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惑星形成モデルの見直しも? ウルトラホットジュピターWASP-121bは予想外の場所で誕生した可能性

sorae.jp / 2025年2月5日 21時42分

こちらは「とも座(艫座・船尾座)」の方向約880光年先の恒星「WASP-121」と太陽系外惑星「WASP-121b」の想像図です。WASP-121bは直径が木星の約1.8倍ある巨大ガス惑星だと考えられていて、直径が太陽の約1.4倍あるWASP-121の周りを約1.3日で1周できるほどの近さで公転しています。

太陽系外惑星「WASP-121b」(左)の想像図(Credit: NASA, ESA, Q. Changeat et al., M. Zamani (ESA/Hubble))【▲ 太陽系外惑星「WASP-121b」(左)の想像図(Credit: NASA, ESA, Q. Changeat et al., M. Zamani (ESA/Hubble))】

主星であるWASP-121からWASP-121bまでの距離は、太陽から地球までの距離(約1天文単位=約1億5000万km)の約2.6%しかありません。そのため、WASP-121bは地球の月のように自転と公転が同期した状態になっていて、いつまでも照らされ続ける昼側の表面温度は2000℃を大きく上回っているとみられています。

アメリカ国立科学財団(NSF)国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)によれば、WASP-121bでは昼側から闇に覆われ続ける夜側に向かって猛烈な風が吹いていて、昼側で蒸発した後に夜側へ運ばれて凝縮した金属が雨として降っているとも考えられているほどです。極端な高温にさらされることから、こうした巨大ガス惑星は「Roasting Marshmallow(焼きマシュマロ)」とも呼ばれるとNOIRLabは紹介しています。

ウルトラホットジュピターWASP-121bはどうやって誕生したのか?

公転周期が10日を下回るような太陽系外の巨大ガス惑星は「ホットジュピター(hot jupiter)」と呼ばれていますが、そのなかでも表面温度が2200ケルビン(1930℃)以上に達するものは「ウルトラホットジュピター(ultra-hot jupiter)」とも呼ばれています。2016年に発見が報告されたWASP-121bは良く研究されたウルトラホットジュピターのひとつとして知られています。

太陽系にはホットジュピターに相当する惑星は存在しません。巨大ガス惑星である木星と土星、巨大氷惑星である天王星と海王星は、いずれも太陽から離れたところを公転しています。ホットジュピターやウルトラホットジュピターも木星などと同様に主星から離れた場所で形成された後、他の惑星との重力を介した相互作用などの影響を受けて、主星の近くを公転する軌道まで移動したのではないかと考えられてきました。

ところが今回、アリゾナ州立大学の大学院生アシスタントPeter Smithさんを筆頭とする研究チームがWASP-121(主星)の向こう側に隠れる前後のWASP-121bを観測し、そのデータを分析したところ、形成された場所に関する予想外の発見がもたらされたといいます。Smithさんはホットジュピターやウルトラホットジュピターの大気の観測を通じてその形成を研究するプロジェクト、その名も「Roasting Marshmallows Program(焼きマシュマロプログラム)」のメンバーです。

誕生する惑星の性質を左右する要素のひとつ「スノーライン」

惑星は若い星を取り囲むガスや塵(ダスト)の集まりである原始惑星系円盤の中で形成されると考えられています。誕生する惑星の性質を左右する要因のひとつとされているのが、形成される場所。同じ円盤内でも星から遠く離れた場所では木星のような巨大ガス惑星が形成されるのに対して、星に近い場所では地球のような岩石惑星が形成されると考えられています。

こうした違いを生み出しているのは温度です。惑星の材料である塵の成分は、岩石と、水や二酸化炭素などの氷です。星から遠くて温度が低い場所では岩石とともに氷が集まることで重い原始惑星を形成できるため、木星は周囲のガスを取り込んで巨大ガス惑星にまで成長しました。一方、星に近くて温度が高い場所では氷は昇華して気体になってしまうので、地球は巨大な惑星にはならず、岩石を主体とする小さめの惑星になった、というわけです。

星の周囲で氷が気体になるかどうかを左右する温度の境界線はスノーライン(雪線)と呼ばれていて、惑星の形成では特に水分子の雪線が注目されます。ざっくり言えばスノーラインの外側では巨大ガス惑星、内側では岩石惑星が形成されやすいことになります。

星の周囲に存在する岩石や氷の状態が変化する境界線を説明した図(英語)。星から最も遠い領域(右)では岩石と氷がどちらも固体として存在し、スノーラインよりも内側の領域(中央)では岩石は固体のままだが氷は揮発して気体になる。さらに星へ近づいた領域(左)では岩石も気体になる(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/P. Marenfeld)【▲ 星の周囲に存在する岩石や氷の状態が変化する境界線を説明した図(英語)。星から最も遠い領域(右)では岩石と氷がどちらも固体として存在し、スノーラインよりも内側の領域(中央)では岩石は固体のままだが氷は揮発して気体になる。さらに星へ近づいた領域(左)では岩石も気体になる(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/P. Marenfeld)】 WASP-121bはスノーラインの内側で形成されたのかも?

ここで、今回の主役であるWASP-121bを思い出してみましょう。ウルトラホットジュピターであるWASP-121bは巨大ガス惑星ですが、水のスノーラインよりもずっと内側を公転しています。矛盾する存在に思えますが、スノーラインの外側で形成された後に現在の軌道まで移動したと考えれば、主星の至近を公転する巨大ガス惑星を説明できることになります。

しかし、Smithさんたちがジェミニ天文台の「ジェミニ南望遠鏡」(チリ)で取得したWASP-121bの観測データを詳しく分析し、その組成から岩石と氷の比率を求めたところ、氷に対して岩石がより多く存在する場所で形成されたことを示唆する結果が得られました。言い換えれば、WASP-121bは巨大ガス惑星でありながら、水のスノーラインよりも内側で形成された可能性が示されたことになります。

Smithさんが「私たちの測定結果は従来の見解を再考する必要があることを示唆しており、惑星形成モデルの見直しが求められるかもしれません」とコメントする、今回の“焼きマシュマロプログラム”の成果。今後は他の惑星系にも拡大して調査を行い、ホットジュピターやウルトラホットジュピターの大気を幅広く調べることで、巨大ガス惑星の形成に関する理解がさらに深まることが期待されています!

ホットジュピターに進化しつつある巨大ガス惑星の2例目を発見か 極端に細長い軌道を公転(2024年7月25日) 「ホットジュピター」は “孤独” ではない? 従来の惑星形成論に異を唱える結果(2023年7月2日)

 

Source

NOIRLab - IGRINS on Gemini South Detects Surprising Signatures in Dynamic Atmosphere of Exoplanet WASP-121b Smith et al. - The Roasting Marshmallows Program with IGRINS on Gemini South. II. WASP-121 b has Superstellar C/O and Refractory-to-volatile Ratios (The Astronomical Journal)

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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