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楕円銀河M87のジェット周辺では新星が多く発生 ハッブル宇宙望遠鏡の観測データを分析

sorae.jp / 2024年9月29日 21時21分

アメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)は2024年9月26日付で、同研究所が運用する「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」の観測データをもとに、楕円銀河「M87」で検出された新星(古典新星)は銀河の中心から噴出するジェットの周辺で多く発生していたことが明らかになったとする研究成果を紹介しています。

楕円銀河「M87」の銀河中心核から噴出するジェットと、その付近にある白色矮星と恒星の連星を描いた想像図【▲ 楕円銀河「M87」の銀河中心核から噴出するジェットと、その付近にある白色矮星と恒星の連星を描いた想像図(Credit: NASA, ESA, J. Olmsted (STScI))】 楕円銀河「M87」のブラックホール

M87は「おとめ座(乙女座)」の方向約5500万光年先にある楕円銀河です。中心には質量が太陽約65億個分もある超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)があり、2019年4月に国際研究グループ「イベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope: EHT)」が電波で観測したブラックホール周辺の画像を公開したことで注目を集めました。オレンジ色に着色されたリング状の像を見たことがある人も多いのではないでしょうか。

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そんなM87の中心からは、長さ数千光年のジェットが噴出していることが知られています。ブラックホールに落下するガスは真っ直ぐ進むのではなく、らせんを描きながらブラックホールに近付いていき、その過程で降着円盤と呼ばれる構造を形成します。こうしたガスの一部はブラックホールに落下せず、両極方向へ高速で放出されることでジェットを形成していると考えられています。

ハッブル宇宙望遠鏡(HST)で撮影された楕円銀河「M87」。中心からはジェットが噴出している【▲ ハッブル宇宙望遠鏡(HST)で撮影された楕円銀河「M87」。中心からはジェットが噴出している(Credit: NASA, ESA, A. Lessing (Stanford University), E. Baltz (Stanford University), M. Shara (AMNH), J. DePasquale (STScI))】 2019円4月にイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)が画像を公開した楕円銀河「M87」中心の超大質量ブラックホール周辺の構造【▲ 2019円4月にイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)が画像を公開した楕円銀河「M87」中心の超大質量ブラックホール周辺の構造(Credit: EHT Collaboration)】 ジェットの周辺は新生が多い?

今回、スタンフォード大学のAlec Lessingさんを筆頭とする研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡を使用した2回の観測を通じてM87で発見された合計135個の新星の位置を調べました。その結果、新星はジェットの周辺でより多く発生していたことが明らかになりました。STScIによると、ジェットの周辺では銀河の他の場所と比べて新星が2倍見つかっていることから、ジェットの周辺には新星を起こす連星が他の場所と比べて2倍存在するか、あるいはジェットの周辺では他の場所よりも2倍の頻度で新星が起きていることが示唆されるといいます。

新星とは白色矮星と恒星の連星で起こる爆発現象のことで、恒星から流れ出て白色矮星の表面に降り積もったガスが暴走的な熱核反応に至ることで発生すると考えられています。爆発は白色矮星に再びガスが降り積もることで繰り返されることがあり、同じ連星で繰り返し観測された場合は再帰新星や回帰新星と呼ばれます。なお、ガスが降り積もり続けて白色矮星の質量が一定の値(太陽の約1.4倍)を超えると、超新星の一種である「Ia型超新星」が起こると考えられています。

ハッブル宇宙望遠鏡(HST)による2回の観測(水色、ピンク色)で検出された新星の位置を×印で示した図。付随する◯印はピーク時の明るさ(ピークが観測されたなかったものは省略)を表している【▲ ハッブル宇宙望遠鏡(HST)による2回の観測(水色、ピンク色)で検出された新星の位置を×印で示した図。付随する◯印はピーク時の明るさ(ピークが観測されたなかったものは省略)を表している(Credit: Lessing et al.)】

STScIによれば、1兆個もの星が集まっているM87では毎日どこかで1回は新星が発生しているといいますが、ジェットの周辺でより頻繁に新星が起こる理由はまだわかっていません。

ジェットと星の爆発現象の関連性は以前から研究されていて、新星がジェットの周辺に集中しているのは「ジェットがもたらす何らかの影響によって、恒星から流れ出るガスの量が増えているから」あるいは「ジェットが星形成活動を促進することで、新星を起こすような連星を含む星の密度がジェット周辺で高くなっているから」といった仮説が提唱されていました。しかし、分析を行ったLessingさんたちは、この2つの仮説ではM87におけるジェット周辺の新星の多さを説明できないと結論付けています。研究チームはその理由として、M87のジェットから放射される電磁波は恒星を加熱し膨張させてガスの流出を促進するには弱いこと、またM87の反対側のジェット周辺では新星の増加が確認されていないことなどを挙げています。

Lessingさんは「何が起こっているのかはわかりませんが、とてもエキサイティングな発見です」「これは、ブラックホールが噴出させるジェットと周囲の相互作用に関する私たちの理解に、何かが欠けていることを示しています」とコメントしています。M87のジェット周辺では一体何が起きているのか、今後の研究にも注目です。研究チームの成果をまとめた論文はThe Astrophysical Journalに掲載が承認されており、arXivでプレプリントが公開されています。

 

Source

STScI - NASA's Hubble Finds that a Black Hole Beam Promotes Stellar Eruptions NASA - NASA's Hubble Finds that a Black Hole Beam Promotes Stellar Eruptions ESA/Hubble - Hubble finds that a black hole beam promotes stellar eruptions Lessing et al. - A 9-Month Hubble Space Telescope Near-UV Survey of M87. II. A Strongly Enhanced Nova Rate near the Jet of M87 (arXiv)

文・編集/sorae編集部

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