地球の準衛星「カモオアレワ」月から飛び出した破片の可能性を示す新たな研究成果
sorae.jp / 2023年11月1日 11時32分
アリゾナ大学の大学院生Jose Daniel Castro-Cisnerosさんを筆頭とする研究チームは、地球の準衛星となっている小惑星「469219 Kamo`oalewa(カモオアレワ)」について、月から飛び出した破片である可能性を改めて示した研究成果を発表しました。研究チームによると、月の破片がKamo`oalewaのように数百万年に渡って地球と似たような軌道を公転する小惑星になる確率は低いものの、あり得ないことではないようです。
Kamo`oalewaは2016年4月27日にハワイの掃天観測プロジェクト「パンスターズ(Pan-STARRS)」によって発見された幅46~58mと推定される小惑星です。当初は「2016 HO3」という仮符号で呼ばれていましたが、後にハワイ語で「振動する破片・断片」を意味するKamo`oalewaと名付けられました。地上から観測したKamo`oalewaのスペクトル(電磁波の波長ごとの強さ)はアポロ計画で採取された月の石と一致したことから、Kamo`oalewaは天体衝突などで飛び出した月の破片ではないかと考えられています。
関連:地球の準衛星「カモオアレワ」は月の破片かもしれない(2021年11月16日)
【▲ 小惑星Kamo`oalewa(2016 HO3)の軌道を示した動画】
動画では太陽(Sun)を中心とした動きと地球(Earth)から見た動きの両方が黄色の線で示されている。
Kamo`oalewaは太陽を中心に公転する小惑星だが、地球からその動きを観測すると地球を公転する衛星のように見える。
(Credit: NASA/JPL-Caltech)
現在のKamo`oalewaの公転周期は地球とほぼ同じ約1年で、地球からはKamo`oalewaがヒル球(Hill sphere ※1)の外側で一緒に太陽を公転しているように見えます。このような天体は1年周期で地球を周回している衛星のように見えることから「準衛星(Quasi-satellite)」と呼ばれています。衛星のように見えるのはあくまでも地球を基準とした場合であり、太陽を基準にすれば地球の公転軌道付近で太陽を周回する小惑星の軌道が描かれます。
研究チームによると、Kamo`oalewaの公転運動は準衛星のなかでも特徴的だといいます。現在のKamo`oalewaは地球の準衛星ですが、約100年前までは地球から見て太陽の反対側を中心とした馬蹄形の軌道を公転していて、約300年後からは再び馬蹄形の軌道を公転するようになるとみられています。過去の研究では、Kamo`oalewaがこのような軌道の遷移を数十万年~数百万年という長期間に渡って繰り返す可能性が示されているといいます。
ところが、研究に参加したアリゾナ大学教授のRenu Malhotraさんによると、地球と月の重力を振り切るのに十分な運動エネルギーが与えられた月の破片は、通常このような軌道に進入するには速すぎるのだといいます。そこで研究チームは、太陽系の惑星すべての重力を正確に説明した数値シミュレーションを開発し、月面の様々な場所から様々な速度で飛び出した後に、太陽からの平均距離0.98~1.02天文単位(※2)の範囲にしばらく留まると仮定して破片の動きを分析しました。
シミュレーションの結果、月から飛び出した破片の大多数はアテン群やアポロ群のような軌道で太陽を公転する小惑星になるものの、破片全体のうち6.6パーセントは一時的に地球の公転軌道付近で太陽を周回する可能性が示されました。内訳は馬蹄形の軌道を公転する破片が5.8パーセント、Kamo`oalewaのように馬蹄形の軌道と準衛星の状態を遷移する破片が0.8パーセントです。また、月面から飛び出した破片がKamo`oalewaのような軌道に入る可能性が最も高いとシミュレーションで示されたのは、月の公転方向とは反対側(地球上から見て西側)の半球から月の脱出速度(毎秒2.4km)をわずかに上回る速度で飛び出す場合でした。
この結果をもとに、研究チームはKamo`oalewaが月から飛び出した破片である可能性が高まったと結論付けており、今後はこのような軌道に入ることを可能にした条件の特定や年齢の推定を進めたいとしています。研究チームの成果をまとめた論文はNature Communications Earth & Environmentに掲載されています。
ただし、Kamo`oalewaが本当に月の破片なのかどうかを確かめるには、さらなる情報が必要です。Kamo`oalewaは中国が2025年の打ち上げを計画しているとされる小惑星探査ミッション「鄭和」(ていわ、ヂェン・フー)でサンプルリターンの対象になっていることから、そう遠くない未来に答えが得られるかもしれません。
■脚注
※1…重い天体を周回する別の天体(例:太陽を公転する地球)の重力が、重い天体の重力を上回る範囲のこと。太陽を周回する地球のヒル球は半径約150万km(地球から月までの距離の約4倍)。地球のヒル球に入り込んで一時的に地球を周回する天体は「ミニムーン(minimoon)」とも呼ばれる。
※2…1天文単位(au)は約1億5000万km、太陽から地球までの平均距離に由来。
Source
アリゾナ大学 - Researchers probe how a piece of the moon became a near-Earth asteroid カリフォルニア大学サンディエゴ校 - How Could a Piece of the Moon Become a Near-Earth Asteroid? Researchers Have an Answer Castro-Cisneros et al. - Lunar ejecta origin of near-Earth asteroid Kamo’oalewa is compatible with rare orbital pathways (Nature Communications Earth & Environment)文/sorae編集部
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