重力レンズ効果で分裂・拡大して見える超新星「SN Zwicky」の輝き
sorae.jp / 2023年6月18日 21時0分
こちらは2022年8月に発見された超新星「SN 2022qmx」を捉えた画像です。中央の四角で囲まれた部分はハワイのマウナケア山にあるW.M.ケック天文台の「ケック望遠鏡」で取得された高解像度の画像で、周辺の様子を取得した低解像度の画像に重ね合わせられています。
中央の高解像度画像をよく見ると、ぼんやりとした楕円形に見える銀河の中心付近に十字を描くような4つの光点が写っています。この4つの光点こそ、「重力レンズ効果」を受けて分裂して見えているSN 2022qmxの輝きなのだといいます。楕円形に見える銀河の左上には、SN 2022qmxが起きた銀河も写っています。
重力レンズとは、手前にある天体(レンズ天体)の質量によって時空間が歪むことで、その向こう側にある天体(光源)から発せられた光の進行方向が変化し、地球では像が歪んだり拡大されたり、時には同じ天体の像が複数に分裂して見えたりする現象です。
SN 2022qmxの場合、楕円形に見える手前の銀河の質量によって超新星の光の進む向きが変化することで、地球からは4つに分裂して見えているというのです。ストックホルム大学のAriel Goobarさんを筆頭とする研究チームによると、SN 2022qmxは約40億光年先で発生し、重力レンズ効果によって25倍近くに拡大されています。
パロマー天文台(米国)の掃天観測システム「Zwicky Transient Facility(ZTF、ツビッキー・トランジェント天体探査装置)」で最初に検出されたことにちなんで、SN 2022qmxは「SN Zwicky」とも呼ばれています。超新星爆発は白色矮星を含む連星や大質量星が起こすとされていますが、これまでの観測の結果、SN 2022qmxは白色矮星が関わる「Ia型超新星」であることが判明しました。
Ia型超新星は真の明るさが一定だと考えられています。真の明るさが判明している天体や現象は、実際に観測された見かけの明るさと比較することで地球からの距離を求めることができます。このような天体や現象は「標準光源」と呼ばれていて、Ia型超新星もその一つとして重要視されています。
【▲ 重力レンズ効果によって超新星が分裂して見える様子を説明した動画】
(Credit: ESA/Hubble, L. Calçada)
超新星はもともと明るい現象ですが、「SN Zwicky」ことSN 2022qmxのように重力レンズ効果を受けると、より遠方で起きた場合でも観測することが可能になります。Ia型超新星は標準光源として宇宙の加速膨張の研究にも役立てられていることから、加速膨張の原因だと考えられている暗黒エネルギー(ダークエネルギー)や、銀河の質量の大半を占めているとされる暗黒物質(ダークマター)の性質に迫る機会を得るためにも、「SN Zwicky」と同様に重力レンズ効果を受けたIa型超新星が今後もより多く発見されることに期待が寄せられています。
※記事中の距離は天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています。
Source
Image Credit: Joel Johansson, ESA/Hubble, L. Calçada W.M. Keck Observatory - Rare Gravitational Lensing Warps Light Of Distant Supernova Into Four Images Stockholm University - Rare gravitational lens splits light of distant supernova into four images Caltech - Astronomers Discover Extremely Warped Supernova University of Maryland - Astronomers Discover Supernova Explosion Through Rare ‘Cosmic Magnifying Glasses’ Goobar et al. - Uncovering a population of gravitational lens galaxies with magnified standard candle SN Zwicky (Nature Astronomy)文/sorae編集部
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