一等星「ベガ」のデブリ円盤は驚くほど滑らか。ウェッブとハッブルが観測
sorae.jp / 2024年11月7日 20時59分
こちらは織姫星として有名な「こと座(琴座)」の一等星「ベガ(Vega)」の周辺。右は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」、左は「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」が取得したデータを使って作成されました。アメリカ航空宇宙局(NASA)は、ベガを取り巻くデブリ円盤(※)がここまで詳細に観測されたことはなく、その様子は驚くほど“なめらか”だと紹介しています。
※…岩石と氷の破片や塵(ダスト)でできた星の周囲の円盤。
【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の中間赤外線観測装置(MIRI、右)とハッブル宇宙望遠鏡(HST)の宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS、左)で観測されたベガのデブリ円盤(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, S. Wolff (University of Arizona), K. Su (University of Arizona), A. Gáspár (University of Arizona))】NASAによると、ウェッブ宇宙望遠鏡の「中間赤外線観測装置(MIRI)」は砂粒ほどの大きさがある温かな塵から放射された赤外線を、ハッブル宇宙望遠鏡の「宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)」は円盤の周辺部に分布する煙の粒子ほどの細かな塵が反射した光をそれぞれ捉えています。ちなみに画像の中央にはどことなく目を連想させる黒い丸がありますが、ウェッブ宇宙望遠鏡のほうはサチュレーション(輝度の飽和)によるもの、ハッブル宇宙望遠鏡のほうは星の光を遮るコロナグラフによって生じたものです。
詳細に観測されたベガのデブリ円盤はとてもなめらか注目はウェッブ宇宙望遠鏡の画像です。ベガから約60天文単位離れた場所、太陽から海王星までの距離(約30天文単位)の2倍ほどのところにうっすらと隙間(ギャップ)があるように見えますが、それ以外の部分は非常になめらか。MIRIによるベガの観測データを分析した研究チームに参加したアリゾナ大学のAndras Gáspárさんは「他の星周円盤(星を取り囲む円盤構造)とは異なり、謎に満ちたシステムです」「ベガの円盤は非常に滑らかで驚くほど整っています」とコメントしています。
ベガはこれまでにもNASAの「スピッツァー(Spitzer)」や欧州宇宙機関(ESA)の「ハーシェル(Herschel)」といった赤外線宇宙望遠鏡、チリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」でも観測されていますが、NASAによればベガのデブリ円盤がここまで詳細に観測されたことは前例がないといいます。
【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の中間赤外線観測装置(MIRI)で観測されたベガのデブリ円盤(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, S. Wolff (University of Arizona), K. Su (University of Arizona), A. Gáspár (University of Arizona))】 【▲ ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)で観測されたベガのデブリ円盤(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, S. Wolff (University of Arizona), K. Su (University of Arizona), A. Gáspár (University of Arizona))】 ベガの周辺には木星や土星のような巨大惑星は存在しないかも?ウェッブ宇宙望遠鏡のMIRIは誕生から4億5000万年ほど経ったとされるベガに年齢や温度が近い「みなみのうお座(南魚座)」の一等星「フォーマルハウト(Fomalhaut)」も観測しており、Gáspárさんを筆頭とする研究チームが2023年に研究成果を発表しました。フォーマルハウトは2つの隙間が生じた複雑なデブリ円盤を持っており、ベガのデブリ円盤とは対照的です。
【▲ 参考画像:ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の中間赤外線観測装置(MIRI)で観測されたフォーマルハウトのデブリ円盤(Credit: NASA, ESA, CSA, A. Pagan (STScI), A. Gáspár (University of Arizona))】 フォーマルハウトを囲むデブリ円盤の全体像 ウェッブ宇宙望遠鏡の観測で明らかに(2023年5月10日)フォーマルハウトの場合、惑星の重力によって塵がリング状にまとめ上げられたことで、デブリ円盤に隙間が生じているのではないかと考えられています(ただし、その役割を果たしていると予想される惑星はまだ見つかっていません)。一方、MIRIによるベガの観測データを分析した研究チームは、デブリ円盤に顕著な隙間が見られないベガの場合は、星から10天文単位以上離れたところに土星程度の質量を持つ惑星は存在しないことが示されていると述べています。つまり、なめらかなデブリ円盤を持つベガの周辺には、木星や土星のように巨大な惑星は存在しない可能性があるというわけです。
研究チームの筆頭著者であるアリゾナ大学のKate Suさんは「私たちは星周円盤にどれほどの多様性があるのか、その背後にある惑星系とどれほど関連性があるのかを詳しく調べており、隠れた惑星が見えなくても惑星系について多くの情報が得られています」「惑星形成のプロセスには未知の要素がまだ多くあり、新しいベガの観測は惑星形成モデルを制約する上で助けになると考えています」とコメントしています。
ハッブル宇宙望遠鏡とウェッブ宇宙望遠鏡によるベガの観測データを分析したアリゾナ大学の2つの研究チームの論文はThe Astrophysical Journalに掲載される予定で、arXivでプレプリントが公開されています。古くから親しまれた星であり、ある程度の街明かりがあっても見えるベガ。そんな星にもまだまだ知らないことがあったのだと思うと、夜空を見上げるのがちょっと楽しくなってきませんか?
Source
NASA - NASA's Hubble, Webb Probe Surprisingly Smooth Disk Around Vega Wolff et al. - Deep Search for a scattered light dust halo around Vega with the Hubble Space Telescope (arXiv) Su et al. - Imaging of the Vega Debris System using JWST/MIRI (arXiv)文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
#ベガ #ハッブル宇宙望遠鏡 #ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡
最終更新日:2024/11/07
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