その正体は? 南米の望遠鏡が捉えた“ちょうこくしつ座”の淡い天体
sorae.jp / 2025年1月20日 21時8分
こちらは「ちょうこくしつ座(彫刻室座)」で見つかった、ある天体の画像。明るい天の川銀河の星や遠方の銀河の数々が輝く視野の中央、まるで小さな薄い雲のように写っているのがその天体です。宇宙には恒星、惑星、銀河、星雲といった様々な種類の天体が存在しますが、この天体の正体は何なのか、わかりますか?
【▲ ちょうこくしつ座で見つかった「Sculptor A(ちょうこくしつ座A)」(Credit: DECaLS/DESI Legacy Imaging Surveys/LBNL/DOE & KPNO/CTIO/NOIRLab/NSF/AURA; Image Processing: T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab), M. Zamani (NSF NOIRLab) & D. de Martin (NSF NOIRLab))】 暗い小さな銀河が初期宇宙を理解する助けになるかも?この天体の名前は「Sculptor A(ちょうこくしつ座A)」。画像を公開したアメリカ国立科学財団(NSF)国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)によると、約440万光年先にあるSculptor Aは銀河の一種である「超低輝度矮小銀河(※1)」に分類されています。
※1…Ultra Faint Dwarf Galaxy、超低光度矮小銀河とも。
矮小銀河は小規模な銀河の総称で、その中でも超低輝度矮小銀河に分類されるものには通常数百から数千程度の恒星しか含まれていないといいます。私たちが住む天の川銀河には約2000億個の恒星が存在すると言われていますから、同じ“銀河”といっても規模の違いは歴然です。
ちょうこくしつ座ではSculptor Aの他にも超低輝度矮小銀河が2つ見つかっていて、それぞれ「Sculptor B(ちょうこくしつ座B)」および「Sculptor C(ちょうこくしつ座C)」と名付けられています(地球からの距離はSculptor Bが約809万光年、Sculptor Cが約665万光年)。
【▲ ちょうこくしつ座で見つかった「Sculptor B(ちょうこくしつ座B)」(Credit: DECaLS/DESI Legacy Imaging Surveys/LBNL/DOE & KPNO/CTIO/NOIRLab/NSF/AURA; Image Processing: T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab), M. Zamani (NSF NOIRLab) & D. de Martin (NSF NOIRLab))】これら3つの銀河はアリゾナ大学の天文学者David Sandさんを筆頭とする研究チームによって、チリのセロ・トロロ汎米天文台にあるブランコ4m望遠鏡に設置された観測装置「ダークエネルギーカメラ(DECam)」の観測データから発見されました。
NOIRLabによると、3つの超低輝度矮小銀河は大きな銀河の影響を受けない、孤立した環境で見つかったことで注目されています。天の川銀河のように大きな銀河が近くにあると、その重力や大きな銀河を取り巻く高温ガスの作用によって超低輝度矮小銀河からガスが剥ぎ取られてしまい、進化に影響を及ぼす可能性があるからです。
研究チームがチリのセロ・パチョンにあるジェミニ天文台の「ジェミニ南望遠鏡」による観測データを分析した結果、孤立しているにもかかわらずSculptor Aなど3つの超低輝度矮小銀河はガスが枯渇していて、非常に古い星しか含まれていないことがわかりました。ガスは星の材料ですから、これらの小さな銀河ではずっと昔に何らかの理由で星形成が抑制されたと考えられます。
【▲ ちょうこくしつ座で見つかった「Sculptor C(ちょうこくしつ座C)」。中央の明るい輝きは偶然重なって見えている天の川銀河の星(Credit: DECaLS/DESI Legacy Imaging Surveys/LBNL/DOE & KPNO/CTIO/NOIRLab/NSF/AURA; Image Processing: T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab), M. Zamani (NSF NOIRLab) & D. de Martin (NSF NOIRLab))】超低輝度矮小銀河は質量が小さく重力が弱いため、様々な影響を受けて失われていくガスを留めておく力も弱いことになります。大きな銀河から離れているSculptor Aなどの場合、「宇宙の再電離(※2)」が起こった時に紫外線によって失われたか、超低輝度矮小銀河の内部で発生した超新星爆発によって放出された可能性が指摘されています。
※2…ビッグバン直後に電離していた水素が中性水素ガスになった後、初代の星が放射した紫外線によって再び電離した出来事。
仮に再電離によってガスが失われていた場合、初期宇宙に関する何らかの手掛かりが得られる可能性もあります。ただ、そのためには3つの超低輝度矮小銀河だけでは不十分であり、数百個程度を対象に影響を受けた割合を調べられれば良いとSandさんはコメント。極端に暗い矮小銀河の探索を加速させるため、研究チームは発見した超低輝度矮小銀河を使ってAIをトレーニングしており、自動化されたツールによる発見の加速化が膨大なデータセットをもたらすことに期待を寄せているということです。
ちょうこくしつ座で見つかった3つの超低輝度矮小銀河の画像はNOIRLabから2025年1月15日付で公開されています。
見えますか? 最近発見された“くじら座”の超低光度矮小銀河(2023年2月7日)
Source
NOIRLab - DECam and Gemini South Discover Three Tiny ‘Stellar-Ghost-Town’ Galaxies Sand et al. - Three Quenched, Faint Dwarf Galaxies in the Direction of NGC 300: New Probes of Reionization and Internal Feedback (The Astrophysical Journal Letters)文・編集/sorae編集部
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