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約4億6600万年前の地球に「環」があった可能性 史上2番目の大量絶滅の原因?

sorae.jp / 2024年9月24日 21時20分

太陽系のいくつかの天体は「環」を持っています。また、現在は消えているものの、過去には環を持っていたと推定される天体もいくつかあります。では、私たちが住む「地球」には、現在では消えてしまった環があったことはあるのでしょうか?

モナシュ大学のAndrew G. Tomkins氏、Erin L. Martin氏、Peter A. Cawood氏の研究チームは、「オルドビス紀」の中期から約4000万年の間に形成された21個のクレーターの分布が赤道付近に偏っていることから、今から約4億6600万年前の地球には環があったのではないかとする推定を発表しました。

また3氏は、当時の地球で起きた大規模な気候変動の原因は、環の影響による日射量の変化であるとも推定しています。オルドビス紀には気候変動に伴う生物の多様化と、その末期に地球史上2番目に大規模な大量絶滅が起きたと考えられています。生物の進化と絶滅に、環の影響があるかもしれないという示唆は興味深い結論です。

図1: アーティストの印象による、過去の地球に存在した環の想像図。【▲ 図1: アーティストの印象による、過去の地球に存在した環の想像図。(Credit: Oliver Hull)】 ■過去の地球は環を持っていたのか?

1610年にガリレオ・ガリレイが「土星」の環を発見して以来(※1)、私たちは太陽系のいくつかの天体で「環」を発見しています。中には、直径が約250kmしかない小惑星「カリクロー」のような小さな天体にも現役の環が見つかっています(※2)。また、「火星」や土星の衛星「イアペトゥス」などのように、現在では環を持っていないものの、過去に環を持っていた可能性があるとされる天体も見つかっています。

さらに、土星の立派な環も過去4億年以内に形成された可能性があるなど、46億年の太陽系の歴史の中では、環の存続期間は意外と短いのではないかとする研究もあります。このような背景事情を考慮すれば、私たちが住む「地球」に、たとえ過去の一時だったとしても、環が存在したとしても不思議ではありません。

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Tomkins氏ら、モナシュ大学の3氏の研究チームは、地球に環が存在した時期の有力候補として「オルドビス紀」(4億8540万~4億4380万年前)の中期にあたる約4億6600万年前を挙げました。この時代から約4000万年の間、地層には隕石の破片や津波堆積物など、天体衝突の痕跡が世界中で見つかる「オルドビス紀衝突スパイク(Ordovician impact spike)」があることが知られています。これは、この後の4000万年の間に形成されたとされる、いくつものクレーターによって裏付けられています。

通常、このような天体衝突の急増は、小惑星帯から多数の天体が軌道を外れ、短期間に集中して衝突したものと考えられます。しかしこの場合、月や火星には、同じ時代に同様の天体衝突の急増が見つかっていないことが大きな謎でした。月や火星は、太陽系のスケールで言えばすぐ隣にあると言えるほど近いため、多数の天体が短期間に集中して太陽系の内側に侵入したならば、地球と同様に天体衝突が多発したはずであり、この矛盾は気になる所です。

地球に接近した天体が1個程度しかない場合でも、多数のクレーターを形成する可能性はあります。ある程度の大きさを持つ天体は、地球の近くにある「ロシュ限界(ロッシュ限界)」に入ると、潮汐力によって引き裂かれます(※3)。バラバラになった天体はあちこちに落下するため、多数の天体衝突が起きたように見えるでしょう。しかし、このように砕かれた破片が衝突する期間は、通常はかなりの短期間に留まります(※4)。衝突期間が4000万年という長期に渡るというのは考えにくいことです(※5)。

3氏はこれらの問題を解決するために、この時代に存在した環の存在を検討しました。もし、天体の接近する向きがうまく行けば、ロシュ限界で砕けたとしても、砕けた破片が地球を周回する環となります。環を構成する天体はすぐには落下しないため、4000万年という期間をかけて落下することも考えられます。

■赤道付近に集中するクレーターは環の証拠な可能性がある 図2: 今回分析の対象となった21個のクレーターの位置を、当時の大陸の配置を考慮して示した地図。様々なクレーターの位置は緯度にして赤道から30度の範囲内に収まっていることが分かります。【▲ 図2: 今回分析の対象となった21個のクレーターの位置を、当時の大陸の配置を考慮して示した地図。様々なクレーターの位置は緯度にして赤道から30度の範囲内に収まっていることが分かります。(Credit: Andrew G. Tomkins, Erin L. Martin & Peter A. Cawood)】

3氏は、クレーターの分布が、環が存在した証拠になるのではないかと考え、研究を行いました。力学的な性質から、環は赤道付近に存在します。環から少しずつ天体が落下して地表に衝突した場合、クレーターは赤道付近に集中するはずです。通常、天体が地球に衝突する地点にはほぼ偏りがないと考えられているため、赤道に集中することはないはずです。

3氏は、オルドビス紀衝突スパイクの頃に形成されたと考えられる数十のクレーターのうち、浸食や地殻変動などの影響が比較的少なく、年代がはっきりしている21個のクレーターについて、大陸移動を考慮したオルドビス紀当時の分布を調べました。その結果、ほとんどのクレーターが緯度にして赤道から30度の範囲内に収まり、最も離れている物でも南緯39度にあることが分かりました。

