火星の衛星は崩壊した小惑星の破片から形成された? 新たな研究が示唆
sorae.jp / 2024年11月22日 21時7分
アメリカ航空宇宙局(NASA)は2024年11月20日付で、火星の衛星フォボスとダイモスの起源に関する新たな仮説を提唱したNASAエイムズ研究センターのJacob Kegerreisさんを筆頭とする研究チームの取り組みを紹介しています。研究チームの成果をまとめた論文はIcarusに掲載されています。
フォボスとダイモスはどうやって形成されたのか? 【▲ 火星の衛星フォボス。アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「MRO(マーズ・リコネサンス・オービター)」の高解像度カメラ「HiRISE」で撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)】 【▲ 火星の衛星ダイモス。アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「MRO(マーズ・リコネサンス・オービター)」の高解像度カメラ「HiRISE」で撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)】一見すると小惑星のように見えるフォボスとダイモス、その起源を巡っては「捕獲説」および「巨大衝突説」という2つの仮説が提唱されています。捕獲説は「火星に接近した小惑星が火星の重力で捕獲されて衛星になった」とする説で、巨大衝突説は「古代の火星に別の天体が衝突した時に生じた破片から形成された」とする説です。
火星のすぐ外側に小惑星帯があることは捕獲説を後押ししますが、フォボスとダイモスの軌道はどちらも火星の赤道に対してほとんど傾いておらず、軌道の形も真円に近いため、捕獲後に軌道を整えた何らかのメカニズムが必要になります。一方、衝突で生じた破片が火星の周囲に形成した円盤からフォボスとダイモスが誕生したと考える巨大衝突説は衛星の軌道の特徴を説明できますが、ダイモスが予想される円盤の範囲よりも遠くを公転している理由などを説明する必要があります。
このように、フォボスとダイモスの起源を巡る2つの仮説には、それぞれ強みと課題があります。また、近年では捕獲説と巨大衝突説の他にも、内側の衛星(現在のフォボス)が崩壊と形成を繰り返しているとする説や、1つの衛星が2つに分裂したとする説も提唱されています。
火星の衛星「フォボス」と「ダイモス」が過去に1つの衛星だった可能性は低いと判明(2022年9月14日) 火星の衛星フォボスとダイモスは1つの原始月が破壊されてできた?(2021年5月22日) 火星の過去と未来の環。衛星は崩壊と再生を繰り返している?(2020年6月4日) 火星に接近・崩壊した小惑星が起源となった可能性を提唱【▲ Kegerreisさんたちの研究成果を紹介した動画(英語)】
(Credit: NASA/Jacob Kegerreis)
今回Kegerreisさんたちが提唱したのは、捕獲説と巨大衝突説のハイブリッドと言えそうな仮説です。小惑星のサイズ・自転・移動速度・火星最接近時の距離といった条件を変えた何百通りものシミュレーションを行った研究チームは、以下のようなシナリオに辿り着きました。
まず、火星にたまたま接近した小惑星がロッシュ限界(ロシュ限界※)の内側に入ってしまい、バラバラに崩壊します。崩壊で生じた破片の一部はそのまま火星の重力から逃れていきますが、残りは捕獲されて火星を周回するようになります。
※…ある天体に接近した別の天体が潮汐力によって破壊されてしまう限界の距離のこと。両天体の密度や潮汐力をもたらす天体のサイズによって距離が異なる。
破片の軌道は太陽と火星の重力による作用で徐々に変化していき、軌道が交差した破片どうしの衝突が繰り返されるようになります。やがて火星の周囲には無数の破片からなる円盤が形成され、そこからフォボスとダイモスが誕生した、というのです。
【▲ 最初に、火星に接近した小惑星がロッシュ限界の内側に入って崩壊する。Kegerreisさんたちの研究成果を紹介した動画から引用(Credit: NASA/Jacob Kegerreis)】 【▲ 小惑星の崩壊で生じた破片は一部が火星を離れ、残りは火星を周回するようになる。Kegerreisさんたちの研究成果を紹介した動画から引用(Credit: NASA/Jacob Kegerreis)】 【▲ 破片の軌道は太陽と火星の重力による影響を受けて複雑に変化していく。Kegerreisさんたちの研究成果を紹介した動画から引用(Credit: NASA/Jacob Kegerreis)】 【▲ 軌道が交差した破片どうしの衝突が繰り返されていく。Kegerreisさんたちの研究成果を紹介した動画から引用(Credit: NASA/Jacob Kegerreis)】 【▲ やがて火星の周囲では無数の破片が円盤を形成し、ここからフォボスとダイモスが形成されていく。Kegerreisさんたちの研究成果を紹介した動画から引用(Credit: NASA/Jacob Kegerreis)】捕獲された小惑星がそのまま衛星になったのではなく、また火星で巨大衝突が起きたと仮定するわけでもなく、接近した小惑星が崩壊して生じた破片からフォボスとダイモスが形成されたとするこの仮説。想定される天体は巨大衝突説よりもずっと小さな小惑星でも成立し、火星から離れた場所まで衛星の材料となる物質を十分に供給できると研究チームは述べています。
JAXAのミッション「MMX」で採取されるフォボスのサンプルに期待研究チームはこの仮説を検証するために、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の火星衛星探査計画「MMX(Martian Moons eXploration)」に期待を寄せています。MMXはフォボスに着陸して採取したサンプルを世界で初めて地球に持ち帰ることを目指すミッションで、JAXAは2026年を目標に探査機の打ち上げを予定しています。
【▲ フォボスに着陸した火星衛星探査計画「MMX」探査機の想像図(Credit: JAXA)】2024年11月21日にはMMX探査機に搭載されるサンプリング装置のフライトモデルが完成したことをJAXAが発表しています。また、MMX探査機には11の科学ミッション機器の1つとしてNASAとのパートナーシップにもとづいて開発されたガンマ線・中性子線分光装置「MEGANE(Mars-moon Exploration with GAmma rays and NEutrons)」が搭載され、化学元素の特定と採取場所の選定を支援します。
もしも捕獲説や今回提唱された仮説が正しければ、フォボスの組成は外から飛来した小惑星の組成を引き継いでいるはずです。一方、巨大衝突説が正しければ、フォボスは衝突した天体と火星に由来する物質が混ざり合ったような組成をしていると予想されます。MMX探査機が採取するフォボスのサンプルは、火星の衛星の起源を理解するための手がかりを与えてくれるはずです。
【▲ 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の火星衛星探査計画「MMX」探査機のサンプリング装置を構成するロボットアーム「C-SMP」のフライトモデル(Credit: JAXA)】 JAXA火星衛星探査計画「MMX」の探査機に搭載されるローバー「IDEFIX」が日本に到着(2024年3月30日) JAXAの火星衛星探査計画「MMX」、サンプル採取の目標がフォボスに決定(2020年2月23日)
Source
NASA - Making Mars' Moons: Supercomputers Offer ‘Disruptive’ New Explanation Kegerreis et al. - Origin of Mars’s moons by disruptive partial capture of an asteroid (Icarus, arXiv) JAXA - MMX - Martian Moons eXploration文・編集/sorae編集部
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