宇宙の“化学”を明らかにする遠赤外領域望遠鏡「SALTUS」を欧米研究者合同チームが提案
sorae.jp / 2024年6月17日 16時46分
「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」に続く、新たな赤外線観測用の宇宙望遠鏡の実現が求められているようです。
アメリカ航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターをはじめとする欧米の研究機関による合同研究チームは、遠赤外線を観測するプローブクラスの宇宙望遠鏡「SALTUS(Single Aperture Large Telescope for Universe Studies)」を提案しました。
![【▲ 遠赤外線を観測する宇宙望遠鏡「SALTUS」の想像図(Credit: NASA)】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2024/06/2024-06-12-SALTUS-1.jpg)
SALTUSは主鏡の口径が14mに及ぶ宇宙望遠鏡で、波長34μm~230μmの光に対応する赤外線分光装置「SAFARI-Lite」と、波長56μm~660μmの光に対応する高解像度受信装置「HiRX」という、いずれも遠赤外線で観測を行うための2つの装置を搭載します。これにより、近赤外線〜中赤外線に対応したウェッブ宇宙望遠鏡や、赤外線よりも波長の長い電波(サブミリ波・ミリ波)に対応した「アルマ望遠鏡(ALMA)」の観測を補完する役割を担うのだといいます。
![【▲ 宇宙望遠鏡「SALTUS」の構造を示す概略図(Credit: Harding, L. K. et al.)】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2024/06/2024-06-12-SALTUS-2.jpg)
SALTUSの運用期間は約5年で、NASAが運用していた赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー(Spitzer)」の約16年半(当初の予定は5年程度)や、ウェッブ宇宙望遠鏡で予定されている5〜10年よりも短い設計になっています。研究チームによると、赤外線センサーに対する熱放射の影響を抑えるため、SALTUSの観測装置はウェッブ宇宙望遠鏡のものに似たサンシールド(太陽熱を遮断する2層の膜)の日陰側に置かれます。サンシールドの太陽側は310K(摂氏約37度)ですが、赤外線センサーや主鏡が取り付けられた反対側は45K(摂氏マイナス228度程度)という低い温度に維持されます。約5年という運用期間は、光学性能を満たすために膨張式の構造が採用されている主鏡の維持に必要なヘリウムガスの搭載量によって決められているようです。
![【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、SALTUS、アルマ望遠鏡が捉える光の波長と大気透過率の関係、赤外線分光によって得られるスペクトル(波長に対する光の強さ)から明らかになる化学物質の種類を示した図(Credit: Chin, G. et al.)】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2024/06/2024-06-12-SALTUS-3.jpg)
SALTUSの観測目的の1つは、宇宙が誕生してから現在に至るまでの間に銀河、重元素、星間塵がどのように生成されてきたのかを計測し、銀河と超大質量ブラックホールとが相互作用しながら進化していった様子を調査することだといいます。
星形成銀河の内部では、超新星爆発によって軽元素や金属(重元素)を含むガスが外側に向かって放出され、銀河周辺物質や銀河間物質になるものがあるといいます。こうした銀河間空間に放出されたガスは、冷却されて再び銀河に降着することによって、新たな星の形成につながるようです。そのため、銀河の内部や周辺のガスの流れを最初の銀河が登場した時代から現在までたどることで、宇宙の進化についての理解を深めることができるといいます。
![【▲ アメリカ科学アカデミーが策定した10か年プログラム「Astro2020」が「宇宙のエコシステム(cosmic ecosystem)」と呼ぶ、銀河とその周辺におけるガスや塵の循環を示した概要図。超新星爆発によって銀河からガスや塵が放出され、再び降着することで新しい星が形成される。(Credit: HABEX Report, The Habitable Exoplanet Observatory Study Team)】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2024/06/2024-06-12-SALTUS-4.jpg)
また、SALTUSは原始惑星系円盤や惑星系内の水(H2O)や有機分子を追跡することで、惑星が形成される最中にハビタブル性の要件となる物質がどのように生成されるのかを確認するという目的を遂行する以外にも、幅広い応用に活用できると研究チームは述べています。
研究チームによると、SALTUSはアメリカ科学アカデミーが策定した10か年プログラム「Astro2020」でも重点化が望まれているプローブクラスの観測装置であり、宇宙バルーンを活用して星間物質を観測する「GUSTO(Galactic/Extragalactic ULDB Spectroscopic Terahertz Observatory)」、約4億5000万個の銀河を追跡する宇宙望遠鏡「SPHEREx(Spectro-Photometer for the History of the Universe, Epoch of Reionization and Ices Explorer)」、ダークエネルギーや系外惑星を調査する宇宙望遠鏡「ナンシー・グレース・ローマン」といった、他の赤外線観測装置の役割を補完することが期待されるとしています。
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Source
Universe Today – Astronomers Propose a 14-Meter Infrared Space Telescope Chin, G. et al. – Single Aperture Large Telescope for Universe Studies (SALTUS): Science Overview Harding, L. K. et al. – SALTUS Probe Class Space Mission: Observatory Architecture and Mission Design National Academy of Sciences – Pathways to Discovery in Astronomy and Astrophysics for the 2020s (2021)文/Misato Kadono 編集/sorae編集部
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