太陽系外縁部にあるかもしれない未知の惑星をシミュレーションで検証 質量は地球の1.5~3倍か
sorae.jp / 2023年10月9日 17時31分
近畿大学総合社会学部准教授のPatryk Sofia Lykawka(パトリック・ソフィア・リカフィカ)さんと国立天文台天文シミュレーションプロジェクト講師の伊藤孝士さんからなる研究チームは、海王星よりも遠くに存在する太陽系の天体の特性をシミュレーションで検証した結果、まだ見つかっていない惑星が太陽系に存在する可能性を示すことができたとする研究成果を発表しました。
太陽から遠く離れた太陽系の外縁部には未発見の惑星が存在するのではないかと指摘されていて、観測と理論の両面から探索が続けられています。Lykawkaさんと伊藤さんの研究成果をまとめた論文はThe Astronomical Journalに掲載されています。
太陽系には水星から海王星まで8つの惑星がありますが、その他にも準惑星や小惑星や彗星といった、より小さな天体が数多く存在しています。太陽から約30天文単位(※1)離れた軌道を公転している海王星よりも遠くに分布するものは太陽系外縁天体(Trans-Neptunian Object、以下TNO)と呼ばれていて、2006年まで惑星に分類されていた冥王星(134340 Pluto)をはじめ、これまでにエリス(136199 Eris)やセドナ(90377 Sedna)などが見つかっています。
ところが、ほとんど同じ平面上にあって形も真円に近い8つの惑星の公転軌道に対して、TNOの公転軌道は彗星のように細長い楕円形をしていたり、惑星の公転軌道に対して大きく傾いていたりしています。TNOの軌道を詳しく調べたこれまでの研究では、未発見の惑星の重力による影響を受けている可能性が指摘されていました。
TNOの軌道の特徴から浮かび上がった“存在するかもしれない惑星”は複数提案されていて、「第9惑星(プラネット・ナイン)」や「惑星X」と呼ばれています。“第9惑星”は質量が地球の5~10倍で太陽からの平均距離は360~620天文単位、“惑星X”は質量が地球の0.3~0.7倍で太陽からの平均距離は100~175天文単位と推定されています。これらの惑星は国立天文台の「すばる望遠鏡」などを使用した探索が行われているものの、発見には至っていません。ちなみに今回の研究に取り組んだLykawkaさんは、2008年に“惑星X”の性質を提案した論文の筆頭著者でもありました。
関連:赤外線天文衛星「IRAS」と「あかり」のデータで「プラネット・ナイン」の候補を探索(2022年8月11日)
研究チームは今回、太陽系の外縁部に未発見の惑星が存在すると仮定し、太陽から50天文単位以上離れているTNOがこの惑星の影響を受けた時に現れるとみられる特性に着目しました。この惑星を研究チームは「カイパーベルト(※2)惑星(Kuiper Belt planet:KBP)」と呼んでいます。“カイパーベルト惑星”の影響を受ける遠方のTNOは以下のような特性を持つ可能性があるものの、TNOや太陽系の形成に関する現在のモデルではこれらの特徴を一貫して説明できないのだといいます。
・海王星と平均運動共鳴(※3)の関係にある“共鳴TNO”
・太陽から40天文単位以上離れていて海王星の重力の影響が及ばない軌道を公転している“離脱TNO”
・軌道傾斜角が45度以上もあるTNO
・説明が難しい特異な軌道を公転する“極端なTNO”(セドナなど)
そこで研究チームは、4つの巨大惑星(木星・土星・天王星・海王星)、遠方のTNO、それに“カイパーベルト惑星”を考慮した初期の太陽系についての数値シミュレーションを実施し、その結果を実際の観測結果と比較する検証作業を行いました。
検証の結果、これまで標準的に用いられてきた「4つの巨大惑星だけを考慮したモデル」では離脱TNO/軌道傾斜角が大きなTNO/極端なTNOを説明できないことが実証された一方で、「“カイパーベルト惑星”を含めたモデル」では前述の4つの特性をすべて説明できることがわかったとされています。“カイパーベルト惑星”を含むモデルは観測結果とほぼ一致しており、太陽系の形成以来、海王星よりも遠い領域における軌道構造に“カイパーベルト惑星”が影響を及ぼしてきたことを示唆しているといいます。
この検証結果をもとに、研究チームはTNOの4つの特性すべてを説明できる“カイパーベルト惑星”の性質も推定しています。条件を満たすのは質量が地球の1.5~3倍で、公転軌道が太陽から200~500天文単位(または200~800天文単位)の範囲内にあり、軌道傾斜角が30度と推定される惑星です。この性質からは、太陽からより遠く・より傾いた軌道を公転するTNOが約100天文単位を超えた領域にも存在し得ることが示唆されるといいます。
今回の成果をまとめた論文の筆頭著者であるLykawkaさんは、近畿大学のプレスリリースに「過去を振り返ると新惑星の発見は、一般大衆と科学界に大きな影響を与えています」「太陽系の謎を一歩一歩解明していくことはとても面白く、太陽系外縁部をはじめ地球を含む惑星の形成についても理解が深まります」とコメントを寄せています。
また、Lykawkaさんはsorae編集部の取材に対し、今後数年以内に“カイパーベルト惑星”が発見されればと前置きした上で「地球クラスのカイパーベルト惑星は新しい種類の惑星に属する可能性が高いため、2006年に冥王星が惑星分類から外されたのと同様に、“惑星”の定義を精緻化する必要があるだろう」「太陽系と惑星形成の理論を修正しなければならない可能性が出てくる。特に、地球クラスのカイパーベルト惑星がどのようにして遠方で離心のある(編注:細長い楕円形の)傾いた軌道を獲得したのかを理解する必要がある」とコメントしています。
今回提案された“カイパーベルト惑星”のような未発見の惑星の探索や、さらなるTNOの発見といった太陽系の外縁部の研究を通して、太陽から遠い領域における惑星の形成や太陽系全体の進化に関する理解がより深まると期待されています。
■脚注
※1…1天文単位(au)は約1億5000万km、太陽から地球までの平均距離に由来。
※2…エッジワース・カイパーベルト、海王星の公転軌道の外側で小天体が円盤状に分布している領域。
※3…公転周期の比が1:2や2:3といった整数比の状態になること。3つ以上の天体が関わる場合もある。
Source
近畿大学 - シミュレーションで太陽系外縁部に未発見の惑星がある可能性を示唆 世界初、海王星以遠の天体の特性を再現することに成功 Lykawka and Ito - Is There an Earth-like Planet in the Distant Kuiper Belt? (The Astronomical Journal)文/sorae編集部
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