天王星に1個、海王星に2個の新しい衛星を発見! 天王星は20年ぶり
sorae.jp / 2024年2月28日 21時33分
太陽系の惑星には大小さまざまな衛星が見つかっています。中でも巨大な惑星は2桁以上の衛星を従えていますが、実際の総数がいくつであるのかは分かっていません。
カーネギー研究所のスコット・S・シェパード氏などの観測チームは、天王星の新衛星「S/2023 U 1」と、海王星の新衛星「S/2002 N 5」および「S/2021 N 1」の発見を公表しました。天王星は約20年ぶりに衛星が追加され、総数が28個となりました。また、海王星も約10年ぶりの追加であり、総数は16個となりました。さらに、S/2021 N 1は海王星のみならず、太陽系の全ての衛星の中でも惑星から最も遠くを公転する衛星の記録を更新しました。
【▲図1: 今回発見が公表された3つの新衛星(Credit: Scott S. Sheppard, Magellan telescope & Subaru telescope (丸囲みと衛星名は筆者による加筆)】 ■太陽系の衛星はいくつある?太陽系の惑星のうち、水星と金星を除くすべての惑星が1個以上の衛星を持ちます。特に巨大な四大惑星である木星・土星・天王星・海王星は、いずれも10個以上の恒久的な自然衛星を持っていることが確認されています。2023年には木星と土星の新衛星が数十個も追加され、土星の衛星数は146個(※1)、木星の衛星数は95個となっています。
※1…土星の衛星の中には、一時的に生じた環の塊である可能性が高いためにカウントから除外されている衛星が3個あります。もしもこれらを加えた場合、土星の衛星数は149個となります。
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木星と土星に対し、天王星と海王星の衛星の総数はずっと少なくなります。今回の報告以前では、天王星の衛星数は27個、海王星の衛星数は16個でした。理由の1つは、どちらも地球から遠く離れているために、小さくて暗い衛星からの反射光を見つけることが困難になるためです。実際、木星と土星の衛星には10km未満の衛星が多数発見されていますが、天王星と海王星の衛星は最小のものでも10km以上と考えられており、それだけ小さな衛星を見つけることが難しいことを示しています。
また、衛星の軌道の性質も観測に追加の困難を与えます。暗い衛星を観測するには、感度の高い望遠鏡で長時間の露光を行う必要があります。しかし、衛星のすぐ近くで惑星が明るく輝いているために、衛星の光が隠されてしまうこともあります。このため、衛星を撮影すること自体が困難となります。
さらに、惑星から遠く離れた位置を公転する衛星は、非常にゆっくりとした公転速度で動いているため、数日程度の撮影ではほとんど動いていないように見えます。衛星であることを示すには惑星に対する公転軌道を算出する必要があるため、年単位の間隔を置いて観測を行う必要があります。
■見つけにくい衛星を新しい方法で探索そのような状況の中で、カーネギー研究所のスコット・S・シェパード氏などの観測チームは、天王星と海王星を周回する新しい衛星の発見を報告しました。シェパード氏はそのような観測が難しい衛星を多数発見していることでよく知られており、他の天文学者と協力して四大惑星の新たな衛星を2000年以降に100個以上も見つけています。特に、木星と土星の衛星についてはその半分以上の発見にシェパード氏が関わっています。
新衛星はいずれも視等級が25~27等級という極めて暗い天体であり、そのまま撮影したとしても背景のノイズと区別することができません。そこでシェパード氏らは撮影方法を見直し、従来の1回の長時間露光ではなく、数十回に分けた短時間の露光を重ね合わせる処理を行う方法に切り替えました。こうすれば、衛星よりもずっと明るい惑星や背景の恒星からの光を抑えつつ、衛星からの暗い光を強調することができます。今回発見された新衛星はいずれも、1日あたり3~4時間の撮影時間中に5分間の短時間露光が繰り返し行われました。
【▲図2: 衛星の仮符号の命名規則。特に西暦を表す4桁は、発見時により古い観測データが見つかった場合、その年数を表しています(Credit: 彩恵りり)】なお、これらの新衛星は発見されたばかりであるため、固有名は与えられていません。現時点では機械的に割り当てられる仮符号が正式名称となります。仮符号の命名規則は上画像に譲りますが、特に4桁の数字は初めて観測された年のことであり、新たな衛星として認識された年を意味しているわけではないことに注意が必要です。
