“じょうぎ座”の連星に秘められた歴史 いくつもの謎を説明できるシナリオとは?
sorae.jp / 2024年4月27日 21時45分
こちらは南天の「じょうぎ座(定規座)」の方向約3800光年先の連星「HD 148937」と、その周囲に広がる星雲「NGC 6164」「NGC 6165」です。中央で明るく輝いている星がHD 148937で、その右上(北西側)がNGC 6164、左下(南東側)がNGC 6165と呼ばれています。
【▲ パラナル天文台の「VLTサーベイ望遠鏡(VST)」で撮影された連星「HD 148937」と星雲「NGC 6164」および「NGC 6165」(Credit: ESO/VPHAS+ team. Acknowledgement: CASU)】一般的に、連星をなす複数の恒星は同じタイミングで形成されるため、年齢は揃っているはずだと考えられています。ところが、ヨーロッパ南天天文台(ESO)の天文学者Abigail Frostさんを筆頭とする研究チームによると、HD 148937をなす2つの大質量星のうち、年齢約270万年と推定される主星よりも伴星のほうが少なくとも約140万年、場合によっては約390万年ほど古く見えるといいます(伴星の年齢の推定方法によって異なる)。
さらに、主星は大質量星としてはめずらしく磁場を持っていますが、伴星は持っていないという点でも違いがあります。ESOによると、磁場は太陽のような軽い星では共通する特徴ですが、重い星では軽い星のようには磁場を維持できません。しかし、一部の大質量星にはたしかに磁場が存在していて、天文学における長年の謎の一つに数えられるといいます。
また、HD 148937を挟むように取り囲むNGC 6164とNGC 6165はこの連星よりも数百倍は若く、形成されてから7500年程度しか経っていません。そのうえ、星雲には窒素・炭素・酸素といった元素が豊富に存在しているといいます。惑星状星雲や超新星残骸のような“恒星の死”に関連する天体で検出されるのは不思議なことではありませんが、これらはHD 148937のような星であれば通常なら星の奥深くに存在するはずの元素であることから、過去に起きた何らかの破壊的な出来事によって放出されたのかもしれません。
【▲ 研究チームが想定するHD 148937の歴史。左上:三重連星だった頃の想像図、2つの星が近接していて1つの星は離れている。右上:近接していた2つの星が合体し、激しく輝いた時の想像図。左下:輝きが弱まって星が再び見えてきた頃の想像図。右下:HD 148937の実際の画像(Credit: ESO/L. Calçada, VPHAS+ team. Acknowledgement: CASU)】そこでFrostさんたちは、チリのパラナル天文台でESOが運用する「VLT干渉計(VLTI)」で取得された9年分の観測データを使ってHD 148937の分析を行いました。VLTIはパラナル天文台の「超大型望遠鏡(VLT)」を構成する口径8.2mの望遠鏡4基すべてを連動させる干渉計です。分析の結果、研究チームは以下のようなシナリオを導き出しました。
HD 148937はもともと3つの恒星からなる三重連星として誕生しました。3つの星のうち2つは互いに近接し、1つは離れた軌道を公転していたと考えられています。やがて近接していた2つの星は合体して磁場を持つ1つの星になり、周囲に放出された物質で星雲が形作られました。このシナリオであれば、主星と伴星で異なる年齢、大質量星ではめずらしい磁場、星雲の元素の組成といった謎をうまく説明できるというわけです。
ESOによると、大質量星の磁場は2つの星が合体することでもたらされているかもしれないと予想されてきましたが、今回の成果はその可能性を示す初の直接的な証拠としても注目されています。「大質量星の磁場は星の年齢と比べて短期間しか持続しないと予想されているため、私たちはこのようなめずらしい現象が起きた直後と言えるタイミングで観測したのでしょう」とFrostさんはコメントしています。研究チームの成果をまとめた論文はScienceに掲載されています。
【▲ 研究チームが想定するHD 148937の歴史(動画)】
(Credit: ESO/L. Calçada, M. Kornmesser/VPHAS+ team. Acknowledgement: CASU)
なお、ESOはチリのセロ・アルマゾネスで次世代の大型望遠鏡「欧州超大型望遠鏡(Extremely Large Telescope: ELT)」の建設を進めています。ELTを使用すればHD 148937で何が起きたのかをより詳しく調べられるようになるため、さらに驚くべきことが明らかになるかもしれないと期待されています。
Source
ESO – Beautiful nebula, violent history: clash of stars solves stellar mystery Frost et al. – A magnetic massive star has experienced a stellar merger (Science, arXiv)文・編集/sorae編集部
この記事に関連するニュース
-
1秒間に716日が過ぎる! 自転が最速の中性子星の1つ「4U 1820-30」を発見
sorae.jp / 2024年11月17日 21時0分
-
「ダンスする銀河」「宙に浮かぶ魔女の横顔」NASAが今週公開した「不気味で美しい」画像8選
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月6日 15時58分
-
ブラックホール連星「はくちょう座V404星」は三重連星だった可能性
sorae.jp / 2024年11月1日 21時58分
-
ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した小マゼラン雲の散開星団「NGC 602」
sorae.jp / 2024年10月28日 20時57分
-
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した“みずがめ座”の共生星「みずがめ座R星」
sorae.jp / 2024年10月25日 21時49分
ランキング
-
1ワークマンさん最高…!「1280円ルームシューズ」で足首までぽっかぽか&気持ち良い〜
女子SPA! / 2024年11月23日 15時45分
-
2とんでもない通帳残高に妻、絶句。家族のために生きてきた65歳元会社員が老後破産まっしぐら…遅くに授かった「ひとり娘」溺愛の果て
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月21日 8時45分
-
3小泉孝太郎がやっている「納豆の最高においしい食べ方」 タレ半分、“あるもの”をたっぷり
Sirabee / 2024年11月22日 16時15分
-
4「首都高の“ETC”」利用率が98%!? それでも「料金所」に”係員“なぜ存在? 料金所スタッフの勤務実態とは
くるまのニュース / 2024年11月23日 9時10分
-
5カップヌードル、約1割が“アレ”を入れて食べがちと判明 ギャル曽根も「すごい好き」
Sirabee / 2024年11月19日 4時30分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください