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活動銀河「OJ 287」で超大質量ブラックホール連星の“セカンダリー”の存在が実証される

sorae.jp / 2023年6月21日 21時0分

活動銀河「OJ 287」は、最も古い記録で1888年に観測されていますが、本格的に注目されたのはほぼ一世紀後の1982年ごろからでした。過去の観測記録を精査した結果、OJ 287の明るさは55年周期および12年周期という、2つの周期が複雑に絡み合いながら変化していることが分かったからです。

短いほうの12年周期で現れる変光を詳しく観測したところ、さらに短い間隔を置いて2回の閃光が生じていることがわかりました。こうした複雑な変光周期を説明するために、OJ 287の中心部には連星をなす2つの超大質量ブラックホールが存在する、というモデルが提唱されました。

【▲ 図1: OJ 287の想像図。プライマリーの周りをセカンダリーが公転し、セカンダリーは時々プライマリーの降着円盤を貫通する。これが地球では12年周期での変光として観測される。 (Image Credit: AAS 2018) 】

【▲ 図1: OJ 287の想像図。プライマリーの周りをセカンダリーが公転し、セカンダリーは時々プライマリーの降着円盤を貫通する。これが地球では12年周期での変光として観測される(Credit: AAS 2018)】

【▲ 図2: OJ 287の明るさの変化を示したグラフ。観測の歴史が長いために、長い周期の変光も明らかになったと言える。 (Image Credit: Valtonen, et.al.) 】

【▲ 図2: OJ 287の明るさの変化を示したグラフ。観測の歴史が長いために、長い周期の変光も明らかになったと言える(Credit: Valtonen, et.al.)】

このモデルでは、OJ 287の中心にあるのはそれぞれ太陽の約184億倍と約1億5000万倍の質量がある超大質量ブラックホールの連星であると仮定しています。重いほうのブラックホール「プライマリー」は降着円盤をまとっており、OJ 287の放射の大部分を占めています。一方、軽いほうのブラックホール「セカンダリー」は、プライマリーの周りで非常に長い楕円軌道を描きながら12年周期で公転していると考えられています。

なお、OJ 287の超大質量ブラックホールを区別する決まった名称や仮符号は存在しないため、多くの文章では重いほうのブラックホールをプライマリー、軽いほうのブラックホールをセカンダリーと呼称しています。本記事もそれに倣います。

彗星のような軌道を公転しているセカンダリーの軌道面は降着円盤に対して傾いているため、セカンダリーは時々降着円盤を横切ります。この時、降着円盤内の物質が加熱されることで、2週間程度続く明るい閃光が生じます。このプロセスこそが短い12年の変光周期を生み出しており、さらに短い間隔で2回の閃光が生じるのは、セカンダリーが降着円盤を2回横切るからだと考えれば説明がつきます。

一方で、55年の長い変光周期は、セカンダリーの公転軌道が大きく変化することによるものと考えられています。プライマリーとセカンダリーはお互いに強い重力を及ぼし合うため、セカンダリーの公転軌道の近点 (お互いが最も近づく軌道上の点) は大きく移動し続けます。この近点移動に伴う変化が55年の変光周期です。

【参考:セカンダリーの軌道の変化と閃光が観測されるタイミングの関係を解説した動画】

OJ 287の中心部に大きなブラックホールの連星があるというモデルは長年支持されてきたものの、セカンダリーの存在を示す証拠が存在しない状態が長く続いていました。OJ 287は地球から約35億光年先と極めて遠い銀河である上に、セカンダリーはプライマリーにかなり接近しているため、これらを分離して観測することができなかったためです。

トゥルク大学のMauri J. Valtonen氏らの研究チームは、事前に予測されていた2022年の閃光について、相対性理論を考慮した正確な時期の推定を行い、OJ 287の観測を試みました。その結果、事前に予測された時期に閃光が観測されましたが、その中に約1日間だけ、非常に明るさが増大する時期が含まれていることが分かりました。これは全くの予想外であり、短時間に天の川銀河の100倍の放射を行っていることが初めて観測されました。

分析の結果、セカンダリーがプライマリーの降着円盤に突入した直後、大量の物質が一気に吸い込まれたことで生じたジェットの加速が短時間の急激な放射の原因であることが判明しました。このような放射はセカンダリーが存在しなければ説明することは困難なため、今回の観測結果はOJ 287のセカンダリーの実在を強く支持するものです。

過去のデータにはこのような急激な放射が記録されていないことから、今回観測されたような短時間の放射はたまたま見逃されていた可能性が高いことも分かりました。OJ 287は天球上の見た目の位置が太陽に近付くことがあり、全ての閃光を観測できているわけではないので、観測精度が高くなった近年でも短時間の変化を見逃す余地が十分にある状態でした。Valtonen氏も「(今まで見逃されていたのは) たまたま不運に見舞われていただけだ」と述べている通り、セカンダリー由来のシグナルを観測できたのは技術革新の成果だけでなく、運も絡んでいたことになります。

OJ 287の中心に存在する2つの超大質量ブラックホールは、非常に周期の長い重力波を放出しているとされているブラックホールの連星としても注目されています。今回の研究によってセカンダリーの存在がほぼ確実になったことで、重力波望遠鏡による観測が強化されるかもしれません。

 

Source

Mauri J. Valtonen, et.al. “Refining the OJ 287 2022 impact flare arrival epoch”. (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society) Mauri Valtonen. “First Detection of Secondary Supermassive Black Hole in a Well-Known Binary System”. (University of Turku) Lankeswar Dey, et.al. “Authenticating the Presence of a Relativistic Massive Black Hole Binary in OJ 287 Using Its General Relativity Centenary Flare: Improved Orbital Parameters”. (The Astrophysical Journal)

文/彩恵りり

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