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NASAとDARPAの核熱ロケットエンジン試験機はロッキード・マーティンが製造へ

sorae.jp / 2023年8月1日 17時25分

アメリカ航空宇宙局(NASA)とアメリカ国防高等研究計画局(DARPA)は7月26日付で、将来の有人火星探査を見据えて「核熱ロケットエンジン」の技術実証を行うNASAとDARPAの「DRACO(Demonstration Rocket for Agile Cislunar Operations)」プログラムについて、試験機の設計・製造を行う主契約者がロッキード・マーティンに決定したことを発表しました。【2023年7月28日10時】

【▲ DRACOプログラムの核熱ロケットエンジン試験機の想像図(Credit: Lockheed Martin)】

【▲ DRACOプログラムの核熱ロケットエンジン試験機の想像図(Credit: Lockheed Martin)】

核熱ロケット(Nuclear Thermal Rocket:NTR)エンジンとは、核分裂反応で発生する熱を利用して水素などの推進剤を加熱・膨張させてノズルから噴射することで推力を得る推進システムで、「核熱推進(Nuclear Thermal Propulsion:NTP)ロケットエンジン」や「原子力推進ロケットエンジン」などとも呼ばれます。核熱推進の研究は東西冷戦時代にまで遡り、かつてはNASAでも「NERVA(Nuclear Engine for Rocket Vehicle Application)」プログラムのもとで研究が進められたことがあります(1972年に中止)。

現在利用されている主なロケットエンジンには、推進剤の化学反応で生じたガスを噴射する「化学燃料ロケットエンジン」(以下「化学推進」)と、電気で加速させた推進剤を噴射する「電気推進ロケットエンジン」(以下「電気推進」)があります。2種類のロケットエンジンを比較すると、化学推進は推力が高くて比推力(効率)が低く、電気推進は推力が低くて比推力が高いという特徴があります。

たとえば宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」や「はやぶさ2」の場合、地球と小惑星を往復する巡航フェーズでは効率に優れるイオンエンジン(電気推進)が使用され、機体の姿勢制御やサンプル採取(タッチダウン)時などではイオンエンジンよりも高い推力を発揮するスラスター(化学推進)が使用されました。

【▲ ロッキード・マーティンによるDRACOプログラムの核熱ロケット試験機のイメージ動画(英語)】
(Credit: Lockheed Martin)

いっぽう、ロッキード・マーティンによると、核熱ロケットは化学推進と同程度の推力でありながらも2~5倍高い効率を実現できるといいます。飛行時間を短縮して宇宙飛行士が負うリスク(宇宙放射線の被ばくなど)を軽減できるだけでなく、月や火星へ効率的かつ迅速に物資を輸送できる可能性もあることから、核熱ロケットエンジンは改めて注目されています。

NASAとDARPAは2023年1月、DRACOプログラムのもとで核熱ロケットエンジンの技術実証に共同で取り組むことを発表していました。今回ロッキード・マーティンとの間で合意に達したのは2027年に打ち上げが予定されている核熱ロケットエンジン試験機(experimental NTR vehicle:X-NTRV)の設計と製造に関する契約で、核熱ロケットエンジンの心臓部となる核分裂炉の開発はロッキード・マーティンのパートナーであるBWXテクノロジーズが担当します。

関連:NASAとDARPAが「核熱ロケットエンジン」の技術開発で協力 将来の有人火星探査も想定(2023年1月27日)

DARPAによると、DRACOプログラムの試験機ではNERVAプログラムで用いられた高濃縮ウランではなく高純度低濃縮ウラン(HALEU)が核分裂炉に採用されています。また、目標の軌道へ到達するまでは核分裂炉の停止状態が維持されるようにシステムを設計するとDARPAは強調しています。

【▲ DRACOプログラムの核熱ロケットエンジン試験機の想像図(Credit: Lockheed Martin)】

【▲ DRACOプログラムの核熱ロケットエンジン試験機の想像図(Credit: Lockheed Martin)】

これまでの宇宙開発における原子力といえば、放射性物質の崩壊時に発する熱から電気を得る「放射性同位体熱電気転換器」(Radioisotope Thermoelectric Generator:RTG)が主に利用されてきました。RTGはNASAの惑星探査機「Voyager(ボイジャー)」や火星探査車「Curiosity(キュリオシティ)」「Perseverance(パーシビアランス)」などに搭載されており、土星の衛星タイタンに向けて2027年に打ち上げ予定の探査ドローン「Dragonfly(ドラゴンフライ)」での採用も決定しています。

4年後に試験機を打ち上げ予定のDRACOプログラムは核分裂反応を利用したロケットエンジンの開発を目指していますが、長期間の月面滞在などを想定した電源としての核分裂の利用についても現在研究が進められています。そう遠くない将来の有人探査ミッションでは、核分裂の活用が一つの重要なポイントになるかもしれません。

 

Source

Image Credit: Lockheed Martin NASA - NASA, DARPA Partner with Industry on Mars Rocket Engine DARPA - DARPA Kicks Off Design, Fabrication for DRACO Experimental NTR Vehicle Lockheed Martin - Lockheed Martin Selected to Develop Nuclear-Powered Spacecraft

文/sorae編集部

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