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宇宙の謎に迫るJAXAの将来計画「HiZ-GUNDAM」とは?

sorae.jp / 2023年8月7日 11時0分

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、現在開発中の天文観測衛星や探査機などに加えて、まだ検討段階にある将来計画も紹介しています。その1つに思いがけない名称が付けられているのをご存じでしょうか。

その名も「HiZ-GUNDAM」。初放送から40年以上が経った今も新作が作られているアニメ「機動戦士ガンダム」シリーズの2作目「機動戦士Zガンダム」(1987~88年放映)に登場した主役モビルスーツ(MS)・Zガンダムを思い起こさせる名称です。思わず「アニメ本編には出てこなかった強化型?」などと妄想してしまいますが、一体どのような計画なのでしょうか。

劇中でのZガンダムは、通常の“人型の形態”と、追加装備なしでの高速移動や地球大気圏への単独突入を行える“ウェーブライダー(飛行)形態”の2段変形機構を備える、敵味方合わせても屈指の超高性能機でした。

そんなZガンダムの性能を踏まえると、HiZ-GUNDAMも目標の小惑星などへウェーブライダー形態で高速移動し、現地では人型形態に変形して岩石試料を次々とつかんではコンテナに詰め込み、山盛りのサンプルを手にウェーブライダー形態で大気圏に再突入して地球へ帰還する、そんなダイナミックな探査を行うのではなどと期待してしまいます。しかし、JAXAが検討しているのはモビルスーツの開発計画ではありません。

では、実際にはどのような計画なのかといえば、ヒントは名称に含まれている"Z"にあります。設定上、Zガンダムは1作目のガンダムから数えて6番目に開発されたガンダムということで、ギリシャ文字で6番目の「Z」を冠した「ゼータ・ガンダム」と名付けられています。一方、HiZ-GUNDAMの"Z"は宇宙論的赤方偏移のパラメータを示す「z(ゼット)」を示しています。それも、zが7以上の高赤方偏移、言い換えれば遠方宇宙が対象です(本来、赤方偏移のパラメータとしては小文字のzが使われます)。

HiZ-GUNDAMは「High-z Gamma-ray bursts for Unraveling the Dark Ages Mission」の略で、直訳すれば「暗黒時代解明ミッションのための高赤方偏移ガンマ線バースト(の観測)」といった意味になります。具体的には、X線と赤外線の2種類の観測装置を搭載した衛星で、初期宇宙のガンマ線バースト(GRB)を観測し、宇宙の最初期にできた天体の探査に挑むという計画です。

【▲ HiZ-GUNDAMのCGイメージ(Credit: JAXA 宇宙科学研究所)】

【▲ HiZ-GUNDAMのCGイメージ(Credit: JAXA 宇宙科学研究所)】

GRBは宇宙最大の爆発現象とされ、その発生には超新星爆発や中性子星どうしの合体などが関係していると考えられています。しかし、多くのGRBではガンマ線の放出時間が最長でも数十秒しか続きません。その後に続く可視光線などの残光はしばらく見えるものの、1日も経てばだいぶ暗くなってしまいます。いざGRBを検出しても、地上の望遠鏡などでその残光を光学観測しようと準備を進める間に1日程度が過ぎてしまうため、これまでは良い条件で観測することが難しかったそうです。

そこでHiZ-GUNDAM計画では、1つの天文観測衛星にGRBを捉える広視野のX線モニターと、その残光を観測できる赤外線望遠鏡の両方を搭載します。GRBを発見したらすぐに残光を観測できるようにすることで、悩みのタネだったタイムラグを解消しようというのです。

【▲ HiZ-GUNDAMに搭載されるミッション機器の概念図。左:広視野X線モニター。0.5~4keV程度のX線で、1ステラジアン(全天の1/12)程度の広域を観測。100秒ほど継続するGRBに対しては、これまでのGRB検出器と比べて30倍ほど高い感度で観測可能。右:近赤外線望遠鏡。0.5~2.5μmを4つの波長帯に区切り、10分間の観測で、最も長い波長帯で20.7AB等級、最も短い波長帯で21.4AB等級を達成する見込みとされています。(Credit: JAXA 宇宙科学研究所)】

【▲ HiZ-GUNDAMに搭載されるミッション機器の概念図。左:広視野X線モニター。0.5~4keV程度のX線で、1ステラジアン(全天の1/12)程度の広域を観測。100秒ほど継続するGRBに対しては、これまでのGRB検出器と比べて30倍ほど高い感度で観測可能。右:近赤外線望遠鏡。0.5~2.5μmを4つの波長帯に区切り、10分間の観測で、最も長い波長帯で20.7AB等級、最も短い波長帯で21.4AB等級を達成する見込みとされています。(Credit: JAXA 宇宙科学研究所)】

GRBは、ビッグバンから数億年後に誕生したとされる第1世代の星「ファーストスター(初代星)」に関する情報を得られる可能性があるとして期待されています。ファーストスターは世界中の天文学者によって観測が試みられていますが、2022年から科学観測を開始した「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」をもってしても容易ではありません。

ビッグバンから約8億年以内の時代に存在している高赤方偏移の天体は、地球とその天体の間にある銀河間の中性水素ガスによる吸収効果によって、見かけ上は近赤外線で明るく、可視光で暗く観測されます。つまり、ひとつひとつの星の観測はできないとしても、初期宇宙で起きたGRBの検出後に素早く近赤外線で残光を観測することで、ファーストスターに関する情報を得られるかもしれないのです。

またGRBは、初期宇宙を照らすスポットライトになるとも考えられています。初期宇宙で起きたGRBを観測すれば地球との間にある銀河間ガスの電離状態を調べることができるので、「宇宙の再電離」(※)が時間と共にどのように進んだのかもわかるのだといいます。

※…宇宙誕生直後は電離していた水素がビッグバンから約38万年後に中性のガスになった後(「宇宙の晴れ上がり」イベント)、再び電離した現象のこと。

GRBはガンマ線放出の継続時間で区別されていて、2秒以下はショートガンマ線バースト、2秒以上はロングガンマ線バーストに分けられます。前者は、中性子星やブラックホールなどのコンパクト天体どうしの合体とも強い関わりがあると考えられていて、2017年には中性子星どうしの合体にともなう重力波「GW170817」と、それにともなって電磁波が放射される現象「キロノバ」が実際に観測されています。

HiZ-GUNDAMは2009年にコンセプトが発表され、2012年に正式なワーキンググループとして承認されて現在に至るのですが、計画当初からマルチメッセンジャー天文学(同じ天体や現象を電磁波・重力波・ニュートリノといった複数の手段で観測・研究する天文学)も考慮されていました。計画のスタート後に観測されるようになったキロノバについても、重力波望遠鏡と連係することで、HiZ-GUNDAMならより観測しやすくなる可能性があるとしています。

現在、HiZ-GUNDAMはまだ計画中の段階ですが、ファーストスターやキロノバといった天文学のホットな謎に迫る期待のコンセプトです。計画が実現し、モビルスーツのように宇宙で活躍する日が来ることを楽しみに待ちましょう。

 

Source

Image Credit: JAXA 宇宙科学研究所 JAXA 宇宙科学研究所 - 将来計画 HiZ-GUNDAM JAXA 宇宙科学研究所 -ガンマ線バーストを用いた初期宇宙・極限時空探査計画 HiZ-GUNDAM(金沢大学 理工研究域教授 米徳 大輔) 金沢大学 - ガンマ線バーストを用いた初期宇宙探査計画 HiZ-GUNDAM

文/波留久泉

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