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「ドレイクの方程式」の修正案が提出される 私たち人類は “ひとりぼっち” なのか?

sorae.jp / 2024年7月20日 20時10分

宇宙には、私たち人類以外の文明は存在するのでしょうか? もしも存在するとしたら、それはどれくらいの数となるのでしょうか?

文明の数を推定する方法として有名な「ドレイクの方程式」にもとづくと、天の川銀河の中には多数の文明が存在すると予測できます。その一方で、ドレイクの方程式で予測される文明の数は、私たちがとっくの昔に地球外文明に出会っていてもおかしくはないはずだという「フェルミのパラドックス」との矛盾にしばしば遭遇します。

テキサス大学ダラス校のRobert J. Stern氏とスイス連邦工科大学チューリッヒ校のTaras V. Gerya氏の研究チームは、進化した生命が知性を獲得して文明を構築するには、大規模な地殻の運動である「プレートテクトニクス」の継続時間がカギを握っているのではないかと考えた研究を行いました。そして、ドレイクの方程式の項目の1つである「fi(生命が知性を獲得する割合)」を修正し、「foc(大きな大陸と海洋を持つ居住可能な惑星の割合)」(※1)と「fpt(プレートテクトニクスが5億年以上継続する惑星の割合)」の積(掛け算)にすることを提案しました(※2)。

※1…表面温度が液体の水を維持できる範囲であり、潜在的に生命が発生しうる環境を持つ惑星を「居住可能な惑星」と呼びます。簡単に言えば “地球のような惑星” といえます。

※2…本記事では、ドレイクの方程式の各項目について、元の表記に合わせて下付き文字を使用しています。ただし、環境によっては下付き文字として表示されない場合があります。

Stern氏とGerya氏は様々な事象を元に、生命が知性を獲得する割合を0.003~0.2%、天の川銀河の中の地球外文明の数は多くても2万であると推定しました。ただし、これはあくまでも最大値であり、悲観的に考えれば天の川銀河に文明は1つしかない、つまり私たち人類がひとりぼっちである可能性も最大で0.04%の確率でありうると両氏は推定しています。

■地球外文明への相反する概念「ドレイクの方程式」と「フェルミのパラドックス」 【▲ 図1: ドレイクの方程式では、各要素の掛け算で、天の川銀河に存在する交流可能な文明の数を推定しています。(Credit: 彩恵りり)】【▲ 図1: ドレイクの方程式では、各要素の掛け算で、天の川銀河に存在する交流可能な文明の数を推定しています。(Credit: 彩恵りり)】

この広い宇宙の中で、私たち人類のような文明はいくつ存在するのでしょうか? 天文学者フランク・ドレイクは1961年に、天の川銀河に私たちと交流が可能な文明がいくつあるのかを推定する「ドレイクの方程式」というものを考案しました。それは7つの項目の掛け算で構成された、以下のような式です。

N=R*×fp×ne×fl×fi×fc×L

N: 私たちと交流可能な天の川銀河の中の文明の数
R*: 天の川銀河の中で1年間に誕生する恒星の数
fp: 1つの恒星が惑星系を持つ割合
ne: 1つの恒星における居住可能な惑星の平均数
fl: 居住可能な惑星で生命が発生する割合
fi: 生命が知性を獲得する割合
fc: 知的生命体が恒星間通信を行う文明を持つ割合
L: 文明が恒星間通信を維持する年数

最初に方程式を発表した会議でドレイク自身は天の川銀河の中にある文明の数を1000から1億と推定しました。他の科学者は様々な異なる値を推定しており、その値は100未満から数百万まで非常に幅があります。

一方で、地球外文明の数に関する別の考察もあります。それは1950年に物理学者エンリコ・フェルミが指摘した「フェルミのパラドックス」で、概ね以下のような内容です。

宇宙には無数の恒星があり、太陽よりもずっと古い年齢の恒星も珍しくありません。これらのいくつかは惑星を持ち、生命がいるかもしれません。すると、地球よりも先に文明が誕生し、恒星間旅行が当たり前にできるくらいの高度な技術を持つほど発展していてもおかしくはありません。では、なぜ私たちは未だに地球外文明と出会っていないのでしょうか?