■20年ぶりの天王星の新衛星「S/2023 U 1」 【▲図3: マゼラン望遠鏡で2023年11月4日に撮影されたS/2023 U 1 (丸囲み内部の白点) 。天王星は左上にあり、その一部が写り込んでいます。細長く伸びた線は背景にある恒星で、望遠鏡を天王星や衛星の動きに合わせて動かしたために相対的に動いた結果です(Credit: Scott S. Sheppard, Magellan telescope (丸囲みは筆者による加筆)】天王星の新衛星「S/2023 U 1」は、シェパード氏の他、JPL(ジェット推進研究所)のMarina Brozovic氏とBob Jacobson氏によって発見されました。「マゼラン望遠鏡」(チリ、ラス・カンパナス天文台)が2023年11月4日に撮影された画像に写ったことで初めて気づかれましたが、過去のデータを振り返って分析すると、最も古い観測記録は「すばる望遠鏡」(ハワイ、マウナ・ケア山)による2021年9月8日の撮影画像にまで遡ることがわかりました。天王星に新しい衛星が見つかるのは実に約20年ぶりで、2003年10月9日に公表された「マーガレット」以来となります。
S/2023 U 1は、天王星から平均で約798万km離れた楕円軌道を、約681日(約1.86年)かけて公転する逆行衛星(※2)であると分析されています。この公転軌道の性質は天王星の他の衛星「キャリバン」や「ステファノー」と似ています。直径はわずか約8kmであると推定されており、発見されている最も小さな天王星の衛星である可能性があります。
※2…通常の衛星の公転方向は惑星の自転方向と一致しており、これを「順行衛星」と呼びます。「逆行衛星」はその逆、つまり衛星の公転方向が惑星の自転方向と逆であるものを指します。
衛星のような珍しい分類の天体には、通常は神話に因んだ命名がされますが、天王星の衛星の固有名はウィリアム・シェイクスピアの戯曲か、アレキサンダー・ポープの詩『髪盗人』に登場する人物の名前に因んで命名するという例外的な慣習があります。現時点では、天王星から遠く離れた位置を公転する逆行衛星は全てシェイクスピアの『テンペスト』の登場人物に因んで命名されているため、S/2023 U 1にもそのような命名がされると予想されます。
■海王星の新衛星「S/2002 N 5」と「S/2021 N 1」2021年9月3日と10月6日、シェパード氏、Brozovic氏、Jacobson氏の3氏によるマゼラン望遠鏡を使用した海王星の観測が行われました。また、同年9月7日から8日にかけて、すばる望遠鏡でも同様の観測が行われました。すばる望遠鏡による観測はシェパード氏の他、ハワイ大学のDavid Tholen氏、ノーザン・アリゾナ大学のChad Trujillo氏、近畿大学のPatryk Sofia Lykawa氏が行いました。
その結果、明るさの異なる未知の衛星が2個写っていることが確認されました。これらの衛星の発見が確実であることを示すため、2022年11月15日から16日、および2023年11月3日から4日にかけて、マゼラン望遠鏡、すばる望遠鏡、および「超大型望遠鏡(VLT)」(チリ、パラナル天文台)による複数回の追加撮影が行われました。この撮影では、より正確に衛星からの光を捉えるために、Brozovic氏とJacobson氏の作業による衛星の予測軌道から、撮影されるであろう位置の予測が行われました。その結果、2個とも真に海王星の周りを周回している衛星であることが確認されました。
また、過去の観測データを調べたところ、より明るい衛星は、2002年8月14日にM. Holman氏とT. Grav氏によって「セロ・トロロ汎米天文台」の4m望遠鏡(チリ)で撮影された画像の中に写っていること、同年9月3日にはB. GladmanによってVLTで撮影された画像の中にもあることが分かりました。ただし、これらの観測データだけでは衛星であると確定するには不十分であり、当時は見逃されていました。一方で、より暗い衛星は今のところ過去の観測データからは見つかっていません。
こうした経緯があるため、より明るい衛星は「S/2002 N 5」(※3)、より暗い衛星は「S/2021 N 1」と命名されました。これらの明るさの違いは、現時点では実際の直径の違いを反映していると考えられています。
※3…S/2002 N 5という仮符号は、2002年の観測データで見つかった5番目の海王星の衛星であることを意味しています。1から4は発見当時で衛星であることが確定し、現在では順に「ハリメデ」「サオ」「ラオメデイア」「ネソ」という固有名が与えられています。
【▲図4: マゼラン望遠鏡で2021年9月3日に撮影されたS/2002 N 5 (丸囲み内部の白点) (Credit: Scott S. Sheppard, Magellan telescope(丸囲みは筆者による加筆))】S/2002 N 5は直径約23kmと推定され、42度と傾斜した楕円軌道を公転する順行衛星です。海王星からの平均距離は約2340万kmですが、海王星に最も近づく時には約1060万km、最も遠ざかる時には約3620万kmまで距離が大幅に変化します。この長大な軌道を、S/2002 N 5は約8.60年(約3141日)かけて公転しています。この公転軌道の性質は海王星の他の衛星「サオ」や「ラオメデイア」と類似しています。
