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火星での「サバイバル」は可能? 仏研究グループが「宇宙農業」の可能性を探る火星ローバーを提案

sorae.jp / 2024年5月2日 20時45分

2016年に日本で上映された映画「オデッセイ(原題:The Martian)」では、マット・デイモン演じる宇宙飛行士マーク・ワトニーが火星に一人取り残され、じゃがいもを栽培しながらサバイバルを続けるシーンが登場します。アメリカ航空宇宙局(NASA)が火星への最初の有人飛行を2040年までに実現すると公言するなか、火星で生活するために克服すべき課題のひとつは「食糧をどう確保するのか?」という問題です。火星での生活に必要な物資のすべてを地球から運搬することは現実的ではないため、資源の一部は火星で賄う必要があります。

フランス高等科学技術学院のSamuel Duarte Dos Santos氏が率いる研究グループは、火星で農業を実現できるかどうかを検証するために土壌や大気を調査する探査ローバー(探査車)「AgroMars」を提案しました。

■火星での農業を実現するための先行研究 【▲ 火星で作物を育てる温室のアーティストによるコンセプトの一つ。LED照明と水耕栽培の利用を想定している(Credit: NASA/SAIC)】【▲ 火星で作物を育てる温室のアーティストによるコンセプトの一つ。LED照明と水耕栽培の利用を想定している(Credit: NASA/SAIC)】

火星での農業を実現するために障害となっているのは、地球の約1000分の6しかない気圧の低さや、摂氏マイナス153度からプラス20度の範囲内という極端な温度(差)、地球の約700倍もある高い放射線量といった過酷な環境条件です。こうした困難に対処するため、土壌を必要としない「ハイドロポニックス(水耕栽培)」や「エアロポニックス(空中栽培)」の研究が進められています。また、人工照明を備え、温度・湿度を調整できる特殊な「グリーンハウス」の実現や、過酷な環境でも農作物を生育できるようにする遺伝子工学の進展も、火星での農業を実現するための重要なカギになるといいます。

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Santos氏の研究グループは、こうしたハイドロポニックスやエアロポニックスとは別の角度から、火星での農業の可能性を追求しています。火星の表面は「レゴリス」と呼ばれる細かい砂状の物質の層で覆われていますが、研究グループはレゴリスによる「土壌」を活用した宇宙農業が実現できるかどうかを探ろうとしている模様です。

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■NASAが運用中の2機の探査ローバーと同等の性能を想定した「AgroMars」 【▲ Samuel Duarte Dos Santos氏らの研究グループが提案する火星探査ローバー「AgroMars」。火星の土壌や大気を調査するために使用される(Credit: M. Duarte dos Santos, et al. )】【▲ Samuel Duarte Dos Santos氏らの研究グループが提案する火星探査ローバー「AgroMars」。火星の土壌や大気を調査するために使用される(Credit: M. Duarte dos Santos, et al. )】

研究グループが提案するAgroMarsは重量約950kgの火星探査ローバーで、NASAが現在運用中の「Perseverance(パーシビアランス)」や「Curiosity(キュリオシティ)」と似た性能をもつよう設計することが想定されています。AgroMarsの重量を考慮すると、打ち上げには20トン以上のペイロードを宇宙空間に運搬できるロケットが必要となるため、SpaceXの「ファルコン9」ロケットでの打ち上げを想定しているようです。

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AgroMarsに搭載される科学装置は、火星上の鉱物の組成を調べるための「X線・赤外線分光装置」、土性(※1)を調べるための「高解像度カメラ」、土壌が酸性なのかアルカリ性なのかを計る「pH計」、有機化合物の検出および分析のための「ガスクロマトグラフ質量分析計」などが想定されています。研究グループによると、これらのパラメータを計測することが火星の土壌が農業に適しているかを検査するのに必要だといいます。また、土性の計測を助けるドリルをAgroMarsに搭載することも計画されているようです。

※1…どの程度水分を含む(含みうる)のか、粒の粗さ、吸収できる養分の量など、土壌の性質のこと

研究グループによると、ミッションは5つの段階に分けられます。まず準備段階としてミッションの目的を定義し、導入段階でコンポーネントの信頼性を検証した後に、打ち上げ段階で火星への安全かつ精密な着陸を実現。AgroMarsが現地で探査した土壌サンプルのデータを地球に転送し、追加のデータ分析によって火星の土壌が農業に適しているかどうかの評価が下されるのだといいます。

研究グループの試算では、AgroMarsの開発や打ち上げに約22億ドル、火星探査に約5億ドル、合計27億ドル程度の費用がかかる模様です。こうした費用の内訳には、AgroMarsに電力を供給するための放射性同位体熱電気転換器(Radioisotope Thermoelectric Generator: RTG)(※2)の費用も含まれるようです。

※2…放射性同位体の崩壊時に発生する熱エネルギーを電気エネルギーに変換する原子力電池の一種

AgroMarsによるミッションを取り上げた宇宙開発・天文学ニュースサイト「Universe Today」は、「ミッションが成功するかどうかは不明だが、火星に恒久的な基地を建設するのであれば、(AgroMarsのように)火星の環境を深く理解することが必要だ」と記事を締めくくっています。

 

Source

Universe Today – Want to Start a Farm on Mars? This Rover Will Find Out if it’s Possible M. Duarte dos Santos, et al. – AgroMars, Space Mission Concept Study to Explore Martian Soil and Atmosphere to Search for Possibility of Agriculture on Mars. Space.com – Colonizing Mars may require humanity to tweak its DNA NASA JPL – Mars Lighting Conditions Mars Society of Canada – ISRU Part IV: How to Grow Food on Mars

文/Misato Kadono 編集/sorae編集部

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