フェルミのパラドックスは1975年に別の科学者によって再発見されるまで知られていなかった概念ですが(※3)、ドレイクの方程式における文明の数が多めの推定値は、フェルミのパラドックスと矛盾しているように見えます。これはおそらく、ドレイクの方程式の項目の推定値に大きな誤りがあるからでしょう。

※3…なお、フェルミ以前にも似たような概念は提唱されており、最も古い例はロケットの父と呼ばれるコンスタンチン・ツィオルコフスキーが1933年に著した未発表原稿の中で暗に示されています。

実際のところ、私たちは文明を1つしか知らないため、ドレイクの方程式は右側の項ほど確かな値を推定しにくくなります。それでも、太陽系以外の惑星が1つも見つかっていなかった1961年当時とは異なり、現在では数千個の惑星が見つかっており、居住可能と推定される惑星も少なくありません。このため、近年ではドレイクの方程式の各項目の値について、いくつもの改善案が提唱されています。

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■知性の獲得は「プレートテクトニクス」がカギ?

今回の研究で注目されたのは、ドレイクの方程式の項目の1つである「fi(生命が知性を獲得する割合)」の推定値に対する疑問です。1961年にドレイクらはfiの値を1であると設定しました。つまり、生命は100%の確率で知性を獲得する進化を遂げるということになります(※4)。この値は、最初にドレイクの方程式が発表された会議に参加したメンバーの1人である脳科学者のジョン・C・リリーの提案によるものだとされています。リリーはイルカの高度な知性に注目し、イルカとヒトという異なる生命が独自に知性を獲得した地球という実例がある以上、fiの値はかなり高いと考えて1と設定しました。

※4…ドレイクらが設定した値はfi=0.01(1%)だとする資料もあります。本記事では、論文とプレスリリースで言及された値を採用しています。

後の時代における他の科学者によるfiの推定値は、多くの場合0.01~1とされていました。つまり、100%は言い過ぎにしても、生命は最も低い可能性でも1%の確率で知性を獲得すると考えられてきたことになります。

しかし、ドレイクの方程式が提唱されてから半世紀以上経った現在、地球の驚くほど厳しい環境でも生息している生命の発見や、居住可能な惑星の候補が多数あることを踏まえて、生命の存在そのものはそこまで珍しくないのではないかと考えられています。そうなると、宇宙がそれほどまでに生命に満ち溢れているのならば、なぜ他の文明に出会わないのか、というフェルミのパラドックスが指摘する事態に陥ります。

そこでStern氏とGerya氏は、生命の誕生そのものは珍しくなくとも、生命が進化して知性を獲得することには何らかの制約があるのではないかと考え、その原因を推定しました。両氏が注目したのは「プレートテクトニクス」です。地球の表面を構成する地殻は何枚ものプレートに分かれています。プレートはゆっくりと移動しながらマントルへと沈み込み、マントルから湧き上がった物質で新たに生成される大循環を繰り返しています。これがプレートテクトニクスです。

実は、岩石が主体の天体で現役で活動しているプレートテクトニクスは、今のところ地球でだけ見つかっている珍しい現象です。同じ岩石天体では、金星、火星、木星の衛星イオでは火山活動がある(またはあった)ものの、プレートテクトニクスははるか昔に停止したと考えられています。また、水星や月では活発な地質活動の痕跡そのものが見つかっていません。

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【▲ 図2: Stern氏とGerya氏は、地球におけるプレートテクトニクスが本格化したタイミングと、複雑な動物化石が見つかり始めるタイミングが一致することは偶然ではないと考えています。(Credit: Robert J. Stern & Taras V. Gerya / 日本語訳は筆者(彩恵りり)による)】【▲ 図2: Stern氏とGerya氏は、地球におけるプレートテクトニクスが本格化したタイミングと、複雑な動物化石が見つかり始めるタイミングが一致することは偶然ではないと考えています。(Credit: Robert J. Stern & Taras V. Gerya / 日本語訳は筆者(彩恵りり)による)】

ここで両氏が重視したのは、地球のプレートテクトニクスが始まったタイミングです。様々な説があるものの、その1つに約8億7000万年前から約6億年前にかけて地殻が複数のプレートへと断片化され、プレートテクトニクスが開始したのではないかとする説があります。特に、プレートテクトニクスが本格的に始まった約6億年前という時代は、ちょうど目に見える大きさの生物化石が見つかるようになる時代と一致する点が注目に値します。

