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水星の内部には厚さ10km超のダイヤモンドに富む層があるかもしれない

sorae.jp / 2024年8月31日 21時25分

太陽系の最も内側を公転する惑星「水星」には、表面に炭素が豊富にあることが分かっています。水星の内部にも豊富に炭素が含まれているという予測もありましたが、これまでは水星の内部で炭素がダイヤモンドの結晶となることはないと考えられていました。

北京高圧科学研究センターのYongjiang Xu氏などの研究チームは、実験と計算シミュレーションから、水星の内部構造を推定しました。その結果、水星のマントルと核の間には、厚さが約14.9~18.3kmに達する、ダイヤモンドに富んだ層がある可能性を示しました。これは、水星の内部ではダイヤモンドが結晶化しないという従来の考えを否定するとともに、水星の謎の1つである固有の磁場の生成にも関係しているかもしれないという点で興味深いです。

■水星の内部にダイヤモンドはある?

太陽系の最も内側を公転し、最も小さな惑星でもある「水星」は、いくつかの点で興味深い惑星です。惑星の主成分がケイ酸塩と金属鉄という組み合わせであることは、地球を始めとした他の岩石惑星と似ていますが、金属鉄でできた核の直径が大きいため、惑星自体の大きさに対する核の比率が高いと推定されています。また水星は弱いながらも観測可能な固有の磁場を持っています。これらは、水星が月より一回り大きい程度の直径・質量であることを考えると、説明の難しい性質です。

水星は、探査の難易度が高い惑星としても知られています。水星の公転軌道付近には強烈な放射と重力をもたらす太陽があること、その一方で水星自体の重力が弱く、探査機を送るのが困難なためです。これまでに接近観測に成功した探査機は、いずれもアメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げた「マリナー10号」(1973年)と「メッセンジャー」(2011年~2015年)のみです。

【▲ 図1: 水星の表面の物質の特徴を表した疑似カラー画像。青色が濃い部分は黒鉛のような黒っぽい物質が多い領域です。(Credit: NASA, Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory & Carnegie Institution of Washington)】【▲ 図1: 水星の表面の物質の特徴を表した疑似カラー画像。青色が濃い部分は黒鉛のような黒っぽい物質が多い領域です。(Credit: NASA, Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory & Carnegie Institution of Washington)】

特に、長期間観測を行ったメッセンジャーは、水星に関する興味深い観測データをもたらしました。その1つは、水星の表面に「黒鉛(グラファイト)」に分類される炭素の単体が豊富に含まれていることです。黒鉛は文字通り黒っぽい色をしているため、水星の表面が暗い理由にもなっていますが、何より大量に含まれていること自体が予想外でした。

黒鉛は密度が低く、化学的に安定な物質です。このため水星表面の黒鉛の由来は、水星の誕生時、全体が融けた状態であるマグマオーシャンの時代に浮き上がってきた炭素がそのまま残されたものではないか、と推定されています。黒鉛の存在量は地殻の1重量%未満という量であることから、炭素が全て地殻に浮き上がってきたわけではなく、現在でも大量にマントルに残されていると推定されています。

ただし、これまでの水星の内部構造に関する理解では、マントルと核の境目である「核マントル境界 (Core-Mantle Boundary)」でも、温度や圧力がダイヤモンドを生み出すための条件を満たさないと予測されてきました。このためマントルに含まれる炭素も、ダイヤモンドではなく黒鉛であると予測されてきました。

■水星内部の環境を実験とシミュレーションで探索

しかしXu氏らの研究チームは、従来の考えに疑問を示しています。ごく最近構築された水星の内部構造モデルは、従来よりも核マントル境界の温度や圧力が高いことを予測しています。また、水星内部に含まれる硫黄の量の見直しにより、マントルのすぐ下にある外核は、金属鉄が液体の状態を維持しているという推論もできるようになりました。

そこでXu氏らは、マントルや外核の環境を再現した実験と熱力学的シミュレーションを組み合わせ、水星の内部でダイヤモンドが結晶化するのかを調べました。実験では、試料を最大で70億Pa (大気圧の約7万倍) の圧力にかけ、2000℃前後の温度で解けるかどうかを調べたものが含まれます。

その結果、外核の硫黄含有量が11重量%であると仮定した場合、外核でダイヤモンドが結晶化することを示しました。ダイヤモンドの密度は液体の金属鉄である外核より低いため、ダイヤモンドは浮き上がり、固体の岩石で蓋をされた核マントル境界に溜まることになります。核マントル境界の圧力は約57億7000万Pa (大気圧の約5万7700倍) であると推定されましたが、これはダイヤモンドが安定して存在するのに十分な環境条件です。

また今回の研究では、誕生直後の水星において、マントル内で黒鉛からダイヤモンドが結晶化し、その後核マントル境界へと沈んだ可能性も同時に示されました。ただしXu氏らは、環境条件に関する不確実性が大きいため、外核の場合とは異なり、マントル内でダイヤモンドが結晶化した可能性は低いことを認めています。

■水星内部には分厚いダイヤモンドの層があるかもしれない 【▲ 図2: 今回の研究で示された水星内部でのダイヤモンドの結晶化モデル。(a) マグマオーシャンの内部でダイヤモンドが結晶化して沈降する可能性はありうるものの、低いと推定されました。 (b) 外核で結晶化したダイヤモンドが浮上し、核マントル境界で10kmを超える厚さの層(Late CMB diamond layer)を形成する可能性はあり得ます。(Credit: Yongjiang Xu, et al.)】【▲ 図2: 今回の研究で示された水星内部でのダイヤモンドの結晶化モデル。(a) マグマオーシャンの内部でダイヤモンドが結晶化して沈降する可能性はありうるものの、低いと推定されました。 (b) 外核で結晶化したダイヤモンドが浮上し、核マントル境界で10kmを超える厚さの層(Late CMB diamond layer)を形成する可能性はあり得ます。(Credit: Yongjiang Xu, et al.)】

Xu氏らは、数十億年かけて少しずつダイヤモンドが溜まっていくため、現在の核マントル境界には厚さ約14.9~18.3km (±10.6km) のダイヤモンドに富む層があると推定しています。このダイヤモンドの層は、水星の謎である固有の磁場の維持に影響を与えている可能性があります。ダイヤモンドは効率的に熱を伝える物質であるため、ただの岩石と比べて核からマントルへの熱輸送が良くなります。熱の輸送は外核の対流に、そして対流によって発生する磁場の生成にも影響を与えます。つまり分厚いダイヤモンド層は、水星の固有の磁場が現在でも維持されている理由になっている可能性があります。

今回の研究では仮定と不確実性が大きなウェイトを占めているため、水星に分厚いダイヤモンド層があるかどうかは検証が必要となります。しかし今回の研究手法は、水星以外の炭素に富んだ太陽系の惑星、さらには太陽系外惑星をモデル化するのに役に立つ可能性があります。

 

Source

Yongjiang Xu, et al. “A diamond-bearing core-mantle boundary on Mercury”. (Nature Communications) “A diamond-bearing core-mantle boundary on Mercury”. (北京高压科学研究中心) Matt Williams. “Mercury Could be Housing a Megafortune Worth of Diamonds!”. (Universe Today) Tejasri Gururaj. “Modeling study proposes a diamond layer at the core-mantle boundary on Mercury”. (Phys.org)

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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