇宙飛行センターが作成した超大質量ブラックホール10個と太陽系のサイズ比較。sorae編集部が一部編集し字幕を付けています】
(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab)
なお、ブラックホールのサイズは中央に見える真っ暗な“シャドウ(影)”のサイズをもとに比較されています。シャドウはブラックホールの強大な重力によって周辺の光の進行方向が曲がることで生じており、NASAによればシャドウの直径は“事象の地平面”(光がブラックホールの重力から脱出できる限界の距離で描かれた仮想の球体)の約2倍です。シャドウの周囲に見えるリングはブラックホールを周回しながら落下していく高温のガスを現したもので、色はガスの温度を示しています(赤よりも青いほうが高い)。
動画で最初に登場するのは我らが太陽の姿。その右下に現れるのは矮小銀河「1601+3113」のブラックホールです。このブラックホールの質量は太陽の約10万倍で、シャドウのサイズは太陽よりも小さいといいます。視野が広がっていくにしたがって、渦巻銀河「コンパス座銀河(Circinus galaxy)」や楕円銀河「M32(Messier 32)」のブラックホールが見えてきます。
4番目に現れるのは、天の川銀河の中心にあるブラックホール「いて座A*(いてざエースター、Sgr A*)」です。いて座A*の質量は太陽の約430万倍で、シャドウの直径は水星の公転軌道の半分とされています。2022年5月にはいて座A*のシャドウを電波で捉えたとする研究成果を国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」が発表して話題になりました。
関連:【解説】天の川銀河の超大質量ブラックホール「いて座A*」ついに撮影成功! その輪郭が捉えられた(2022年5月13日)
続いて現れる2つのブラックホールはどちらも特異銀河「NGC 7727」の中心部で見つかったもので、質量は太陽の約600万倍および約1億5000万倍以上とされています。この2つのブラックホールは約1600光年しか離れておらず、現在観測されている状態から2億5000万年ほど後には合体して1つのブラックホールになると予想されています。
関連:地球から8900万光年先の銀河で超大質量ブラックホールのペアを発見か(2021年12月3日)
動画はこの時点ですでに海王星の公転軌道を超える範囲が写し出されていて、超大質量ブラックホールどうしのサイズ比較の性質が色濃くなっていきます。
7番目に現れるのは天の川銀河の近くにある有名な渦巻銀河「アンドロメダ銀河(Andromeda galaxy、M31)」のブラックホール。その隣にはさらに巨大な電波銀河「はくちょう座A(Cygnus A)」のブラックホールが現れます。はくちょう座Aのブラックホールの質量は太陽の約25億倍と推定されています。
彗星の巣とも呼ばれる太陽系のオールトの雲(Oort cloud)が見え始めた頃に現れるのは、楕円銀河「M87(Messier 87)」のブラックホールです。NASAによれば「ハッブル」宇宙望遠鏡とハワイのW.M.ケック天文台による最新の観測成果をもとに、M87中心部の超大質量ブラックホールの質量は太陽の約54億倍と推定されています。質量に比してシャドウの直径も大きく、光の速度でも横切るのに2日半ほどを要するといいます。
2019年4月には前出のEHTがこのブラックホールのシャドウを史上初めて捉えることに成功したとする成果を発表しました。オレンジ色に着色されたリング状の像を見たことがある人も多いと思いますが、このブラックホールのシャドウとM87の中心部から放出されているジェットの根元を同時に捉えることに成功したとする成果も先日発表されたばかりです。
関連:超巨大ブラックホール周辺の構造とジェットの根元を初めて同時に捉えることに成功(2023年4月27日)
そして動画の最後、10番目に登場するのは地球から100億光年以上離れたクエーサー「TON 618(Tonantzintla 618)」のブラックホールです。クエーサー(Quasar)は銀河中心部の狭い領域から強い電磁波を放射する活動銀河核(AGN)の一種で、活動銀河核のなかでも特に明るいタイプを指します。
NASAによると、TON 618の活動の原動力となっているこのブラックホールの推定質量は、実に太陽の約600億倍。シャドウの直径は光速でも横切るのに数週間かかるほどだといいます。
宇宙では銀河どうしの合体も決してめずらしいことではなく、合体の様々な段階にある銀河が観測されていますし、天の川銀河も数十億年後にはアンドロメダ銀河と合体して1つの銀河になると予想されています。5番目と6番目に登場したNGC 7727のブラックホールからもわかるように、銀河どうしが合体を繰り返す過程では銀河中心部の超大質量ブラックホールもまた合体し、成長してきたと考えられています。
今回公開された動画は2分に満たない短いものですが、広大な宇宙のスケールと長い歴史を改めて感じさせてくれます。
※記事中の距離は天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています。
Source
Image Credit: NASA's Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab NASA - NASA Animation Sizes Up the Universe’s Biggest Black Holes NASA Scientific Visualization Studio - NASA Animation Sizes Up the Universe’s Biggest Black Holes文/sorae編集部
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