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土星の新衛星が62個発見され総数145個に 衛星数が100個を超えた初の惑星

sorae.jp / 2023年5月16日 20時20分

太陽系には巨大ガス惑星の「木星」と「土星」が存在します。2つの惑星はどちらも強い重力の影響を周囲に及ぼしており、多数の「(自然)衛星」を保持していることが分かっています。

ところで、「衛星」とはそもそもどのような天体なのでしょうか?

2006年に国際天文学連合の総会で定義が定められた惑星とは異なり、衛星には明文化された定義が存在しません。現状では事実上の定義として「太陽以外の天体を長期的に公転していると観測で証明された天体」が衛星と呼ばれています。そのため、短期間だけ惑星を周回した小惑星や彗星 (※1) 、個別に識別・追跡ができない土星の環を構成する小天体 (※2) は衛星としてカウントされません。

観測を通して衛星であると証明された天体の報告は、太陽系内の小さな天体を管轄する「小惑星センター」が受け付けており、同センターが発行する小惑星電子回報(MPEC)に掲載されることで、発見が正式に認められた形となります。

【▲ 図1: 春分の土星 (Image Credit: NASA/JPL/Space Science Institute) 】

【▲ 図1: 春分の土星(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)】

ブリティッシュコロンビア大学のEdward Ashton氏などの研究チームは、2019年から2021年にかけてハワイのマウナケア山頂にある「カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡」で土星の観測を行った結果、多数の衛星を発見したと報告しました。

今回の観測では「シフトアンドスタック」と呼ばれる、衛星が天空を移動する速度に合わせて望遠鏡の視野を移動させる技術が使われました。この観測手法では取得した画像を何枚も重ねることで天体の明るさを強調することが可能であり、一度の観測では識別できないほど暗い天体でも識別できるようになります。このような技術は天王星や海王星のようにより遠い惑星の衛星探しに利用されたことはありますが、土星の衛星探しで用いられたのは初めてです。今回は3時間の間に撮影された画像を重ね合わせることで、直径が約2.5kmよりも大きな衛星を撮影することが期待されます。

また、研究チームがカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡に加えて「すばる望遠鏡」で取得された過去の観測データにも同じ天体が写っていないか調べた結果、一部の衛星については古い場合で2004年まで遡ることができたため、より正確な軌道データが算出されました。これらのデータの一部には、過去に新衛星の候補としてアーカイブされていたものの、今回の観測記録が追加されるまでは新衛星を発見したと断定できていなかった天体も含まれています。

今回の観測の結果、研究チームは土星の新しい衛星を合計62個発見したと報告しました。土星の衛星の総数は83個から145個になり、土星は自然衛星の数が100個を超えた初めての惑星となりました (※3) 。クリスティアーン・ホイヘンスが1655年に発見したタイタン以来、368年間で発見された土星の衛星総数の実に約40%が今回の報告分で占められていることになります。

【▲ 図2: 新衛星62個のうち、2023年5月16日時点で名称とデータが公表されている58個の衛星の名称や軌道要素などをまとめた表。 (Image Credit: 彩恵りり) 】

【▲ 図2: 新衛星62個のうち、2023年5月16日時点で名称とデータが公表されている58個の衛星の名称や軌道要素などをまとめた表(Credit: 彩恵りり)】

この記事の執筆時点 (2023年5月16日) では、62個のうち58個の衛星について仮符号と公転軌道に関するデータが小惑星電子回報に掲載・公開されています。その中には、「S/2007 S 5」という衛星について、既に使用済みであった別の仮符号を誤って使用してしまうという、衛星の電子回報では前例のない出来事もありました (第49衛星アンテで使用済みの「S/2007 S 4」を使ってしまった) 。

掲載されているどの衛星も、土星からの平均公転距離が1100万kmから2600万kmと極めて遠くにある「不規則衛星」であり、軌道を1周するのに1年から4年もかかります。また、公転軌道の類似性にもとづくグループ分けでは、58個のうち49個が北欧群、7個がイヌイット群、2個がガリア群に暫定的に分類されています。

【▲ 図3: 衛星の仮符号の命名規則。具体的な名称が与えられるまではこの仮符号が正式名称の扱いとなる。 (Image Credit: 彩恵りり) 】

【▲ 図3: 衛星の仮符号の命名規則。具体的な名称が与えられるまではこの仮符号が正式名称の扱いとなる(Credit: 彩恵りり)】

今回発見された新衛星は、各グループの起源を探るのに役立つかもしれません。例えば、北欧群に属する衛星の公転軌道は逆行軌道 (土星の自転方向と逆の公転軌道) であるため、土星と共に誕生したのではなく、土星とは別の場所で誕生した後に捕獲された天体を起源とすると推定されています。北欧群の軌道は多種多様であるため、捕獲された天体は複数存在し、その天体に別の天体が衝突した結果ばらまかれた破片が北欧群を形成しているとも考えられています。同じような捕獲天体説はイヌイット群やガリア群でも提唱されています。

今回の新衛星の発見で不規則衛星の数は2倍以上に増加しており、不規則衛星の起源を推定するための新たなデータが多数追加されたと言うこともできます。このような大量の衛星の発見は、衛星を含めた土星系全体の誕生と進化の様子を探ったり、巨大な惑星が他の天体を捕獲したり軌道を変更したりする確率を推定する上でも役立つでしょう。

今回更新された土星の衛星総数145個は木星の95個を大きく上回っており、土星は太陽系で最も多くの衛星を持つ惑星になりました。今回発表された新衛星と同等の大きさの衛星は、ほぼ全てが発見されたと推定されます (※4) 。しかし、土星や木星を公転している実際の衛星総数は不明です。

