1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. 環境・自然・科学

NASA、月で氷の探査を目指していた「VIPER」ミッションの中止を発表

sorae.jp / 2024年7月19日 11時0分

アメリカ航空宇宙局(NASA)は2024年7月17日付で、月の南極周辺で氷などの探査を行う予定だった無人の探査車(ローバー)によるミッション「VIPER(Volatiles Investigating Polar Exploration Rover)」を中止すると発表しました。【最終更新:2024年7月18日12時台】

【▲ アメリカ航空宇宙局(NASA)の月探査車「VIPER」の想像図(Credit: NASA, Illustration by Daniel Rutter)】【▲ アメリカ航空宇宙局(NASA)の月探査車「VIPER」の想像図(Credit: NASA, Illustration by Daniel Rutter)】

VIPERは月の南極周辺に探査車を送り込み、永久影に埋蔵されているとみられる氷(水の氷)の採取・分析を目指していたミッションです。高さ約2.5m・重量約430kgの探査車には長さ1mのドリルと質量分析計が搭載されており、100日間のミッション期間中に表面下からサンプルを採取して水やその他の揮発性物質の分析を行うことが計画されていました。

VIPER探査車はNASAの商業月輸送サービス(CLPS)の下で、アメリカの民間企業Astrobotic Technology(アストロボティック・テクノロジー)の無人月着陸船「Griffin(グリフィン)」によるミッション「Griffin Mission One(GM1)」で月面まで輸送する契約が2020年に締結されていました。GM1の着陸目標地点は月の南極近くにあるノビレ・クレーター(Nobile、直径79.27km)の西縁付近に位置するMons Mouton(モンス・ムートン、ムートン山)です。

【▲ Astrobotic Technologyの月着陸ミッション「GM1」で月面に着陸した同社の月着陸船「Griffin」の想像図。VIPERミッションの中止前に作成されたため、着陸船の上部にはVIPER探査車が搭載されている(Credit: ESA)】【▲ Astrobotic Technologyの月着陸ミッション「GM1」で月面に着陸した同社の月着陸船「Griffin」の想像図。VIPERミッションの中止前に作成されたため、着陸船の上部にはVIPER探査車が搭載されている(Credit: ESA)】

NASAによるとVIPER探査車は当初2023年後半に打ち上げられる予定でしたが、Astroboticの着陸船の飛行前試験に費やす時間を確保するべく2024年後半に延期することを2022年にNASAが要請。その後もスケジュールの遅延やサプライチェーンの問題によって、GM1の打ち上げ時期は2025年9月まで先送りされています。延期によるコスト増加や他のCLPSミッションへの影響を考慮したNASAは、包括的な内部審査の結果、VIPERミッションの中止を決断するに至りました。NASAはVIPER探査車を搭載しないGM1がGriffinおよびそのエンジンの実証飛行になると述べています。なお、GM1ではAstroboticが開発した小型探査車「CubeRover」や欧州宇宙機関(ESA)の着陸用カメラ「LandCam-X」などもペイロードとして搭載される予定です。

Astroboticは同社の月着陸船「Peregrine(ペレグリン)」による初の月着陸ミッション「Peregrine Mission One(PM1)」を2024年1月に実施しましたが、推進システムで問題が発生したため月着陸を断念。着陸船の制御は最後まで失われることはなく、ペイロードとして搭載されていた科学機器を可能な限り動作させた後、地球周辺や地球と月の間の空間(シスルナ空間)でスペースデブリ(宇宙ごみ)が生じるのを防ぐため、着陸船を南太平洋上空で大気圏に再突入させてミッションは終了しています。

関連記事
・【更新】米民間企業の月着陸船「ペレグリン」推進システムで問題発生 月着陸の見込みなし(2024年1月9日)
・米民間企業の月着陸船「ペレグリン」ミッション終了 月着陸を断念し地球の大気圏へ再突入(2024年1月23日)

NASAはすでに組み立てが完了しているVIPER探査車を今後分解し、機器類を別の月探査ミッションで再利用することを計画しています。分解に先立ち、NASAは政府に出費させることなくVIPER探査車を再利用することに関するアメリカの産業界や国際パートナーからの関心表明を2024年8月1日まで受け付けるとしています。また、GM1のGriffinが予定通り飛行できるようにするために、VIPER探査車と同じ重量のダミー(質量シミュレーター)を提供することも計画されています。

【▲ アメリカ航空宇宙局(NASA)の「PRIME-1」ミッションの解説動画(英語)】
(Credit: NASA)

VIPERミッションによる月の南極周辺での氷の探査は実現しませんでしたが、別のミッションによる探査が予定されています。NASAはVIPER探査車に搭載されたものと同じ長さ1mのドリルと質量分析計を使用するミッション「PRIME-1(Polar Resources Ice Mining Experiment-1)」も進めています。PRIME-1ミッションではドリルと質量分析計を民間企業の月着陸船に搭載して、着陸地点の直下からサンプルの採取と分析を行います。探査車が開発されたVIPERミッションとは違って場所を変えながらサンプルを採取することはできないため、着陸地点の表面下に埋蔵されていなければ氷の採取・分析はできないことになります。

PRIME-1の機器はアメリカの民間企業Intuitive Machines(インテュイティブ・マシーンズ)の無人月着陸船「Nova-C(ノバC)」による月着陸ミッション「Intuitive Machines 2(IM-2)」で月面に運ばれる予定です。IM-2の着陸目標地点は月の南極にあるシャクルトン・クレーター(Shackleton、直径20.92km)付近の尾根で、打ち上げは2024年後半に予定されています。Intuitive Machinesは2024年2月の「Intuitive Machines 1(IM-1)」ミッションで民間企業として初めて月面への軟着陸に成功しており(ただし着陸船は横転した状態で安定)、IM-2ミッションは同社にとって2回目の月着陸ミッションとなります。月の南極付近への着陸に成功し、将来の有人月面探査ミッションでの利用も想定されている氷が見つかるかどうか、IM-2とPRIME-1に注目です。

関連記事
・米民間企業の月着陸船「Nova-C」月面で撮影された新たな画像公開 着陸時の詳細も判明(2024年2月29日)
・米民間企業の月着陸船「Nova-C」活動終了へ 夜を越せる可能性に期待(2024年3月4日)

 

Source

NASA – NASA Ends VIPER Project, Continues Moon Exploration NASA – Exploration Science Program Update (July 17, 2024) (YouTube) NASA – Griffin Mission 1 (NSSDCA) NASA – Intuitive Machines 2 (PRIME 1) (NSSDCA)

文・編集/sorae編集部

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください