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宇宙環境での持続可能なものづくりに一歩前進? ESAが ISS初の金属3Dプリンタの実験に成功

sorae.jp / 2024年7月4日 9時36分

「持続可能性(sustainability)」という考え方が社会に浸透しつつある現代において、宇宙環境下でも持続可能性の追究が進んでいるようです。

欧州宇宙機関(ESA)は、国際宇宙ステーション(ISS)で初めてとなる金属3Dプリンターの造形テストが欧州実験棟「コロンバス」において2024年5月30日に実施され、溶融したステンレス鋼でS字カーブを造形したと伝えています。実験に使用されたのはエアバスがイギリスのクランフィールド大学らと共同開発した金属3Dプリンターで、2024年1月31日に「シグナス」補給船運用20号機でISSに届けられました。

関連記事
・スペースX、ファルコン9でISSへのシグナス補給船運用20号機を打ち上げ(2024年2月2日)

【▲ エアバスが仏・アダップ社、英・クランフィールド大学、伊・Highftech Engineeringと共同開発した金属3DプリンターでS字を描いた様子(Credit: ESA/Airbus)】【▲ エアバスが仏・アダップ社、英・クランフィールド大学、伊・Highftech Engineeringと共同開発した金属3DプリンターでS字を描いた様子(Credit: ESA/Airbus)】 ■金属3DプリンターをISS内で使用する3つの課題

3Dプリンターとは、3DCADで作成された設計図をもとに樹脂や金属といった素材を積み重ねていく「積層造形(Additive Manufacturing)」技術を実装した装置のことです。金属3Dプリンターの場合、金属製の粉末やワイヤにレーザーや電子ビームを照射して、溶融あるいは焼結することで造形します。

エアバスによると、ISS内で金属3Dプリンターを使用する上では3つの課題があったといいます。1つ目は、コロンバスに設置される約180kgの実験用ラック「European Draw Rack Mark II(EDR-2)」に収納するために、サイズを洗濯機ほどの大きさに収めなければならなかったことだといいます。実際に完成した金属3Dプリンターは80cm×70cm×40cmの大きさで、高さ9cm、幅5cmの部品を造形することが可能のようです。

【▲ エアバスが開発した金属3Dプリンターを説明した資料(Credit: Airbus)】【▲ エアバスが開発した金属3Dプリンターを説明した資料(Credit: Airbus)】

2つ目は、ISSの安全性を損なわずに金属3Dプリンターを使用できるようにすることだったといいます。素材に使用される金属の融点は、一般的なプラスチックの融点である摂氏200度前後よりも遥かに高温であることがその理由のようです。そこで、金属3Dプリンターを金属製の箱の中に隔離することで、摂氏1200度以上という高い融点をもつ合金を使用しても熱に耐えられるようにした模様です。また、3Dプリンターを作動させる際に発生する煙がISS内の空気を汚染しないように、フィルターによって装置内に留まるようにしているようです。

3つ目は、10のマイナス4乗g以下というISS内の微小重力環境が造形に及ぼす影響だといいます。金属積層造形法では金属粉末あるいは金属製のワイヤーをレーザーなどで溶融し積み重ねる方法が一般的ですが、微小重力環境下では金属粉末を使用すると造形に影響が及ぶようです。そこで、素材にステンレス鋼のワイヤーを用いることで、微小重力の影響から独立させたようです。

■3Dプリンターを活用した樹脂の造形はすでに実用化

ISSで初めて3Dプリンターを活用した実験は、アメリカ航空宇宙局(NASA)マーシャル宇宙飛行センターによって2014年12月に実施されました。ISS国立研究所によると、この3DプリンターではABS樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリエーテルイミドとポリカーボネートをブレンドした樹脂(PEI-PC)という3種類の樹脂を素材に使った3Dプリントが可能で、すでにISS内の部品の交換や修理に実用化されているといいます。

今回造形テストが行われた金属3Dプリンターでは、4種類のモデルが造形される予定です。“試運転”の段階でありながらも造形に成功したS字カーブは、ISS内での部品の製造につながる重要な試みだったようです。

【▲ 金属3Dプリンターで造形予定のサンプルのうちの1つ(Credit: Airbus)】【▲ 金属3Dプリンターで造形予定のサンプルのうちの1つ(Credit: Airbus)】

なお、ISS内で造形されたモデルは地球に持ち帰られた後に分析されます。金属3Dプリンターの開発に協力したクランフィールド大学によると、溶融状態にある金属あるいは造形後のサンプルに微小重力がどのような影響を及ぼすかなどが調べられるということです。

関連記事
・宇宙でも3Dプリントの時代。商業機が初のツール制作に成功(2016年6月21日)

 

Source

ESA – First metal 3D printing on Space Station Airbus – The world’s first metal 3D printer for space is on its way to the ISS Cranfield University – On-demand spare parts for Space Stations – 3D metal printer could help revolutionise manufacturing in space NASA – Open for Business: 3-D Printer Creates First Object in Space on International Space Station ISS National Laboratory – The New Gold Rush: 3D Printing in Micro-G ISS National Laboratory – Three Years of 3D Printing on the Space Station

文/Misato Kadono 編集/sorae編集部

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