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恐竜などを絶滅に導いた天体は「炭素に富んだ珍しい小惑星」の可能性が高い

sorae.jp / 2024年9月6日 21時33分

6600万年前の白亜紀末に起きた大量絶滅は、直径約10kmの天体が衝突したことが原因であるとする説が有力です。では、この天体はいったいどこからやってきたのでしょうか?

ケルン大学のMario Fischer-Gödde氏などの研究チームは、大量絶滅が起きた当時の堆積物に含まれる元素「ルテニウム」を調べたところ、衝突した天体の正体は木星より遠くで形成される、炭素に富んだ珍しい小惑星だった可能性が高いことが分かりました。地球に衝突する小惑星のうち、ごく普通の岩石で構成された小惑星が全体の約80%を占めていることを考えれば、白亜紀末の天体衝突はかなり珍しいケースであることが分かります。

白亜紀末に起きた大量絶滅の天体衝突説【▲ 図1: 白亜紀末に起きた大量絶滅は、天体衝突が主因または唯一の原因とする説が有力です。(Credit: Chase Stone)】 ■白亜紀末に起きた天体衝突

今から6600万年前の白亜紀末に、全動物種の約70%が絶滅する出来事が起きました。この大量絶滅は、恐竜が現在の鳥類となるごく一部の系統を残して絶滅したことでも知られています。その原因として、巨大な天体が衝突したとする「天体衝突説」は、大量絶滅の主因、または唯一の原因であるとする論調が主流です。

直径約10kmであると推定される天体は、現在のメキシコ、ユカタン半島に衝突し、「チクシュルーブ・クレーター」を形成しました。衝突によって大量に舞い上がった岩石の粉塵は地球全体を覆い、長期にわたる日光の遮断が発生し、光合成を基盤とする生態系が根底から破壊されたことが、様々な生物の絶滅原因であると考えられています。

【▲ 図2: K-Pg境界の一例(灰色の薄い層)。この薄い層には、周辺の時代と比べて高濃度の白金族元素が含まれています。(Credit: Wilson44691)】【▲ 図2: K-Pg境界の一例(灰色の薄い層)。この薄い層には、周辺の時代と比べて高濃度の白金族元素が含まれています。(Credit: Wilson44691)】

天体衝突が有力視されるのは、大量絶滅の時代に堆積した地層「K-Pg境界」を分析した結果です。ここには白金族元素が多く含まれています。白金(プラチナ)が高価な金属であることからも分かるように、白金族元素は地表では珍しいですが、地球外からやってくる天体には多く含まれています。

ただし、白亜紀末の大量絶滅の原因が天体衝突であることがほぼ確定した後においても、衝突した天体の正体については議論が続いていました。

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■ルテニウムの同位体比率から天体の正体を特定

Fischer-Gödde氏らの研究チームは、K-Pg境界に含まれる白金族元素の1つである「ルテニウム」の同位体比率を分析しました。原子の中には、同じ元素に分類されるものであっても、原子の重さが異なるものがあります。これが同位体です。原子の重さは化学反応の速度や蒸発・融解のしやすさにわずかながら影響を与えるため、同位体の比率が似ている物質は、同じような環境で物理的・化学的変化を受けたことが推測されます。つまり、同位体比率がどれくらい似ているかどうかで、物質の由来を推定することができます。

Fischer-Gödde氏らは、K-Pg境界に加え、3600万年前から4億7000万年前の間に起きた5回の天体衝突に由来する物質、そして35億~32億年前の極めて古い時代の衝突に由来する物質のルテニウム同位体比率を分析しました。

【▲ 図3: 炭素質コンドライト隕石の一例であるサッターズ・ミル隕石。今回の研究は、白亜紀末に衝突した天体もこのような岩石であった可能性が高いと主張しています。(Credit: Peter Jenniskens & Eric James)】【▲ 図3: 炭素質コンドライト隕石の一例であるサッターズ・ミル隕石。今回の研究は、白亜紀末に衝突した天体もこのような岩石であった可能性が高いと主張しています。(Credit: Peter Jenniskens & Eric James)】

その結果、K-Pg境界に含まれるルテニウムの同位体比率が最も似ている物質は、炭素が豊富に含まれる隕石「炭素質コンドライト」であることが分かりました。炭素質コンドライトはその名の通り炭素に富んでおり、有機物、水、粘土鉱物などが豊富に含まれていることを特徴としています。炭素質コンドライトを構成する成分は、太陽系の内側のような高温の環境では不安定なものが大量に含まれているため、低温の環境である木星より外側で形成したものであると考えられています。炭素質コンドライトとの類似性から、白亜紀末に衝突した天体は、炭素に富む小惑星である可能性が高いことを今回の研究は示しています。

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一方で、比較で分析された他の5回の天体衝突は、ケイ酸塩に富むごく普通の岩石でできた小惑星に由来することが分かりました。これらは火星と木星の間にある小惑星帯に由来すると考えられています。

なお、炭素に富む天体としては他に彗星が挙げられます。衝突した天体が彗星であるとする説は、全体から見れば少数派ながら一部で根強く唱えられていました。しかし今回の研究で示されたルテニウムの同位体比率は、彗星とは全く似ていないことが分かりました。今回の研究結果は、あくまでも小惑星説を支持しており、彗星説を否定しています。

■かなり珍しいタイプの天体衝突だった

現在の地球で見つかる隕石の破片は、その約80%が木星より内側にある、ごく普通の岩石でできた小惑星に由来すると考えられています。白亜紀末の大量絶滅の原因となった天体衝突が、炭素に富む小惑星が原因であるならば、衝突の規模だけでなく天体の種類の面でも、かなり珍しい天体衝突が起きたことになります。

なお、炭素に富む小惑星は、誕生したばかりの地球に、生命の素となる有機物を供給したのではないかとする説があります。これは筆者の私見ですが、かつての地球に生命を生み出す源を与えたかもしれないタイプの小惑星が、今度は多くの生命を滅ぼしたというのは、どこか皮肉を感じます。一方で、恐竜のごく一部は生き残って鳥類へと進化し、爬虫類の代わりに哺乳類が台頭したように、単に生命を滅ぼしただけでなく、その進化を永久に変えた出来事であることも間違いないでしょう。

 

Source

Mario Fischer-Gödde, et al. “Ruthenium isotopes show the Chicxulub impactor was a carbonaceous-type asteroid”. (Science) Mario Fischer-Gödde & Carsten Münker. “Tracking down the asteroid that sealed the fate of the dinosaurs”. (University of Cologne) Paul Scott Anderson. “Dinosaur-killing asteroid came from beyond Jupiter”. (EarthSky)

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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