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COVID-19は月の夜の表面温度を下げた ロックダウンによる地球の環境変化の影響

sorae.jp / 2024年10月15日 21時29分

「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)」の世界的な流行では、感染の急激な拡大を防止するためのロックダウンが実施され、人々の移動や経済・産業活動がかつてないほど制限されました。その影響は、地球全体の環境が変化するという形でも現れています。そして今回、インド物理学研究所(Physical Research Laboratory)のK. Durga Prasad氏とG. Ambily氏の研究チームは、この影響は地球の衛星「月」にも及んでいることを発見しました。

Prasad氏とAmbily氏は、世界のほとんどの地域でロックダウンが行われていた2020年4月から5月にかけて、月の夜間の地表面温度が8~10℃低下していたことを発見しました。これは、地球大気の温室効果ガスやエアロゾルの減少により、地球からの放射の量が減ったためであると両氏は考えています。

この研究結果は、月の表面温度は、地球自身よりも地球の環境変化の影響を受けやすいことを示し、地球環境の変化を月で観測する潜在的なツールになり得ることを示唆しています。

夜間の月には、地球からの光が届く「地球照」が発生しています。今回、地球からの光の量が減少し、月の夜間の表面温度に影響を与えていることが分かりました。【▲ 図1: 夜間の月には、地球からの光が届く「地球照」が発生しています。今回、地球からの光の量が減少し、月の夜間の表面温度に影響を与えていることが分かりました。(Credit: Stephen Rahn)】 「COVID-19」によるロックダウンは地球環境にも影響を与えた

2019年末に中国で発見されたSARS-CoV-2による「COVID-19」は、感染が全世界へと拡大するパンデミックへと発展しました。有効なワクチンも治療薬もない中、多くの国や地域では感染の拡大スピードを少しでも遅くするため、人々の移動を制限するロックダウンが実施されました。

渡航制限、夜間外出禁止令、ソーシャルディスタンスの確保など、その内容や強制力は地域によって様々ですが、いずれにしてもその制限は、経済活動や産業活動をかつてないほど低下させました。ロックダウンの功罪はあまりにも多岐に渡りますが、ユニークなものとしてはロックダウン中の地球環境の変化が挙げられます。

人々の移動や経済・産業活動の低下によって、自動車や工場などの稼働率が減少し、ひいては温室効果ガスやエアロゾルの排出量も低下しました。これは地球環境に直接的な変化をもたらします。温室効果ガスは太陽光に含まれる赤外線を吸収し、そのエネルギーの一部を長波長の光で宇宙へと放出します。一方でエアロゾルは、太陽光の短波長の光を反射します。そして、厳しいロックダウンが敷かれていた時期での計測データを元にした研究では、温室効果ガスやエアロゾルの排出量が測定可能な値で減少したことが世界中で示されています。

月の夜間温度にも影響があることが判明

ところで、地球大気で直接反射した太陽光や、一度吸収された後に一部が再放出した光は、宇宙空間へと逃げ出します。もし逃げ出した方向に月があれば、月の表面に光が到達します。日光が直接当たっていない月の影の部分がうっすらと見える「地球照」が起こるのは、地球からの光が月に届いていることの証拠です。

Prasad氏とAmbily氏の研究チームは、地球から月へと届く光の量に注目しました。月には大気が無く、自転速度も遅いため、表面に届く光の量の変化は、地球以上に激しい表面温度(地表面温度)の変化をもたらします。地球では、どんなに極端な場所でも昼夜の温度差は数十℃に留まるのに対し、月の昼間の表面温度が120℃、夜間の表面温度がマイナス170℃と300℃近い変化を起こすのはこのためです。

月の昼間には、太陽光が直接降り注ぎ、また地面の熱が他の場所へと移動するため、地球からの放射はかなり小さな影響に留まります。しかし夜間は、地球からの放射が唯一の放射源となるため、地球からの放射量が変化すれば、月の夜間の温度もまた変化することは十分に考えられます。

Prasad氏とAmbily氏は、アメリカ航空宇宙局(NASA)の月探査機「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」が計測した地表熱放射測定装置「DLRE(Diviner Lunar Radiometer Experiment)」のデータを分析し、この予測を検証しました。LROは月面の同じ地点を1年に24回程度測定します。両氏は2017年1月から2023年2月までの計測データを元に、地形や緯度などの影響で生じるノイズが最小限と思われる6か所の表面温度を分析しました。

図2: 2017年1月から2023年2月までの、月面の6か所の夜間の表面温度の変化。全世界的にロックダウンが行われた2020年4月から5月は、前後の期間と比べて明らかに表面温度が低下しています。【▲ 図2: 2017年1月から2023年2月までの、月面の6か所の夜間の表面温度の変化。全世界的にロックダウンが行われた2020年4月から5月は、前後の期間と比べて明らかに表面温度が低下しています。(Credit: K. Durga Prasad & G. Ambily)】

その結果、世界のほとんどの地域でロックダウンが行われていた2020年4月から5月にかけて、月の夜間の地表面温度が8~10℃低下していたことが分かりました。月の季節変化や太陽活動の変化は、これほどの温度の低下の原因になることは考えにくいため、両氏は表面温度の低下は地球からの放射量の減少にあると考えています。

月面は地球環境を測定するツールになる?

月の夜間の表面温度は、地球からの放射量の変化に敏感であり、少しの変化でも影響があることは予測されていましたが、ここまで顕著な変化を起こすことは今回初めて示されました。これは大気のない月だからこそ起きる現象であると言えます。

Prasad氏とAmbily氏は、地球環境の変化による温度変化は、地球自身よりも月の方が敏感に計測できることから、地球環境の変化を測定するためのツールとして月面が利用できるのではないかと、その潜在的な価値に注目しています。

 

Source

K. Durga Prasad & G. Ambily. “Effect of COVID-19 global lockdown on our Moon”.(Monthly Notices of the Royal Astronomical Society: Letters)

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

最終更新日:2024-10-15

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