内部海に由来? エウロパ表面の二酸化炭素分布をウェッブ宇宙望遠鏡で特定
sorae.jp / 2023年9月23日 17時44分
木星の衛星エウロパには地球の海水の2倍という大量の水をたたえた内部海が氷の外殻の下に広がっているのではないかと考えられていて、生命が存在する可能性も指摘されています。今回、その内部海の水に炭素が含まれている可能性を示した2つの研究成果が発表されました。ご存知の通り、複雑な化合物の材料となる炭素は地球の生命にとって非常に重要な元素のひとつです。
アメリカ航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターのGeronimo Villanuevaさんと、コーネル大学のSamantha Trumboさんをそれぞれ筆頭とする2つの研究チームは、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」によるエウロパの観測データを分析した結果、表面の特定の地域に二酸化炭素(CO2)が集中して存在することを突き止めました。両チームの成果をまとめた論文はScienceに掲載されています。
ウェッブ宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、二酸化炭素はエウロパ表面のタラ地域(Tara Regio)やポーイス地域(Powys Regio)に集中して分布していました。これらの地域は外殻の一部が崩壊したことで形成されたとみられる「カオス地形(chaos terrain)」として知られています。エウロパ表面の約4分の1を覆うカオス地形は地質学的に若く、亀裂・尾根・流氷のようにブロック化した氷で構成されています。
エウロパでは「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」などの観測データをもとに水蒸気のプルーム(水柱、間欠泉)が噴出していると考えられており、タラ地域に関しては塩化ナトリウム(NaCl、食塩の主成分であり地球の海水にも含まれている)の存在が2019年に報告されています。また、カオス地形ではエウロパ表面から内部海へと酸素が運び込まれている可能性も指摘されているなど、エウロパの表面と内部海の間では物質が循環している可能性が考えられます。
参考:エウロパの関連記事一覧
両チームはNIRCamで検出された二酸化炭素について、隕石の衝突などによって外部から供給されたものではないことを分析結果が示していることから、エウロパ内部から比較的最近になって表面に供給されたものだと考えています。つまり、検出された二酸化炭素はエウロパの内部海に由来する可能性があるというのです。
STScIによれば二酸化炭素はエウロパの表面では安定せず、地質学的に若いカオス地形に集中して分布することから、内部から最近供給されたと考えても矛盾しません。エウロパの二酸化炭素そのものは過去にも検出されていたものの、それが内部海に由来するのか、それとも外部からもたらされた物質に由来するのかを判断することは今までできなかったといいますから、今回の成果は内部海の化学的性質を探る上で大きな一歩となりそうです。
いっぽう、Villanuevaさんのチームはエウロパから噴出しているとみられる水蒸気のプルームも探したものの、今回の観測データからその証拠は見つかりませんでした。ただし、プルームは常に噴出しているとは限らないため、今回の観測ではたまたま検出されなかった可能性があります。Villanuevaさんの研究チームに参加した全米天文学大学連合(AURA)のHeidi Hammeさんは「私たちがウェッブ宇宙望遠鏡で観測を行った時にはエウロパのプルームは検出されなかった、100パーセントの自信を持って言えるのはそれだけです」とコメントしています。
STScIによると、今回の研究ではNIRCamの面分光ユニット(IFU)モードによるエウロパの観測データが分析されました。このモードでは直径3128kmのエウロパに対して320km×320kmの解像度でスペクトル(電磁波の波長ごとの強さ)が得られ、表面のどこにどのような物質が存在するのかを特定することが可能だといいます。またHammeさんによると、ウェッブ宇宙望遠鏡によるエウロパの観測にはほんの数分しかかからなかったといいます。
なお、エウロパは2023年4月に打ち上げられた欧州宇宙機関(ESA)の木星系探査機「JUICE」や、NASAが2024年10月の打ち上げを目指して準備を進めている探査ミッション「エウロパ・クリッパー(Europa Clipper)」の探査対象となっています。今回の両チームによる研究成果は、JUICEやエウロパ・クリッパーのミッションにも活かされるかもしれません。
Source
Image Credit: NASA, ESA, CSA, G. Villanueva (NASA/GSFC), S. Trumbo (Cornell Univ.), A. Pagan (STScI) NASA - NASA’s Webb Finds Carbon Source on Surface of Jupiter’s Moon Europa STScI - NASA’s Webb Finds Carbon Source on Surface of Jupiter’s Moon Europa ESA - Webb finds carbon source on surface of Jupiter’s moon Europa ESA/Webb - Webb finds carbon source on surface of Jupiter’s moon Europa Villanueva et al. - Endogenous CO2 ice mixture on the surface of Europa and no detection of plume activity (Science) Trumbo and Brown - The distribution of CO2 on Europa indicates an internal source of carbon (Science)文/sorae編集部
この記事に関連するニュース
-
ガリレオの夢を継いで - 木星衛星の海に挑む探査機「エウロパ・クリッパー」
マイナビニュース / 2024年11月16日 7時0分
-
一等星「ベガ」のデブリ円盤は驚くほど滑らか。ウェッブとハッブルが観測
sorae.jp / 2024年11月7日 20時59分
-
幻の銀河とも呼ばれる渦巻銀河「M74」 ウェッブ宇宙望遠鏡が再び撮影
sorae.jp / 2024年11月5日 21時23分
-
じーっと見つめる目のような相互作用銀河 ハロウィンにあわせNASAやESAが紹介
sorae.jp / 2024年11月1日 16時58分
-
ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した小マゼラン雲の散開星団「NGC 602」
sorae.jp / 2024年10月28日 20時57分
ランキング
-
1コンビニ大手3社の「肉まん」「高級豚まん」を実食。この冬に食べるべき“コスパ圧倒的”の肉まんは
日刊SPA! / 2024年11月24日 15時52分
-
2コロッケでも餃子でもハンバーグでもない…受刑者200人が答えた「刑務所ごはん」人気No.1メニューとは
プレジデントオンライン / 2024年11月24日 16時15分
-
3品川イオンスタイル「最強フードコート」の実態 太っ腹にも程がある?自由すぎる食のスポットだ
東洋経済オンライン / 2024年11月24日 12時0分
-
4とんでもない通帳残高に妻、絶句。家族のために生きてきた65歳元会社員が老後破産まっしぐら…遅くに授かった「ひとり娘」溺愛の果て
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月21日 8時45分
-
5小泉孝太郎がやっている「納豆の最高においしい食べ方」 タレ半分、“あるもの”をたっぷり
Sirabee / 2024年11月22日 16時15分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください