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大マゼラン雲の若い星を囲む円盤をアルマ望遠鏡で観測 天の川銀河の外にある若い星では初

sorae.jp / 2023年11月30日 5時30分

こちらは「HH 1177」と呼ばれる若い星(若い星状天体、Young Stellar Object:YSO)の様子を描いた想像図です。中心で輝く大質量の若い星は降着円盤(周回しながら落下するガスや塵でできた円盤状の構造)から物質を取り込んで成長しつつ、両極方向にジェット(細く絞られた高速のガスの流れ)を噴出させています。

【▲ 大マゼラン雲で見つかった若い星状天体「HH 1177」の想像図(Credit: ESO/M. Kornmesser)】

【▲ 大マゼラン雲で見つかった若い星状天体「HH 1177」の想像図(Credit: ESO/M. Kornmesser)】

この想像図は、ダラム大学のAnna McLeodさんを筆頭とする研究チームによる最新の研究成果を元に描かれました。実は、HH 1177は天の川銀河の外、地球から約16万8000光年先の大マゼラン雲(大マゼラン銀河とも)にあるHII(エイチツー)領域(※1)「LHA 120-N 180B」で見つかった天体です。これまでの観測では長さ約33光年に渡るジェットが捉えられていましたが、電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」を使用した研究チームによる今回の観測で円盤が検出されました。

若い星を取り囲む円盤の中ではやがて惑星が形成されると考えられています。ヨーロッパ南天天文台(ESO)によると、惑星の形成につながるこのような円盤が天の川銀河の外にある若い星で検出されたのは今回が初めてだということです。研究チームの成果をまとめた論文はNatureに掲載されています。

次の画像はLHA 120-N 180Bの全体像(左)、ESOが運営するチリのパラナル天文台にある「超大型望遠鏡(VLT)」の広視野面分光観測装置「MUSE」で取得されたHH 1177の画像(中央)、MUSEで取得したHH 1177の画像にアルマ望遠鏡の観測結果を重ね合わせた画像(右)の3点を合成したものです。

【▲ 左:HII領域「LHA 120-N 180B」の全体像、中央:超大型望遠鏡(VLT)の広視野面分光観測装置「MUSE」で観測したHH 1177、右:中央の画像にアルマ望遠鏡の観測結果を重ね合わせたもの(Credit: ESO/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/A. McLeod et al.)】

【▲ 左:HII領域「LHA 120-N 180B」の全体像、中央:超大型望遠鏡(VLT)の広視野面分光観測装置「MUSE」で観測したHH 1177、右:中央の画像にアルマ望遠鏡の観測結果を重ね合わせたもの(Credit: ESO/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/A. McLeod et al.)】

中央の画像に示されたHH 1177のジェットは、青と赤の2色で着色されています。この色は地球に対するジェットの運動方向に対応していて、青色のジェットは地球に向かう方向へ、赤色のジェットは地球から遠ざかる方向へ噴出していることを示しています。ジェットの運動方向は分光観測(※2)を通して光のドップラー効果を調べることで知ることが可能です。救急車のサイレン音が変化して聞こえるのと同じように、近付いてくる光源から放射された光の波長は短く、遠ざかる光源から放射された光の波長は長くなるからです。

右の画像の中央部分に示されたアルマ望遠鏡による観測結果もまた、青と赤で塗り分けられています。この色は円盤の回転運動に対応していて、青色の部分は地球へ近付くように、赤色の部分は地球から遠ざかるように動いていることを示しています。「アルマ望遠鏡のデータに回転構造の証拠を見た時は、天の川銀河外の降着円盤を初めて発見したことが信じられませんでした。それは特別な瞬間でした」(McLeodさん)

新しい星は密度の高い分子雲の中でガスや塵を材料にして形成されますが、ESOによれば大マゼラン雲で星が形成される環境には天の川銀河と比べて塵の含有量が低いという特徴があります。観測されているHH 1177は塵を豊富に含む繭のような雲にはすでに包まれておらず、星や惑星が形成されていく様子を調べようとする天文学者の視界は妨げられていないといいます。McLeodさんは「私たちは天文施設の技術が急速に進歩する時代にいます。これほど遠く離れた別の銀河で星がどのように形成されるのかを研究できるなんて、とてもエキサイティングです」とコメントしています。

【▲ 超大型望遠鏡(VLT)の広視野面分光観測装置「MUSE」で観測したHH 1177の画像(中央)と、HH 1177および降着円盤の位置をその想像図(右)で示したもの(Credit: ESO/A. McLeod et al./M. Kornmesser)】

【▲ 超大型望遠鏡(VLT)の広視野面分光観測装置「MUSE」で観測したHH 1177の画像(中央)と、HH 1177および降着円盤の位置をその想像図(右)で示したもの(Credit: ESO/A. McLeod et al./M. Kornmesser)】

■脚注
※1…若い大質量星から放射された紫外線によって電離した水素ガスが光を放っている領域。ガスと塵を材料に星が形成される星形成領域でもあり、新たな星が誕生する現場であることから“星のゆりかご”と呼ばれることもある。
※2…電磁波の波長ごとの強さを示すスペクトルを得る観測方法のこと。スペクトルには原子や分子が特定の波長の電磁波を吸収したことで生じる暗い線「吸収線」や、反対に特定の波長の電磁波を放つことで生じる明るい線「輝線」が現れる。吸収線と輝線は合わせて「スペクトル線」と呼ばれる。分光観測を行うことで天体の組成を調べたり、スペクトル線のずれ具合をもとに視線方向の運動速度を割り出したりすることができる。

 

Source

ESO - Astronomers discover disc around star in another galaxy for the first time ESO - Bubbles of Brand New Stars McLeod et al. - A probable Keplerian disk feeding an optically revealed massive young star (Nature)

文/sorae編集部

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