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天王星で赤外線オーロラを初観測 高層大気や内部構造の解明への手掛かり

sorae.jp / 2023年11月16日 21時0分

「天王星」は磁場の角度や位置に大幅なズレがあることで注目されている惑星です。この奇妙な磁場の解明のために、「オーロラ」の観測が手段として使用されます。レスター大学のEmma M. Thomas氏などの研究チームは、史上初めて天王星の赤外線オーロラの観測に成功しました。これは天王星の高層大気や内部構造を調べる上で重要なデータとなります。

【▲ 図1: 今回観測された赤外線オーロラの観測データを、実際の天王星の撮影画像に当てはめたもの。実際にこのように撮影されたわけではないことに注意。 (Image Credit: University of Leicester (赤外線オーロラ) / NASA, ESA & M. Showalter (SETI Institute) (天王星) ) 】

【▲ 図1: 今回観測された赤外線オーロラの観測データを、実際の天王星の撮影画像に当てはめたもの。実際にこのように撮影されたわけではないことに注意(Credit: University of Leicester (赤外線オーロラ) / NASA, ESA & M. Showalter (SETI Institute) (天王星)) 】

■複雑怪奇な天王星の磁場

地球の高緯度地域で観測される「オーロラ」は視覚的に美しいため一般にもよく知られていますが、惑星科学的にも重要な存在です。オーロラは太陽から放出される荷電粒子(電気を帯びた粒子)と大気を構成する分子との衝突によって発生するものであり、オーロラの色が様々であるのは、分子の種類や状態によって発生する電磁波の波長が違うためです。このため、オーロラは肉眼的に視認可能な可視光線だけでなく、目に見えない電波・赤外線・紫外線の領域でも発生しています。

オーロラの発生には大気分子と荷電粒子の衝突が必要ですが、荷電粒子は磁場によって弾かれてしまうため、荷電粒子は磁場が弱い場所である磁軸(磁場の軸)の極付近に集中します。地球を含むほとんどの天体では自転軸と磁軸がほぼ一致するため、多くの天体ではオーロラは高緯度地域でのみ発生する現象となります。

【▲ 図2: 天王星の磁場の構造。磁軸は自転軸に対して59度ズレているだけでなく、中心から3分の1の場所を通過しており、これは他のタイプの惑星には観られない構造です。 (Image Credit: Ruslik0) 】

【▲ 図2: 天王星の磁場の構造。磁軸は自転軸に対して59度ズレているだけでなく、中心から3分の1の場所を通過しており、これは他のタイプの惑星には観られない構造です(Credit: Ruslik0)】

しかし、大きな例外の1つとして「天王星」が知られています。NASA(アメリカ航空宇宙局)の「ボイジャー2号」が1986年に天王星の接近探査を行った結果、磁軸は自転軸から59度も傾いているだけでなく、天王星の中心から3分の1もズレた場所を通過していることが明らかにされました。天王星は自転軸が98度も傾いた “横倒し” の惑星であることも考えると、なぜこのような磁場が存在しているのかは興味深い疑問です。

天王星の磁場を詳細に研究するのに最も適した方法は惑星探査機を送り込むことですが、これには膨大な予算と時間がかかります。これに代わる方法として、オーロラの観測によって磁場を間接的に測定する手段が検討されていますが、このためには様々な波長のオーロラを観測する必要があります。天王星のオーロラはこれまで紫外線領域で観測されたことはありますが、赤外線領域で観測されたことはありませんでした。これはデータに大きな穴があることになり、他の天体とオーロラや磁場を比較する上で大きな障害となります。

■赤外線オーロラの観測に成功!

Thomas氏らの研究チームは、W.M.ケック天文台の「ケックII望遠鏡」で取得された天王星の観測データ約6時間分を調査し、赤外線オーロラが含まれていないかの調査を行いました。これまでの研究から、天王星の赤外線オーロラはプロトン化水素分子(水素原子が正三角形状に配置された分子)によって発生する可能性が示されています。 プロトン化水素分子は既に1992年に発見されていましたが、赤外線オーロラが発生しているのかは不明でした。これは、オーロラ以外の理由で発生しているとみられる赤外線に隠されているためです。

プロトン化水素分子によって発生する赤外線を見つけるため、3.5マイクロメートルと4.1マイクロメートルの波長で集中的にデータを調査しました。その結果、確かに赤外線オーロラが発生していることを示す観測的証拠を得ることに成功しました。天王星の赤外線オーロラの観測は史上初めてとなります。

今回の研究では、赤外線オーロラの発生状況はプロトン化水素分子の濃度を反映していることも判明しました。オーロラの発生状況は温度にも依存しますが、今回の分析結果からは温度変化はほとんどなく、濃度のみが変化していることが分かっています。プロトン化水素分子の生成量は、オーロラが発生する上層大気の環境によって変化するため、オーロラを通じてプロトン化水素分子の濃度を調べられることは興味深い発見です。

■観測結果は高層大気や内部構造の手掛かりに

自転軸と磁軸が大幅にずれている状況は、天王星とよく似た物理的性質を持つ海王星でも観測されています。また、天王星と海王星には、太陽から受け取る熱よりも、自身が放射する熱の方が多いという別の謎もあります。熱源として疑われているものの1つにオーロラがあるため、今回の赤外線オーロラの観測は、熱源に関する謎を解明する可能性もあります。

また、天王星や海王星に似た惑星は、太陽以外の天体の周りを公転する「太陽系外惑星」でも多数発見されています。今回の赤外線オーロラの観測手法が太陽系外惑星にも適用されれば、磁場の発生源となる内部構造の謎に迫れる可能性もあります。

 

Source

Emma M. Thomas, et al. “Detection of the infrared aurora at Uranus with Keck-NIRSPEC”. (Nature Astronomy) “Uranus aurora discovery offers clues to habitable icy worlds”. (University of Leicester)

文/彩恵りり

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