つまり、地球における生命の誕生は約38億年前ですが、生命の進化は実に30億年以上も遅々として進まない状態だったのです。これを考えると、プレートテクトニクスの本格化と生命の進化のタイミングの一致が、単なる偶然ではない可能性があります。むしろ、プレートテクトニクスは生命が複雑化する進化を促す刺激になったと考えることもできるでしょう。

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実際、プレートテクトニクスは生命の進化を促す作用があると考えることができます。プレートが衝突すれば山脈が生じ、風雨が岩石を風化させ、豊富な栄養素を海へともたらします。逆に、プレート同士の分離は穏やかな海を作り出すかもしれません。これが繰り返されることで環境の変化が生じ、それに適応するための進化が促されると考えることができるわけです。

また、プレートテクトニクスは海洋と陸地の両方を生み出します。生命の誕生は、栄養素が豊富に存在し、紫外線を遮断してくれる海洋で発生したという説が主流ですが、一方で海洋は環境の変化に乏しいため、進化を促す作用は限定的であるとも考えられます。これに対して陸地は環境の変化が激しいため、生命に厳しい環境である一方、裏を返せば進化を促す作用があると言えます。

それに、私たちは今のところこの一例しか知らないという知見不足があるものの、ヒトは火、農業、金属精錬、電気など、高度な文明を構築するための様々な要素を陸上で発展させました。これらはいずれも海中では発生しにくいと考えられます。

■天の川銀河の中にある文明の数は最大でも2万 【▲ 図3: Stern氏とGerya氏は、生命が知性を獲得する割合を2つの要素に分けることで、新たな推定値を考案しました。(Credit: 彩恵りり)】【▲ 図3: Stern氏とGerya氏は、生命が知性を獲得する割合を2つの要素に分けることで、新たな推定値を考案しました。(Credit: 彩恵りり)】

前章の理由から、Stern氏とGerya氏は、ドレイクの方程式のfiを「foc(大きな大陸と海洋を持つ居住可能な惑星の割合)」と「fpt(プレートテクトニクスが5億年以上継続する惑星の割合)」の積で表すことを提案しました。

focとfptは、現在の惑星科学の知見でもある程度の値をそれぞれ推定することができます。両氏は、小さなものから大きなものまで様々なサイズの岩石惑星が形成される割合や、その惑星が保持する水などの物質の量、プレートテクトニクスに重要な熱の総量を考慮して、focを0.0002~0.01、fptを0.17未満であると推定しました。

この推定値の場合、focとfptの積で算出されるfiの値は0.00003~0.002となります。つまり、惑星に誕生した生命が知性を獲得する確率は0.003~0.2%ということになり、従来の1~100%という推定値よりも大幅に小さくなります。「L(文明が恒星間通信を維持する年数)」の値が400年から780万年であるとする最近の推定値を代入すると、天の川銀河の中にある文明の数は最大でも2万であることになります。最も悲観的に考えれば、天の川銀河の中にある文明の数が1つしかない、つまり私たちがひとりぼっちである可能性も最大で0.04%の確率であり得ることになります。

Stern氏とGerya氏は、人類が今のところ地球外文明とコンタクトできていないというフェルミのパラドックスの解決策として、今回の研究結果を提示しています。もちろん、これは不確実性の高い推定値であるため、もっと大きな値、あるいは小さな値の可能性もあり得ます。

なお、今回の研究では幾分か良い数値も算出されています。たとえ恒星間通信を行えるほどの文明は存在しないとしても、惑星上に生命、大陸、海洋、プレートテクトニクスの4つが揃っている惑星の数は、ドレイクの方程式と同じような考えで概算ができます。Stern氏とGerya氏は、そのような惑星は天の川銀河全体で500個から約100万個の範囲内にあると推定しています。これほどの数が期待できるのならば、将来の太陽系外惑星の探査で、地球とそっくりな惑星が見つかるかもしれません。

 

Source

Robert J. Stern & Taras V. Gerya. “The importance of continents, oceans and plate tectonics for the evolution of complex life: implications for finding extraterrestrial civilizations”. (Scientific Reports) Amanda Siegfried. “Geoscientists Dig into Why We May Be Alone in the Milky Way”. (University of Texas at Dallas)

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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