“怖いバービー” の正体はブラックホール? 突然現れた宇宙最大の爆発現象
sorae.jp / 2023年6月5日 21時0分
超新星爆発やクエーサーをはじめ、宇宙には高エネルギーな天文現象が数多くあります。このような天文現象を一度に多数観測することも観測能力の向上とともに容易になってきましたが、観測される数が増えたことによって、従来の分類には当てはまらない天文現象が多数見つかるという新たな謎も増えてきました。これらの天文現象に関する理解は今もなお発展途上であると言えます。
![【▲ 図1: AT 2021lwxが観測された前後の天文画像。AT 2021lwxが現れた場所に (左側) 、発生前は何も写っていないように見える (中央および右側) 。 (Image Credit: Subrayan, et.al.) 】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2023/06/AT2021lwx-001.jpg)
【▲ 図1: AT 2021lwxが観測された前後の天文画像。AT 2021lwxが現れた場所に (左側) 、発生前は何も写っていないように見える (中央および右側) 。(Credit: Subrayan, et.al.)】
こぎつね座に現れた天文現象「AT 2021lwx」も、そんな謎多き天体の1つです。AT 2021lwxという名称は突発天体に付けられるカタログ名であり(ATは突発天体を意味するAstronomical Transientの略)、他にも小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)による「ATLAS20bkdj」、ツビッキー掃天観測 (ZTF) による「ZTF20abrbeie」、パンスターズ (Pan-STARRS) による「PS22iin」といった別名があります。特にZTFによるカタログ名の末尾は “バービー(Barbie)” に似ていることから、AT 2021lwxには “怖いバービー(Scary Barbie)” という通称が付けられています。
AT 2021lwxはATLASによって2020年11月10日に初めて観測されましたが、その後3年が経っても明るく輝いています。通常、超新星が明るく輝く期間は長くても数か月であることを考えると、長期間に渡るAT 2021lwxは注目すべき現象です。
また、通常の超新星であれば、爆発した星が属していた銀河なども観測されるのが普通です。しかしAT 2021lwxの場合、その位置に天体が観測された記録はありません。つまりAT 2021lwxは、何もない所に突然現れ、長期間に渡って大量のエネルギーを放出しているように見える天体、ということになります。
AT 2021lwxの見た目の明るさと、地球から約80億光年という距離をもとに計算すると、AT 2021lwxのピーク時の明るさは7×10の38乗W、エネルギーの総放出量が1.5×10の46乗Jであると推定されます。ピーク時の明るさは太陽の約2兆倍であり、典型的なクエーサーに匹敵しますし、エネルギーの総放出量は典型的な超新星爆発の100倍に匹敵します。
ピーク時の明るさと総エネルギー、そして過去その位置に天体が見つかっていないという点で、AT 2021lwxは非常に謎の多い天体です。AT 2021lwxの明るさやエネルギーの値は、クエーサー以外の天体では観測史上最大規模であり、Wiseman氏らの研究チームはこれを “宇宙最大” の爆発であると表現しています。
![【▲ 図2: ブラックホールに物質が降着している様子の想像図。AT 2021lwxもこのような天体であると想像される。 (Image Credit: John A. Paice) 】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2023/06/AT2021lwx-002.jpg)
【▲ 図2: ブラックホールに物質が降着している様子の想像図。AT 2021lwxもこのような天体であると想像される。(Credit: John A. Paice)】
パデュー大学のBhagya M. Subrayan氏らの研究チーム、およびサウサンプトン大学のP. Wiseman氏らの研究チームは、それぞれ独立してAT 2021lwxの研究を行いました。
AT 2021lwxの正体について2つの研究チームの見解は一致しており、ブラックホールの一時的な活動であると考えられています。ブラックホールそのものは電磁波を何も放射しないため直接観測できませんが、ブラックホールの周辺に物質が供給されると、強い重力によって激しくかき回されて高温に加熱された物質から、X線から電波まで様々な波長の電磁波としてエネルギーが放出されます。これを遠く離れた私たちが見れば、非常に大規模なエネルギー放出現象が突然現れたように見えるでしょう。
ただし、両チームの結論は細かい点で異なります。Subrayan氏らの研究チームは、ブラックホールの質量を太陽の1億7000万倍、供給された物質は太陽の約14.28倍の質量を持つ恒星だと推定しました。これに対してWiseman氏らの研究チームは、ブラックホールの質量は太陽の1億倍から10億倍であり、供給された物質も恒星のような一塊の物体ではなく、水素や塵を含むガスのような変形しやすい物体だと推定しました。
Subrayan氏らよりも後に論文が公開されたWiseman氏らによれば、X線以外の波長での観測結果が塵の存在を示唆していることや、ガス状の物質が降着円盤を構築しているモデルの方が、潮汐力によって破壊された恒星のモデルよりも観測結果と適合していることを根拠に、ブラックホールにガスが降着した説を提唱しています。
ブラックホールの質量や供給された物質の正体については、現在の観測データで結論を出すのには不十分であり、より多くの継続観測が求められます。AT 2021lwxの正体に迫るにはもう少し時間がかかりそうです。
Source
Bhagya M. Subrayan, et.al. “Scary Barbie: An Extremely Energetic, Long-duration Tidal Disruption Event Candidate without a Detected Host Galaxy at z = 0.995”. (The Astrophysical Journal Letters) P. Wiseman, et.al. “Multiwavelength observations of the extraordinary accretion event AT2021lwx”. (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society) Gurjeet Kahlon, Robert Massey & Steve Williams. “Astronomers reveal the largest cosmic explosion ever seen”. (The Royal Astronomical Society)文/彩恵りり
この記事に関連するニュース
-
吾妻鏡に記録が残る超新星爆発、その残骸が再び活性化 東大の研究
財経新聞 / 2024年7月13日 10時12分
-
この指輪のような天体の正体は? ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測
sorae.jp / 2024年7月9日 20時33分
-
総研大、機械学習を用いた「ガンマ線バースト」の距離測定方法を開発
マイナビニュース / 2024年7月9日 18時14分
-
観測史上最遠のIa型超新星「SN 2023adsy」が標準光源の性質を持つと判明
sorae.jp / 2024年6月29日 21時30分
-
現存する望遠鏡だけで「ホーキング放射」をブラックホールから検出できる日が来るかもしれない
sorae.jp / 2024年6月26日 11時0分
ランキング
-
1大谷翔平&真美子さんのレッドカーペット中継に… 人気アイドルが「思いっきり映ってる」と話題
Sirabee / 2024年7月18日 15時40分
-
2がんや早死にのリスクを高めるだけ…和田秀樹が「女性は絶対に飲んではいけない」と話す危険な薬の名前
プレジデントオンライン / 2024年7月19日 10時15分
-
3義母と元夫は減塩生活中!? 嫁に去られた親子の今…【お義母さん! 味が濃すぎです Vol.48】
Woman.excite / 2024年7月15日 21時0分
-
4毎日テレビをつけっぱなしで寝る夫。年間どれだけ電気代を損している?
ファイナンシャルフィールド / 2024年7月18日 8時50分
-
5「夏の不眠」解決策の1つに薬の見直しを…5割超のエアコン節約派は考えるべき
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年7月19日 9時26分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)