【▲図5: すばる望遠鏡で2021年9月7日に撮影されたS/2021 N 1 (丸囲み内部の黒点) 。マゼラン望遠鏡の撮影画像とは明暗が反転しています(Credit: Scott S. Sheppard, Subaru telescope (丸囲みは筆者による加筆)】S/2021 N 1は直径約14kmと推定され、発見されている最も小さな海王星の衛星である可能性があります。ほぼ45度(※4)のかなり傾いた軌道を持つ逆行衛星であり、その軌道の性質は海王星の他の衛星「プサマテ」や「ネソ」に似ています。
※4…逆行衛星は90度を超えた軌道傾斜角で表されるため、カタログ上のS/2021 N 1の軌道傾斜角は134.5度です。これをいずれかの水平面から測ると45.5度となります。
S/2021 N 1の公転軌道は非常に遠大です。海王星からの平均距離は約5060万kmであり、最も近づく時には約2830万km、最も遠ざかる時には約7290万kmまで変化します。平均距離も最も遠ざかる時の距離も、これまで海王星の衛星のネソが保持していた「惑星(主星)から最も遠い距離を公転する衛星」の記録を更新しています。この距離の遠大さのため、公転には約27.43年もかかり、これも「最も公転周期の長い衛星」の記録を塗り替えています。日数に直すと約1万18日であり、1万日以上かけて公転する衛星の発見は初めてのことです。
S/2021 N 1の公転軌道は惑星と衛星というより、恒星と惑星とも言える距離感です。最も遠ざかる時の約7290万kmという距離は、水星が太陽から最も遠ざかる時の約6980万kmを超えています。また、長期的に安定して衛星軌道を保てる限界(ヒル球)の半径の約63%に達するため、安定して衛星として存在できる理論的な限界に近いと見なすこともできます。
海王星の衛星は、ギリシャ神話の海の神に因んだ命名がされています。S/2002 N 5やS/2021 N 1と似た軌道を持つ衛星は、いずれも50柱の海の女神のグループであるネーレーイスに因んだ命名がされているため、S/2002 N 5とS/2021 N 1もそれに因んだ命名がされるものと予想されます。
■新しい衛星は衛星の起源を説明できるかもしれない 【▲図6: 今回発見された3個の衛星の性質の抜粋(Credit: 彩恵りり)】 【▲図7: 四大惑星の衛星の公転軌道半径と軌道傾斜角をプロットしたグラフ。今回発見された新衛星は記号内部が塗りつぶされています(Credit: Scott S. Sheppard)】今回発見された3個の新衛星は、いずれも惑星からかなり離れた位置にあり、軌道は楕円形で傾いており、似たような軌道を持つ別の衛星があるという特徴があります。また、3個中2個は逆行衛星です。このような衛星は、惑星の誕生と同時に形作られたのではなく、後の時代に彗星などの小さな天体が捕獲されたものであると考えられています。似たような軌道の衛星が複数あるのは、捕獲時に惑星に極端に近づきすぎたか、もしくは別の天体との衝突でバラバラに分離したためであると考えられます。
似たような軌道を持つ衛星があることは、これらの衛星の起源を探る上で役に立つでしょう。例えば、衛星を詳しく観測し、色や明るさなどのデータを比較して類似点を見いだせれば、元は1つの天体であったことがはっきりするでしょう。また、天王星や海王星の周辺で力学的なシミュレーションをする際に、どのくらいの大きさの破片がいくつ生じるのか、という答え合わせをするのにも役立つはずです。
今回の観測手法は、同じような性質を持つ衛星があれば、同時に発見されている可能性が高い方法です。このため、天王星は直径約8km以上、海王星は直径約14km以上の衛星は、全て発見された可能性があります。比較すると、木星の衛星は直径約2km以上、土星の衛星は直径約3km以上のものが全て発見されている可能性があります。
Source
Minor Planet Electronic Circular. “MPEC 2024-D112 : S/2021 N 1”. (Minor Planet Center) Minor Planet Electronic Circular. “MPEC 2024-D113 : S/2023 U 1”. (Minor Planet Center) Minor Planet Electronic Circular. “MPEC 2024-D114 : S/2002 N 5”. (Minor Planet Center) Scott S. Sheppard. “New Uranus and Neptune moons”. (Carnegie Institution for Science)文/彩恵りり
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