ハッブル宇宙望遠鏡の観測で算出 約22光年先の太陽系外惑星「LTT 1445Ac」の直径は地球の約1.07倍
sorae.jp / 2023年11月28日 20時24分
ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(CfA)のEmily Passさんを筆頭とする研究チームは、「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」を用いた観測データをもとに、約22光年先の太陽系外惑星「LTT 1445Ac」の直径を算出することに成功したとする研究成果を発表しました。研究チームによると、LTT 1445Acの直径は地球の約1.07倍と推定されています。
LTT 1445Acはエリダヌス座の方向にある赤色矮星「LTT 1445A」を公転しています。ハッブル宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によれば、LTT 1445Acはアメリカ航空宇宙局(NASA)の系外惑星探査衛星「TESS(テス)」の観測によって発見されました。主星のLTT 1445Aは直径と質量がどちらも太陽の約4分の1、表面温度は約3067℃(約3340ケルビン)で、他の2つの赤色矮星とともに三重連星「LTT 1445」を成しています。
TESSは系外惑星が主星の手前を通過するときに生じる主星の明るさのわずかな変化をもとに系外惑星を検出するトランジット法(後述)を利用しています。STScIによると、地球から観測したトランジット中のLTT 1445Acはその一部だけが主星のLTT 1445Aと重なり、かすめていくように見えている可能性があったといいます。トランジット法の観測データからは系外惑星の直径を推定することができますが、このような位置関係にある場合は正確な直径を求めるのが難しくなります。
そこでPassさんたち研究チームはLTT 1445Acのトランジットをハッブル宇宙望遠鏡で観測し、得られたデータを分析しました。その結果、前述の通りLTT 1445Acの直径は地球の約1.07倍(1.07+0.10-0.07倍)、質量は地球の約1.37倍(1.37±0.19倍)と算出されました。推定される平均密度は1立方cmあたり約5.9g(5.9+1.8-1.5g)で、地球のような岩石質の惑星だとみられています。TESSの光学解像度ではトランジット中のLTT 1445Acが主星のLTT 1445Aと完全に重なるように見えるのか、それともかすめていくように見えるのか判断できなかったものの、ハッブル宇宙望遠鏡の観測データは完全に重なりながら通過していることを示しており、LTT 1445Acの直径を求めることができたといいます。
地球サイズの岩石惑星といえば生命の居住可能性も注目されますが、LTT 1445Acは主星から約0.027天文単位(※1)しか離れていない軌道を約3.12日周期で公転しています。主星のLTT 1445Aは恒星の中では低温の赤色矮星ですが、STScIによればLTT 1445Acの表面温度は約260℃と推定されているため、地球の生命にとっては厳しい環境と言えます。
また、トランジット法で観測できる系外惑星に大気が存在する場合、通過中に惑星の大気を通り抜けてきた主星の光を分光観測(※2)して大気の組成を調べることもできます。地球からLTT 1445Acまでの22光年という距離は宇宙のスケールではお隣と呼べるほど短いことから、Passさんは「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」による観測に期待を寄せています。研究チームの成果をまとめた論文はThe Astronomical Journalに掲載されています。
■系外惑星の代表的な探査方法「トランジット法」と「視線速度法」系外惑星の観測では「トランジット法」と「視線速度法(ドップラーシフト法)」という2つの手法が主に用いられています。
「トランジット法」とは、系外惑星が主星(恒星)の手前を横切る「トランジット(transit)」を起こした際に生じる主星の明るさのわずかな変化をもとに、系外惑星を間接的に検出する手法です。
繰り返し起きるトランジットを観測することで、その周期から系外惑星の公転周期を知ることができます。また、トランジット時の主星の光度曲線(時間の経過にあわせて変化する天体の光度を示した曲線)をもとに、系外惑星の直径や大気の有無といった情報を得ることも可能です。
【▲ 系外惑星のトランジットによって恒星の明るさが変化する様子を示した動画】
(Credit: ESO/L. Calçada)
もう一つの「視線速度法(ドップラーシフト法)」とは、系外惑星の公転にともなって円を描くようにわずかに揺さぶられる主星の動きをもとに、系外惑星を間接的に検出する手法です。
惑星の公転にともなって主星が揺れ動くと、光の色は主星が地球に近付くように動く時は青っぽく、遠ざかるように動く時は赤っぽくといったように、周期的に変化します。こうした主星の色の変化は、天体のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を得る分光観測を行うことで検出されています。視線速度法の観測データからは系外惑星の公転周期や最小質量を求めることができます。
【▲ 系外惑星の公転にともなって主星のスペクトルが変化する様子を示した動画】
(Credit: ESO/L. Calçada)
■脚注
※1…1天文単位(au)は約1億5000万km、太陽から地球までの平均距離に由来。0.027天文単位は約400万km。
※2…電磁波の波長ごとの強さを示すスペクトルを得る観測方法のこと。スペクトルには原子や分子が特定の波長の電磁波を吸収したことで生じる暗い線「吸収線」や、反対に特定の波長の電磁波を放つことで生じる明るい線「輝線」が現れるため、分光観測を行うことで天体の組成などを調べることができる。
Source
STScI - NASA's Hubble Measures the Size of the Nearest Transiting Earth-Sized Planet ESA/Hubble - Hubble measures the size of the nearest transiting Earth-sized planet Pass et al. - HST/WFC3 Light Curve Supports a Terrestrial Composition for the Closest Exoplanet to Transit an M Dwarf (The Astronomical Journal)文/sorae編集部
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