宇宙旅行の予期せぬ「目新しい」研究
sorae.jp / 2024年7月29日 18時50分
宇宙飛行士は宇宙旅行中に重力の変化すなわち微小重力の状態を経験することがあります。微小重力下では体内の体液が地球上での直立姿勢の場合とは異なる移動をします。そのため眼球内や眼球周囲の血管を含む心臓血管系に変化が生じる可能性があります。
今後宇宙旅行が一般化すると、このような変化を経験するのはプロの宇宙飛行士だけではなくなるでしょう。民間人は宇宙飛行士と比べて体力が劣り、健康状態も良くない可能性があるため、体液移動の変化が心臓血管系や目の健康に与える影響について理解を深めることはいっそう重要になります。
![【 ▲体液移動の変化が心臓血管系や目の健康に与える影響について理解を深める重要性が増している(Credit:Kaitlyn Johnson/Texas A&M Engineering)】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2024/07/2024-07-24-News-AERO-IntroEye-5June2024-1.jpg)
テキサスA&M大学のAna Diaz Artiles博士が率いる研究チームは、微小重力下での体液移動が目に与える影響について研究しています。地球上で直立姿勢を取ると重力により体液の大部分は脚に蓄えられます。ところが微小重力下ではすべての体液が引き下げられないため上半身にも再分配されます。
こうした体液の変化は、「宇宙飛行関連神経眼症候群(SANS: Spaceflight Associated Neuro-ocular Syndrome)」と呼ばれる現象に関連している可能性があるとのこと。SANSは宇宙飛行士の眼球の形状や眼球の血液循環圧力である「眼灌流圧(OPP: Ocular Perfusion Pressure)」に変化を引き起こ し、眼球の平坦化や屈折異常による遠視化などの症状が現れることがあります。
また、微小重力への曝露により直立姿勢と比較してOPPがわずかながら慢性的に上昇し、それがSANS の発症に関与している可能性があるという仮説が立てられています。
現時点で研究者たちはSANSの正確な原因やメカニズムの解明には至っていませんが、SANS による頭部への体液移動を緩和する有効な対策を研究しています。本研究では、「下半身の陰圧(LBNP: Lower Body Negative Pressure)」によって体液が下半身に戻され微小重力の影響を打ち消す可能性が検討されました。
本研究では、傾斜台の上に「LBNP負荷装置」を設置し、被験者24名(男性12名、女性12名)について傾斜角度を変えて(0度および15度の)姿勢ごとに眼圧、眼の位置での平均動脈圧およびOPPを測定しました。
![【▲ 傾斜台上に設置されたLBNP負荷装置の概略図(Credit:Ana Diaz Artiles et al.)】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2024/07/2024-07-24-News-AERO-IntroEye-5June2024-2.jpg)
その結果、LBNPは下半身への体液移動を誘発する効果はあるものの、OPPを軽減するには効果的な方法ではないことが示されました。
![【▲ LBNP負荷装置による眼圧(IOP)、眼位での平均動脈圧(MAP)およびOPPの測定結果のグラフ(単位はmmHg)。横軸はLBNP負荷値で上段は傾斜角0度(仰向け)、下段は頭部下向き15度の場合。赤の実線は女性、青の破線は男性(Credit:Ana Diaz Artiles et al.)】](https://sorae.info/wp-content/uploads/2024/07/2024-07-24-News-AERO-IntroEye-5June2024-3.jpg)
研究チームは今後体液移動の効果的な対策や上記仮説の検証などOPPとSANSの関係、およびLBNPが目の機能に与える影響について理解を深めるため、回転負荷装置を使用して対策の効果を調べるとのこと。
さらに、OPPと微小重力環境によって影響を受ける可能性のある他の心臓血管機能を比較することも目指しています。
また、これらの研究は地球上で行われるため、宇宙旅行での重力環境とは結果が異なる可能性があるため、将来的に放物線飛行などの真の微小重力条件下で研究を実施したいと考えています。
本研究成果は2024年6月8日付けの「nature」に掲載されています。
Source
Texas A&M University – An Unexpected Eye-Opener of Space Travel Hall et al. – Ocular perfusion pressure is not reduced in response to lower body negative pressure (Nature)文/吉田哲郎 編集/sorae編集部
この記事に関連するニュース
-
放置すると全身に不調があらわれる…眼科医が警鐘、7割の現代人があてはまる「隠れドライアイ」の怖さ
プレジデントオンライン / 2024年7月21日 10時15分
-
韓国で増える若者の緑内障…「場所・時間を問わないスマホの動画視聴」に警鐘
KOREA WAVE / 2024年7月18日 19時0分
-
将来につながる実験、宇宙食、そして今後――古川聡宇宙飛行士単独インタビュー
ニッポン放送 NEWS ONLINE / 2024年7月5日 8時0分
-
ワープ航法は重力波を出す? 「アルクビエレ・ドライブ」の解析で判明
sorae.jp / 2024年7月4日 21時4分
-
宇宙環境での持続可能なものづくりに一歩前進? ESAが ISS初の金属3Dプリンタの実験に成功
sorae.jp / 2024年7月4日 9時36分
ランキング
-
1妻への「別にいいけど」はケンカの火種でしかない 夏休みは「家庭内の不適切発言」を回避する機会
東洋経済オンライン / 2024年7月29日 8時0分
-
2「大谷翔平の新居バレ報道」は誰の責任なのか…アナウンサーに「謝罪係」を背負わせるテレビ局の特殊体質
プレジデントオンライン / 2024年7月25日 10時30分
-
3「1人で食事が常態化」現役世代の孤食という問題 コミュニティーディナーを始めた会社の意図
東洋経済オンライン / 2024年7月29日 14時0分
-
4トランプ氏がもし撃たれていたら? AR-15銃の恐怖の殺傷力(シェリーめぐみ)
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年7月29日 9時26分
-
5エンジンを冷やす「冷却水」は“水道水”で代用できる? 漏れ「放置」は絶対NG! 経年車で起こるトラブルとは
くるまのニュース / 2024年7月29日 14時50分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)