土星の環は「若く見えている」だけ? 環の年齢の新たな推定
sorae.jp / 2025年2月6日 21時36分
壮大な「土星」の環はいつ形成されたのでしょうか?近年主流なのは、環の年齢は土星本体と比べればかなり若いという説であり、2023年にはおそらく4億年以内に形成されたのではないかとする説が提唱されています。土星の環に降り積もる塵の付着度合いから、何十億年も前に形成されたにしてはキレイすぎるという理由からです。
しかし、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の兵頭龍樹氏、東京科学大学の玄田英典氏、およびパリ・シテ大学のGustavo Madeira氏の研究チームは、この説に異論を唱えました。3氏は土星の環と塵との衝突による相互作用が、土星の環に塵が降り積もるのを妨げることをシミュレーションで明らかにしました。今回のシミュレーションが正しいとすると、土星の環は「若い」のではなく、実年齢より「若く見えている」ことになり、土星本体と同じ約46億歳と考えても矛盾しないことになります。
![図1: 2008年7月23日に土星探査機カッシーニによって撮影された土星。(Credit: NASA, JPL & Space Science Institute)](https://sorae.info/wp-content/uploads/2025/02/Saturn_ring_micrometeoroid_impact-01.jpg)
「土星」は、非常に目立つ環を持つことで特徴づけられています。1610年にガリレオ・ガリレイが環を発見してから400年あまり(※1)、現在では他の天体でも環が見つかっていますが、土星ほど目立つ環は、少なくとも太陽系の中では他に存在しません。
※1…ただし望遠鏡の精度の限界から、ガリレオ自身はこれを環であるとは認識できませんでした。環であると初めて認識されたのは、より精度の高い望遠鏡で1655年に土星を監察したクリスティアーン・ホイヘンスによってでした。
では、これほど壮大な環はいつ、どのように形成されたのでしょうか? 20世紀の末頃までは、環は土星と共に約46億年前に形成されたという考えが主流でした。しかし土星に探査機が送り込まれる時代になると、この考えには徐々に異議が唱えられるようになりました。と言うのは、土星の環はあまりにキレイすぎる、という問題があるためです。
土星の環の主成分は氷である一方、宇宙空間には岩石を主成分とする塵状の物質がわずかに存在します。岩石は氷と比べれば黒っぽい色をしているため、塵が付着すれば環は少しずつ黒ずんでいくでしょう。環を “掃き掃除” する人はいないことから、環の汚れ具合から年齢を逆算することができるはずです。
土星探査機のデータから、環の実年齢は本体と比べてずっと若いという疑いがありましたが、2023年に具体的な年齢を求めた研究論文が出版され、大きな話題となりました。アメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)が打ち上げた土星探査機「カッシーニ」には、土星周辺の宇宙空間に存在する塵の数をカウントする機器が搭載されていました。カッシーニの観測期間中に見つかった塵の数から計算すると、土星の環はどんなに古くても4億年以内に形成され、1億年以内である可能性も十分にあるとする結果が算出されました。
上記と別の研究によれば、土星の環は少しずつ崩壊しており、今から1億年以内に消滅するとする予測もあります。これらの予想を総合すると、土星の環は実際にはかなり不安定であり、46億年の歴史からするとほんの一瞬である数千万年の間に、人類は天文学を発達させ、土星の環を発見したのかもしれません。土星の環が今の一度きりしか存在しないのか、それとも何回も生成と消滅を繰り返したのかは定かではありませんが、これらの説が正しければ、かなり幸運なタイミングであるかもしれません。
土星の環は4億年以内に形成された?土星探査機カッシーニのデータをもとに指摘(2023年5月16日) 環への塵の降り積もりは穏やかではないただし、土星の環の寿命が短く、年齢が若いとする説は、多くの支持を受けているとは言え、異論がないわけではありません。環にまつわる力学は、土星やその衛星による重力や、磁場や電場などの影響、環を構成する物質同士の衝突など、非常に複雑な状況を解読しないといけないため、環の安定性について理解されていることは少ないからです。また、環の汚れ具合から年齢を推定する方法についても、以前から似たような説が提唱されており、異論がなかったわけでもありません。
今回兵頭氏ら3氏が行った研究は、「環に塵が降り積もる速度の見積もりが早すぎるのではないか?」とするもので、2023年の研究に対する直接の反論となります。3氏は、環と塵との衝突が、最終的に塵の付着を防ぐような作用を起こすのではないかと予測しました。
![図2: 土星の環に塵が降り積もると言っても、その相対速度は約30km/sにも達します。このため、1万℃以上の温度と100万気圧以上の圧力が発生します。(Credit: Ryuki Hyodo, Hidenori Genda & Gustavo Madeira)](https://sorae.info/wp-content/uploads/2025/02/Saturn_ring_micrometeoroid_impact-02.jpg)
先ほど、環に塵が “降り積もる” と表現しましたが、実際にはそれほど穏やかな相対速度ではなく、約30km/sにもなる高速での衝突となります。衝突現場は局所的ながら1万℃以上の高温を発するため、氷どころか塵の岩石成分すらも蒸発します。熱の発生量はとても少なく、蒸発した岩石はすぐに冷え固まりますが、衝突前よりずっと細かい粒子となります。
衝突現場では、岩石の粒子は高温で発生した水蒸気の勢い(14km/s以上)で吹き飛ばされやすくなります。また、衝突による一瞬の高温環境に晒されたり、非常に細かい粒になることで、岩石の粒子は電気を帯びやすくなります。電気を帯びた粒子は土星の強大な磁場によって動くため、土星の環から離れ、土星本体に衝突するか、もしくは土星を飛び出しやすくなります。つまり、塵が衝突しても、単純に環に沈着するとは言えないということになります。
土星の環は「若く見えている」だけ?3氏はこの仮説を立証するため、氷と岩石の粒子が衝突した際の環境と、電気を帯びた岩石の粒子が土星の磁気圏でどのようにふるまうのかをコンピューターシミュレーションで推定しました。
その結果、土星の環に塵が付着する速度は、2023年の研究と比較すると10分の1以下になることが推定されました。これは土星の環の汚れ具合を元に年齢を推定する方法に直接的な影響を与えます。結局のところ、土星の環の年齢は「若い」のではなく「若く見えているだけ」という可能性があることになります。
今回の推定結果が正しい場合、土星の環の形成年代は4億年前よりずっと古く、土星本体が誕生した約46億年前だとしても矛盾しないことになります。土星の環の実年齢がどれくらいなのか、結論を出すのはもう少し先になりそうですが、どちらも科学的に妥当な検討をしながらも、完全に対立する結果が出てくることもあるのが、科学の面白いところであるともいえます。
Source
Ryuki Hyodo, Hidenori Genda & Gustavo Madeira. “Pollution resistance of Saturn’s ring particles during micrometeoroid impact”.(Nature Geoscience) Sascha Kempf, et al. “Micrometeoroid infall onto Saturn’s rings constrains their age to no more than a few hundred million years”.(Science Advances) James O’Donoghue, et al. “Observations of the chemical and thermal response of ‘ring rain’ on Saturn’s ionosphere”.(Icarus) J. H. Waite Jr., et al. “Chemical interactions between Saturn’s atmosphere and its rings”.(Science)文/彩恵りり 編集/sorae編集部
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