小惑星帯からやってきた別々の天体による衝突が、今回のように赤道付近に集中する偶然が起こる確率は約2500万分の1以下であると推定されます。この時代の地層から見つかる隕石の破片の成分はほぼ1種類の組成に限定されることも考えると、オルドビス紀衝突スパイクは別々の天体衝突ではなく、1つの天体がロシュ限界に達して砕かれ、一時的に環となったものが落下した可能性があると3氏は考えています。

今回の研究では、地球は約4億6600万年前から4000万年間、地表から1万5800km未満の高さにある環を持っていたことを示唆します。環の素となった天体は、隙間のない塊の天体の場合は直径10.5km以上、隙間の多いラブルパイル天体の場合は直径12.5km以上の大きさがあったと推定されます。

なお後述する通り、この時代には大規模な寒冷化が起こり、赤道付近まで氷床が発達していたと考えられています。氷床は融けてなくなってしまうため、氷床への天体衝突は後の時代に痕跡を残さない可能性もあります。しかし3氏は、氷床が発達する前の時代に形成されたクレーターもあること、氷床が発達していた可能性のある地域のクレーターもよく保存されていることを考えると、氷床はクレーターの形成にあまり影響を及ぼさなかったと考えています。

■環は生物の多様化と大量絶滅を招いた?

3氏は、もし地球に環があれば、地球の気候にも影響を与えたかもしれないと考えています。環は日光を反射し、影を落とすため、夏側では日射量が増え、冬側では日射量が抑えられます。また、環から外れた天体は落下・衝突し、塵を大気中にまき散らします。これらを総合的に見ると、地球は全体として寒冷化に向かうと考えられます。

オルドビス紀には、平均気温が約8℃も下がる、地球の歴史上最大級の寒冷化イベント「ヒルナンシアン氷期」が起きたとされています。しかし、当時の大気中の二酸化炭素濃度は高かったと考えられており、温暖化の条件が揃っている中での寒冷化は大きな謎でした。環が日光を遮ったことが寒冷化の要因ならば、二酸化炭素濃度の矛盾にも説明が付きます。そして環が4000万年かけて消滅し、日光の遮断が無くなれば、地球は温暖化します。環の消滅と温暖化の時期は重なるため、これについても説明が付きます。

オルドビス紀には、顕著な生物多様性の増加や、植物の陸上進出に加え、その末期には海洋生物種の85%が絶滅する、過去2番目の規模の大量絶滅が起きたと考えられています。これらはいずれも、急激な気候変動が生物の適応を促し、あるいは適応できなかった生物の絶滅を招いたと考えることができます。今回の研究は、オルドビス紀末の大量絶滅の原因は地球の環であることを示唆しています。3氏は、気候への影響をもっと詳細に調べることで、今回示された可能性が妥当かどうかを検証できると考えています。

ところで、このような地球の環は他の時代にもあったのでしょうか? 環を形成するには、天体がロシュ限界に入るだけでなく、地球が一時的な衛星として捕獲できるように、特定の速度と角度で天体が入り込む必要があります。このような条件を満たす可能性は非常に低いため(※6)、地球の環はかなり珍しいと考えられます。3氏は、5億3880万年前から現在まで(生物の大型化と多様化が進んだ顕生代に当たる期間)において、同規模の地球の環はオルドビス紀の1回しか発生しなかったと考えています。

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■注釈

※1…ただしガリレオの望遠鏡の性能では環であると認識できず、1つの星の両脇に2つの星が耳のようにくっついていると表現していました。土星の耳が実際には環であると報告したのは、より精度の高い望遠鏡で土星を観測した1655年クリスティアーン・ホイヘンスです。

※2…直径約117kmの小惑星および彗星「キロン」も環を持つとされていますが、他の小惑星の環と比べて発見が不確実です。

※3…ある天体が、別の天体から重力を受ける時、天体に近い側が遠い側と比べてより強い重力を受けることになります。この力の差によって発生する「潮汐力」は天体を変形させます。天体自身が形を保てないほど潮汐力が強くなり、バラバラに引き裂かれてしまう領域を「ロシュ限界」と呼びます。

※4…例えば1994年に木星へ衝突した「シューメーカ・レヴィ第9彗星」は、分裂した全ての破片が衝突するまでに6日間しかかかりませんでした。

※5…この4000万年という数値には多少の議論の余地があるとされていますが、いずれにしても極端に短い期間に短縮される可能性はありません。

※6…ロシュ限界に入るかどうかに関わらず、地球の重力圏(ヒル球)の中に天体が入り込み、一時的な衛星として捕獲する確率は、1km以上の天体では1000万年に1回程度と推定されてます。今回の研究で推定された天体の直径は10km以上であることを考えれば、ロシュ限界に入り込む天体の数は非常に少ないことが予測されます。

 

Source

Andrew G. Tomkins, Erin L. Martin & Peter A. Cawood. “Evidence suggesting that earth had a ring in the Ordovician”.(Earth and Planetary Science Letters) Silvia Dropulich. “Earth may have had a ring system 466 million years ago”.(Monash University)

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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