例えば、木星の衛星は直径が800m以上あるものだけでも300個から1200個存在すると推定されています。現時点で観測できる不規則衛星の直径は、土星では2.5km以上、木星では3km以上であると推定されているため、大半の衛星が未発見のままだと予測できます。

【▲ 図4: 木星と土星の数の推移。2000年以降は多くの衛星が報告されており、一度に数十個の発見が報告されている時期もある。 (Image Credit: 彩恵りり) 】

【▲ 図4: 木星と土星の数の推移。2000年以降は多くの衛星が報告されており、一度に数十個の発見が報告されている時期もある(Credit: 彩恵りり)】

2000年以降、土星と木星については一度に数十個もの衛星の発見が報告されることも珍しくなく、最も衛星が多い惑星のランキングは4回も入れ替わっています (同数1位である期間を除く) 。今回の観測に使われた技術であるシフトアンドスタックは、複数の衛星を同時に発見することができるので、今後も一度に大量の新衛星の発見が報告されるかもしれません。そのため、「最も衛星が多い惑星」という称号は、衛星の発見がまとまって報告された時期に依存するものとして、この先はあまり意味を持たなくなるかもしれません。

 

※1…一時的に捕獲された天体を衛星とカウントできる場合、例えば地球には月以外に4個の衛星があったことになります。

※2…土星の環は数µmほどの小さな粒子でできていると推定されていますが、これらは基本的に個別の天体としては識別されておらず、衛星としても登録されていません。また、直径数十mと推定される大きな塊は「小衛星 (Moonlet)」として150個ほど観測されたことがありますが、これも衛星としては登録されていません。唯一の例外は、直径が約300mと例外的に大きく、個別の天体として観測できた「S/2009 S 1」の1例のみです。

※3…土星のF環には、個別の天体として仮符号が振られている3個の衛星 (S/2004 S 3、S/2004 S 4、S/2004 S 6) がありますが、これはF環内で一時的に生じた塊であると推定されており、後の観測でも見つかっていません。また、「S/2004 S 3」と「S/2004 S 4」は同一の天体である可能性もあります。これらを含めれば土星の衛星数は148個となりますが、通常この3個は土星の衛星数にカウントされません。

※4…2019年の研究では、土星における直径2.8km以上の不規則衛星の数は150±30個と推定されています。今回の観測では直径2.5km以上の衛星が観測可能であり、結果として不規則衛星の総数は121個となるため、直径2kmオーダーの未発見な不規則衛星があるとしても30個前後となる。

 

Source

Minor Planet Electronic Circulars. “2023-J21: S/2020 S 1”. “2023-J22: S/2006 S 9”. “2023-J23: S/2007 S 4”. “2023-J24: S/2004 S 40”. “2023-J25: S/2019 S 2”. “2023-J26: S/2019 S 3”. “2023-J27: S/2020 S 2”. “2023-J28: RETRACTION OF M.P.E.C 2023-J23”. “2023-J34: S/2007 S 5”. “2023-J35: S/2020 S 3”. “2023-J36: S/2019 S 4”. “2023-J37: S/2004 S 41”. “2023-J38: S/2020 S 4”. “2023-J39: S/2020 S 5”. “2023-J40: S/2007 S 6”. “2023-J41: S/2004 S 42”. “2023-J42: S/2006 S 10”. “2023-J43: S/2019 S 5”. “2023-J45: S/2004 S 43”. “2023-J46: S/2004 S 44”. “2023-J47: S/2004 S 45”. “2023-J48: S/2006 S 11”. “2023-J49: S/2006 S 12”. “2023-J55: S/2019 S 6”. “2023-J56: S/2006 S 13”. “2023-J57: S/2019 S 7”. “2023-J58: S/2019 S 8”. “2023-J59: S/2019 S 9”. “2023-J60: S/2004 S 46”. “2023-J61: S/2019 S 10”. “2023-J62: S/2004 S 47”. “2023-J63: S/2019 S 11”. “2023-J64: S/2006 S 14”. “2023-J67: S/2019 S 12”. “2023-J68: S/2020 S 6”. “2023-J69: S/2019 S 13”. “2023-J79: S/2005 S 4”. “2023-J80: S/2007 S 7”. “2023-J81: S/2007 S 8”. “2023-J82: S/2020 S 7”. “2023-J83: S/2019 S 14”. “2023-J84: S/2019 S 15”. “2023-J85: S/2005 S 5”. “2023-J163: S/2006 S 15”. “2023-J164: S/2006 S 16”. “2023-J165: S/2006 S 17”. “2023-J166: S/2004 S 48”. “2023-J167: S/2020 S 8”. “2023-J168: S/2004 S 49”. “2023-J169: S/2004 S 50”. “2023-J170: S/2006 S 18”. “2023-J171: S/2019 S 16”. “2023-J172: S/2019 S 17”. “2023-J173: S/2019 S 18”. “2023-J174: S/2019 S 19”. “2023-J175: S/2019 S 20”. “2023-J176: S/2006 S 19”. “2023-J177: S/2004 S 51”. “2023-J178: S/2020 S 9”. “2023-J179: S/2004 S 52”. (Minor Planet Center) Alex Walls. “Saturn now leads moon race with 62 newly discovered moons”. (The University of British Columbia) Scott S. Sheppard. “Saturn Moons”. (Carnegie Institution for Science) Tommy Grav & James Bauer. “A deeper look at the colors of the saturnian irregular satellites”. (Icarus) Edward Ashton, Matthew Beaudoin & Brett J. Gladman. “Edward Ashton, Matthew Beaudoin & Brett J. Gladman”. (The Planetary Science Journal) Edward Ashton, Brett Gladman & Matthew Beaudoin. “Evidence for a Recent Collision in Saturn's Irregular Moon Population”. (The Planetary Science Journal)

文/彩恵りり

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